第13話 私も知らない謎の青年 ①
人類が敗北した未来──あたしにはその記憶が残っている。
大道三春。
女。
百合ヶ崎女学園、一年。
まだ中学生だった頃に安代田冬香という少女に助けられ、彼女の様になりたいと夢を抱き、アルレイド専門教育機関百合ヶ崎に入学。
アルレイドとは、突如世界中に出現した怪物たちと戦う戦士の名だ。
人類の敵──ビースト。
ヤツらの生命活動を完全に停止させるためには、現代の兵器だけでは足りない。精霊と呼ばれる超常の存在の力が必要で、それを用いて奴らの体内に存在するコアを破壊することで完全に息の根が止められる、とされている。
先の戦いで多くの人々が命を燃やし、その”時間稼ぎ”の甲斐あって研究が進み、人類は精霊システムと対バケモノ用兵器であるギアの開発に成功した。
精霊と契約できるのは十代から二十代前半までの女性だけであり、世界の命運は年端もいかない少女たちに託されることになったのだ。
そんな世界で、あたしは必死に抗い戦った。
憧れた人は心に深い闇を抱えていて、あたしはそれを受け入れ手を取り合うことで絆を紡いだ。
大切な仲間たちが次々に増えていって、彼女らが危機へ陥るたびにあたしは強くなってみんなを死から遠ざけた。
力及ばず守れなかった人もいた。
彼女は親友だった。
その犠牲を糧にまたひとつ強くなっていった。
戦って、戦って、戦って。
気が付けば英雄になっていた。
遥か古代に封印された伝説の精霊と契約し、名実ともに最強となり、学園やひいては世界を救った。
まだすべてが終わったわけではないが、あたしたちはきっと明るい未来を手に入れられる──そう思っていた矢先の事。
【ころして】
仲間の一人が狂った。
いつの間にかビーストに寄生されていたのだ。
後ろを振り向けば、何人もの仲間が冷たくなっていた。
【わたしは わたしじゃない】
あぁ、彼女は誰だったか。
【おねがい、ころして──】
おぼろげだが、これだけは憶えている。
あたしは彼女を殺せなかったのだ。
そして人類は破滅した。
ビーストたちは驚異の速さで寄生と増殖を覚え、打開策を講じる前に人間は負けた。
あたしがあの時彼女を殺していれば人類は負けなかった。
世界中の人々を殺したのは間違いなく自分だった。英雄なんかじゃ、なかった。
当然あたしも寄生されてしまったが、強力な精霊の加護の影響か、自我だけはいつまでも保っていた。
肉体が既に死んでいようと、彷徨うビーストの体の檻の中に、あたしの魂は囚われたままだった。
滅びた世界を眺めながら狂うことも許されず、ただ茫々と暗闇を歩き続けていた。
しかし──世界は急変する。
周りの景色が移り変わっていく。
死んだ人間が蘇り、崩壊した街が再生していく。
そうか、誰かが時間を巻き戻しているんだ。
あたしが契約したものとは違う、もう一体の伝説の精霊。
アレの力を借りることができれば確かに可能だ。
ナイス。ファインプレー。誰だか知らないが、あなたは人類の救世主だ。
バケモノになり人殺しをしても砕けなかった精神は、あたしに希望を抱くよう強要する。
負けるな、という呪いの言葉を刻み込んでくる。
楽になることなどできない。強くてニューゲームだ。今度こそ世界を救えと誰かが言っている。
だが──もう、疲れた。
寄生された犠牲者は誰だったっけ。
記憶もあいまいなこの状態じゃ、前回よりもドジを踏む気しかしないよ。
どうしてあたしだけ覚えているんだろう。忘れて楽になりたいなぁ。
どうせみんな前と同じ行動しかしないんだから、きっと無理だよ。
あきらめよう。
止めちゃお。
もう、いいから。
『どうすればっ♡♡♡♡ いいんだよっうぉ゛っあっぶね♡♡♡♡♡』
──あれ?
『んぉ゛っ♥ んひぃっ♥♥』
……。
『はっ、はし、走りすぎて息切れてっ♥♥♥ 咳がとまらなっ、あひィっ♥♥♥♥』
……こんな子、いたっけ?
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