第11話 合法ロリ先輩 ①
学園内、とある研究室にて。
「いいこと? わたしが戻るまで絶対にこの部屋から出ちゃダメよ、わかった?」
「は、はーい……」
付き添いの冬香が薄暗い部屋から退出し、研究室の中には女子に変身した俺ともう一人の少女だけが残ることになった。なんかいろいろ誤魔化してたけど冬香あれただのトイレだな。最初からそう言えばいいのに。
さて、あの主人公のヒロインこと安代田冬香に、二週間の在籍許可をもらってからはや二日が経過したわけだが、学内を見て回っている時に気になった場所があったため冬香に言って寄ってみたのがここだ。
冬香も俺との生活には少し慣れてきたようで、こういった多少のワガママは見逃してくれるようになった。いい子なのかチョロいのか。
ともかくこうして──
「うわっ!?」
なんか急に変身が解けて男に戻った。
その直後、ネックレスがヒト型のロリっ子に変形する。
「は、はっ、博士~ッ!」
そして彼女──ロボは自らの生みの親である少女こと、博士に思い切り抱きついたのだった。
ロボを作ったのはあの博士と呼ばれている少女で、結果的に言えば俺と友人の山田をこの”輝く翼のアルレイド”の世界に連れてきた張本人は彼女ということになる。
博士を模したコピーロボットが俺の相棒だ。あぁして普段は無表情な煽りカスのロボが、子供のように甘える存在がいたとしても別段驚きはない。ロボからすれば彼女は母親も同然なのだ。
いままでの経緯から察するに、以前の世界線では博士とは死別してしまったのだろう。涙のように目からオイルが漏れ出てしまっている。
「博士ぇ……あ、この匂い、心が安らぐ……」
「ふむ、困った子ですね。本当にこの子が未来で僕が作った最高傑作なのですか?」
「……最高傑作かは知らないけど、そいつを作ったのはキミで間違いないと思うよ」
よく考えればかなり異常な状況にもかかわらず冷静な博士に聞かれたため、辟易しながら答えてやった。ぶっちゃけロボはほとんど人間と変わらないくらい精巧に作られた存在なので、ロボ自身が自称していた最高傑作という言葉もあながち間違いではないのかもしれない。
「そうですか。ロボ、あなたは僕の最高傑作なのですね」
「はい。私は博士の研究の真の完成品ですよ」
「僕を模して造られたそうですが、一人称が違うのはなぜですか?」
「博士が私の自我を尊重してくださったのです。もう一人の自分であっても、同一人物ではないと──」
なんか頭のいい奴ら同士で小難しい話し合いが始まってしまった。俺では割り込めなさそうだ。
(……あの博士って少女、どういう人物なんだろうか)
ふと考えてみる。
俺が見ていたアニメこと輝く翼のアルレイドには、あの博士という少女は登場していなかった。
アルレイドはもともと博士が遺した記録データを元に制作されたアニメだ。
アニメの原作であるデータの中に肝心の執筆者本人である博士の情報が載っていなかったらしく、そのせいでアニメには登場できなかったのだろう。だからこそ博士というキャラについて俺は何も知らないワケだが。
というか何で博士は自分の事をデータに書かなかったんだ?
聞いてみよう。
「なぁ、博士……さん? 何で自分の情報だけを残さなかったんだ?」
「だってここ、百合の花園ですよ?」
何を言ってんだコイツは。
「いいですか。百合の間に挟まる男は断罪されますが、女もまた然りです。男女関係なく百合の間に挟まる事は許されないのですよ。たとえ私であっても邪魔するわけにはいきません」
「まったくもってその通りです。もし良からぬことを考えてるようなら許されませんよ、タイガ」
「いやあの、俺ってそこのロボ女に百合の間に挟まって世界を救いましょうって言われて今ここにいるんだけど」
どちらかといえば巻き込まれた側なのに糾弾されるのはあまりにも理不尽だろ。
「な、何ということを。教育が必要ですね、ロボ」
『ひぃ~、ほっぺ引っ張らないでください、はかせゆるして……』
理不尽を許さない人でよかった。博士ちゃん少し見直したぜ。
と、そんなこんなで冬香が退室してからもう十分くらい経過しているのだが、なかなか彼女が戻ってこない。もしかして主人公の大道三春となんかイベントでもやってるのかしら。
「……戻ってこないな、冬香のやつ」
「気になってるようでしたら、冬香ちゃんがいま何をしてるのか調べてみますか?」
「そんなことできんの?」
「こっそり学園中に仕掛けた監視カメラを用いれば」
「えぇ……」
やっぱり博士ちゃんヤバイやつだった。
……少女たちのやり取りを綿密にデータに書き残してたんだから、そりゃ変態なのも当たり前か。いまさらだった。
確かにこの百合ヶ崎学園にレズっ気のある生徒が多く在籍しているのは事実だけど、あのアルレイドっていうアニメも十分に百合成分を盛られた作品だったんだな。
原作者先生がこの通り百合狂いなんだし、あぁいう描写増えても不思議なことじゃない。
「あぁ、そうだ柏木くん。キミはロボと合体して女の子に変身できるんですよね?」
「まあ一応……え、なに?」
「一時的とはいえ肉体を作り変えているんです。おそらく遺伝子にも何らかの変化があるはずなので、あなたの遺伝子情報が欲しいのですが」
「そんなものどうするんだよ……」
「研究ですよ研究。その成果が未来を変える手助けになるかもしれません」
唐突な申し出で驚いたが、あの破滅の未来を回避するためと言われたら協力せざるを得ない。
俺自身の行動だけでなく未来を変えるための種はいろんなところに仕込んでおくべきかな。
「まぁ構わないが……で、遺伝子情報ってどうすればいいんだ。血でも抜くの?」
「医師免許持ってないですし、設備もありませんのでそれはまた今度、知り合いの医者にやってもらいます」
じゃあ髪の毛とかか。必要なら二、三本くらいは頑張って抜くぞ。
「そうですね……じゃあ髪の毛と」
「うん」
「それから唾液と」
「うん」
「精液も頂けますかね」
「うん。……うん?」
聞き間違えかな?
「先に言っておくと聞き間違えじゃないですよ。ビーカーと試験管を用意しますね」
「あ、はーい」
「えっ、たっタイガっ……!? だめですよちょっと博士、ストップ……!」
流されるまま適当に返事をしてたら、ロボが焦って俺を引き離した。ひっぱるなよ痛い。
「なんだよロボ」
「か、髪の毛と唾液はまぁ大丈夫でしょう。しかし最後の部分は許容できかねます」
「やっとエロゲっぽくなってきたのに」
「従わないでください。さもないとあなたを大浴場で男に戻しますよ」
「すいませんでした」
まぁちょっとした茶目っ気だから。
本気になるな、落ち着け、どうどう。
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