第17話 確かな進歩 ①
ふと、意識が覚醒した。
薄暗い。
分かることは、少なくとも俺は仰向けに倒れているということだけだ。
床が冷たい。
手足を動かそうとしたものの、思い通りに動かなくてもどかしい。
なんだ。俺いま、どうなってんだ。
「おはようございます、タイガ」
「……ロボ?」
ひょこっと視界にロボの顔が。
「……どういう状況だ?」
「いろいろ端折って説明すると、私がタイガに膝枕してます」
「情報量が少なすぎる……」
飄々とした態度のロボに対して、いつもならもう少し食って掛かるはずなのだが、なぜだかひどい倦怠感が抜けなくてボソボソとした声しか出せない。
口以外は動かすことがあまりにも億劫で、正直に言えば喋るのもかなり面倒くさいというか疲れる。
「長くなっていいから、説明をくれ」
「はい。といってもそんなに難しい状況ではありません」
ロボはそっと俺の頭を撫でながら語り始める。
こうして下から見上げてみて分かったが、ロボって本当に人間と遜色ない姿してんだな。ぶっちゃけかわいい。さすがオマージュ元があの美少女博士ってだけのことはある。
……何でロボのこと考えたんだ。疲れすぎだろ俺。
「人のいない市街地での大規模戦闘が始まりまして、事前に用意してたタイガの作戦を実行。すごーく上手いこと作戦が進んで、私の見た限りでは死傷者を出さずに勝利しました」
あぁ、そうか。
そういえば今日は大事なイベントがある日だったんだ。
脳内がゴチャゴチャしていて前後の記憶が曖昧になっていた。
でも、勝ったんならよかった。
「しかし戦闘終了後、倒し損ねた一匹のビーストが女子生徒を奇襲しまして。それを庇ったタイガはバケモノと一緒に、戦闘の余波で倒壊したビルの下敷きになりました』
「……だからいま、こんな瓦礫の山の中にいるのか」
暗くてほこり臭くて、床はゴツゴツしていて冷たい。
休憩するには最悪な場所だ。
『はい。ですが幸いにもうまい具合に隙間ができて、そこに落ちたので助かった感じですね。もっとも自力での脱出はできませんが……。こうして暗い空間を照らしてるのは、私が持ってた非常用の懐中電灯です』
言い終えたロボは懐からハンカチを取り出し、この暗くてクソ暑い瓦礫の中で、汗だくになっている俺の頬を拭いてくれた。
話を聞いてようやく理解したが、俺めちゃくちゃ死にかけてんじゃん。よく五体満足で生き残ってんな。
「どうやら頭を打って記憶が混濁しているようですね。先に伝えておくと、タイガは五体満足と言えるほど軽傷ではありません」
「おれ、重傷者なのか」
「そうですとも。バッタの力での長距離跳躍移動を十五時間以上も続けていたせいで、両足首の骨には
そう言われてみたら両足が全く動かないことに気がつく。
倦怠感で動かすのが面倒だったのではなく、物理的に動かないというのが真相だったようだ。
骨折でも多少は動かせるはずだが、痛みを感じたくないせいか足を動かす気にはならなかった。
「それから女子生徒をビーストの攻撃から庇った際に、左腕を折られてます。こっちは罅とかではなく完全に粉砕骨折」
「いたいいたいいたい」
「鎮痛剤が効いてるはずです。折れてることはあまり意識しないで」
「……まだ怪我した部分あったりする?」
「えと……右の目が失明してますね」
「泣きそう」
もうほとんど瀕死じゃねぇか。
というかこんなボロ雑巾みたいになるまで戦ってたのか俺。怪我を気にしないで戦い続けるとかバーサーカーかよ。
「記憶が飛んでる時点で、脳へのダメージも酷いんです。安静にしてください」
「……で、でも学園の生徒は無事なんだよな? 怪我人は出なかったんだよな?」
「街一つを使った大規模な戦闘ですから、残念ながら怪我人は多数です。あくまで重傷者が出なかっただけです』
終わった……怪我人が出た時点で冬香が課した条件は破られて、俺は学園から追放される。
「アレだけの成果なら冬香も一考してくれると思いますよ。普通なら死人が二桁くらい出ていてもおかしくない戦闘でしたし……タイガは、とてもよく頑張りました』
普段は呼吸をするように煽ってくるメスガキロボットが、なんだか凄い柔らかい声音で語り掛けながら、膝枕した俺の髪を撫でてくれている。
なんだどうした、優しすぎるぞ。変なモンでも食ったか。
「エリカは失明せず、死傷者もゼロ。結果だけ見れば英雄ですよ貴方は。これでグランドルートへの道へ一歩近づきましたね」
「……とても俺だけでカバーできる範囲じゃなかった気がするんだが」
瓦礫だらけな無人の市街地を丸ごと使った戦いだったのなら、作戦があったとはいえ俺一人でフォローしきれるとは思えない。もしかしてロボが気休めで俺に言ってるだけなんじゃなかろうか。
「それは……大道三春がカバーしてくれていたんです。まるで未来でも見えているかのように、敵の出現する位置を把握していました。タイガの立てた作戦の穴を埋める感じで」
「……三春のやつ、やっぱなんかあるだろ」
「ええ、間違いないかと」
不審者でしかない初対面の男の俺を庇った事や、天真爛漫なはずの彼女にしてはどこか翳りがちな表情が多いことなど、不審な点を挙げればキリがない。
「でも味方ですし、ミステリアスなのもヒロインっぽくて良くないですか」
「そういうお前のポジティブさは素直にすげぇと思うよ」
敵対していないのだから、そこまで警戒する必要はない──というのは一理ある。彼女の今までの行動はそのほとんどが俺を手助けしてくれるものだったし、完全に味方に引き込むのなら一度きちんと話をするべきだろう。
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