第20話 確かな進歩 ④
『あ、正確には右足の付け根、鼠径部だな。太ももの上、股間のすぐ隣だからパンツを脱がす必要はないぞ、よかったな』
「何も良くねぇんだよ! ブン殴るぞ♡」
『こわい』
正直いますぐ通話を切ってやりたい気分だった。
でもコイツがふざけてモノを言ってるわけじゃないことは理解しているから切るに切れず、端的に言って地獄でしかない。
『寄生されてる人間が極度の興奮状態に陥ると、太ももの付け根に変なアザが浮かび上がってくる』
「うん」
『で、そこに唇で接触するとビーストが気味悪がって、宿主の体から出ていくらしい』
「それを発見した先人の偉大さに感服しました」
危機に陥った人間は助かる為なら何でもやるんだなぁ、というのが分かってしまった。
大切な人を救うためなら恥すら厭わないその覚悟、あまりにも美しい。ぜひとも真似したくない。遠慮したい。
『つまりお前はこの三人のうち、最も怪しいヤツを極度の興奮状態にさせて、それから鼠径部にキスをする必要があるってわけだ。世界を救うためにな』
「……文句を言ってる暇がないのは分かるが、俺の気持ちも察してくれよ、親友」
『あぁ、どうやって極度な興奮状態にするかってことか? えっと、失禁するくらいの恐怖に陥らせるか、信じられないくらい性的に興奮させるか、だな!』
「そうじゃなくて」
やばいこいつ話が通じねぇよオイ。
疲れすぎてんのか、内股にキスをするという行為の異常性に気がついてない。たすけて……。
「なるほど。分かりやすく言うと、タイガはこの三人の誰かをメロメロに攻略して、警戒されないよう性行為にかこつけて鼠径部にキスをしなければならない、ということです。当たりが出ればその一人で終了。外れたら最大で三人全員を攻略する必要があるわけですね」
『そういうことだ柏木! ここにきて分かりやすくエロゲっぽくなってきたじゃん! 頑張ろうぜ!』
「通話、切っていいか?」
『あっ、結構ガチで怒ってる……すまん……』
もうエロゲ云々で茶化すことができないレベルで、俺の目の前には世界の命運をかけた、本物のエロゲーが開催されてしまったのだ。いますぐ閉会させたい……。
状況的には腹を括るしかないんだろうが、こんな事を今すぐ理解して頷けるほど、俺は主人公適性が高いわけではない。
こんなことなら初日に学園を追放されて、山田と役割を交代しておけばよかった。エロゲというより無理ゲーだ。
「タイガ、通話画面を閉じて左上のアプリを起動してみてください」
「……なにこれ」
三春:10
冬香:35
秋乃: 2
意味が分からない。
「ヒロインの好感度確認アプリ~」
「ひみつ道具みたいに言われても……」
『それはお前への言動や一緒にいる時の体温の変化で、ヒロイン三人の好感度数値を随時更新するアプリだ。件の協力者の少女に作ってもらった。最大で100な』
「…………」
あー、やばい。
いろんな話を聞きすぎて、あまりにも無茶ぶりが多すぎて、そろそろ現実逃避モードに入るわコレ。
「……ロボの好感度がないよ」
「ナビゲーターを攻略できるわけないでしょう」
「今日、とっても優しくされて俺はもうお前にゾッコンだ。地平の彼方まで一緒に逃げよう」
「私たちが水分補給をしたのは三日前ですよ。しっかりしてくださいタイガ」
もう無理だ。話を聞くのも疲れたし自室に戻ろうかな。もう三日ぐらい寝込みたい。
『……俺もこっちでいろいろ頑張るからさ。さっさと世界を救って一緒に向こうへ帰ろうぜ、柏木』
「……はぁ。……分かったよ、やるだけやってみる」
どうせここで駄々をこねたところで何も変わりはしないのだ。
もう既にあの少女たちとも縁を繋いでしまった事だし、彼女たちを見捨てないためにもあともう少しだけ踏ん張ってみよう。がんばれ俺。
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好感度一覧
三春:10
冬香:35
秋乃: 2
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