第16話 メインヒロイン、1号 ②



 ──怖い、って何の話だ。


「明日死ぬかもしれないのよ? もし生き残ったとしても、生徒たちが大怪我をしたらあなたは学園から去らなければいけない。……その条件を、わたしは変えるつもりがないのに」


 少しだけ俯いてボソボソと喋る冬香。

 もしかしなくても彼女は驚くほどのお人好しだったようだ。

 妄言にしか聞こえない事を信じさせようとしてくる、女子高に侵入してきた不審者の俺に対して、重い条件を課したことに少し負い目を感じているらしい。聖母かな?

 そんなにクソ優しいならお前が主人公やっても問題ないよ。もうね、好き。俺もお姉さまのハーレムに入れてください。

 

「まぁ何とかなるだろ。……フッ、俺には未来が見えるからな」

「本当に痛々しい人ね、あなたは」


 冬香が苦笑いした。かわいい。

 だが茶化さないとやってられんのだ。こちとら美少女と同室で常にドギマギしてるのだから。こいつほんと顔が良いな……。


「一応あなたの言われた通りの作戦でいくけれど、信憑性に疑いが出たら即座に撤回して、あなたのことは助けないから。そのつもりでいて頂戴ね」

「えぇっ!? そ、そんな……」

「えっ。……ちょ、ちょっと、そんなに落ち込まないでよ!」


 凄いなこの女、チョロすぎる。

 弱みを見せたらコレだもんな。


「ウソだよ。まぁ信じる信じないは好きにしてくれ。俺は俺でがんばるから」

「バカね。……一人で出来ることには、限界があるわ」

「ならやばいときは助けてくれよ。俺たちルームメイトだろ?」

「……本当にバカなんだから」


 仕方なく笑った冬香はそっぽを向いて、寝る支度を始めてしまった。

 ──うおぉ、今のめっちゃ主人公とヒロインのやり取りっぽくね? もしかして俺、エロゲの主人公の適性があるのでは。やる気に満ち溢れてきたわね。

 

「寝っか。ロボ」

「はぁい」

「ちょっ、交際もしてない男女がくっ付いて寝ていいわけないでしょ!」

「私、ロボットですけど」

「関係ないから。ほら、あなたはわたしのベッドで寝なさい」

「ぴ、ピンチですタイガ。ついに私も冬香に食べられてしまいます……! ロボット差別しない優しさで私を落とそうとしています~ッ」

「わたしの事なんだと思ってるのよアンタは!?」


 うるせぇな早く寝ろよポンコツども。





 そして新しい朝が来た。


「ひぃっ……、ぼ、勃起してるぅ……わたっ、わ、わたしっ、犯されちゃうぅ……ッ!」


 寝坊した俺の布団をはぎ取った冬香が、自然な朝の生理現象でテントになっているズボンを見て、しりもち着いてひっくり返っていた。スカートめくれてパンツ見えちゃってますよ、お嬢さま。


「やっぱりケダモノだったのね……っ!」

「ツッコむのも疲れるんだけど」

「突っ込む!? な、なんてえっちなっ、信じられない!」

「もう逆になんか面白くなってきたな」


 ことごとく俺の想像の斜め上を行く安代田冬香。おもしれー女だわこいつ。


「うぅっ動かないで! ほっ、他の生徒を襲う前に柏木くんを殺してわたしも死ぬ……!」

「わっ!? バカ! 刃物向けるなっ!!」

「朝から愉快ですね貴方たち」


 そんなこんなで超重要な決戦の日が、あまりにもグダグダな状態で幕を開けたのだった。


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