第10話 メインヒロインの尋問 ③



「そんな荒唐無稽な話を信じろと……あなたたちは本気で言ってるわけね……ハァ、頭が痛い」

「信じてくれるか……?」


 どうやら冬香はあまり男性に免疫がないらしく男の姿で接するとひどいことになってしまうため、今も女の状態で話している。


 厄介なハートマークを全力で我慢しながら、なんとしても嘘をついていないことを信じてもらうために、俺は超絶真剣な顔で彼女に事情を告げた。


 未来の出来事を知っている証拠として、ずっと部屋の中にいた俺では知りえない今日の情報を(ロボにこっそり教えてもらって)話しもしたのだが……はたして結果はどうだろうか。もちろん裏切り云々は伏せて話したが。


「……信じられないわよ。私じゃなくたって、きっと誰も信じないわ」

「そ、そんな……」


 ダメだったのか。この俺の話術では冬香ちゃんに真剣さを伝えることができなかったか。

 うぐぐ、こんなはずでは。

 世界の命運を背負ったからには簡単な仕事じゃないと、そう腹を括ったつもりではいたがまさかここまで前途多難なハードモードだなんて思ってなかった。


「うぅ……♡」

「……」


 手首を縄で縛られた俺が体育座りのまま顔を落とすと、冬香は心底疲れたように嘆息を吐いた。どうやら俺たちはよっぽど鬱陶しい存在のようだ。当然と言えば当然だが。

 

 ここを追い出されたらどうしよう。

 逃げ出す暇もないまま檻の中にブチこまれるのだろうか。前回のロボのように世界の終わりをただ見ているだけしかできないのか。

 山田はいま何しているかすら分からないし、アイツはアイツでピンチの可能性もあるから頼れない。そもそも連絡する暇もない。


 あぁわかんねぇ。

 俺ってかなり要領が悪いんだな。頭の回転もクソほど遅い。

 物語の主人公ならこういう時は既に解決策を思いついていたりするのだろうか。少なくとも思考放棄寸前の俺と違って、こんな状況でも考えることは止めないと思う。

 悔しいけど力不足を実感した。……少し、心が折れそうになっている。


「……あのね、柏木くん」

「っ?」


 彼女に名前を呼ばれて思わず顔を上げた。確かに名前は把握されていたが、まさか君付けで呼ばれるとは予想だにしていなかった。

 見た目は今でも童顔美少女なのだが、彼女の眼にはその先にある俺の男としての姿が見え隠れしているのだろうか。


「あなたの話って本当に意味不明なの。電波よ電波。きっとこんな話を信じる奴は頭がイカレているでしょうね」

「……そ、そうだな」

「ねぇ」


 彼女は膝をついて迫ってきた。俺の顔に手を添えて──うわちょっと顔近い近い。ていうかすんごい良い匂いするの……。


「わたしもね、イカレてるの」


 急に何を言い出すんだこの電波女は。


「何年前だったかな。一人の女の子を助けるために相棒を見殺しにして、わたしは無様に生きながらえて、翌日の新聞には英雄として祭り上げられたわ」


 急にシリアスになるじゃん。温度差で風邪ひくわ。


 ……えっと、これはアレか、二年前の戦いの事を言ってるのかな。

 たしかギア使用での戦闘成績が優秀だったから入学前にもかかわらず作戦の参加を特別に許可されていて、相棒の女の子と一緒に出撃。


 そこでまだ一般市民でしかなかった主人公の三春と出会って、怪我をしていた彼女を避難所まで送り届けるために、相棒をひとり置いて戦線から離脱した。


 そもそも相棒の女の子に「行け」って何度も後押しされたからそうしただけであって、彼女自身は何も悪くない──とかなんとか、こういう冬香の負の面を支えて攻略するのは本来主人公である三春の役目のはずなんだが。


「……そのイカレてる女なら、あなたの話を信用してもおかしくはないって、そう思わない?」

「……冗談だろ。なんでそんな急に……?」


 このいかにも攻略前っぽい冬香の相手は三春にやってもらわないと困るんですけど! 信じてくれそうな流れには正直歓喜してるけど、冬香の心情の吐露に三春の前に俺が混ざっちゃって、アニメ本編より面倒くさい状況になる気がプンプンするんですけど!


「チャンスをあげるわ。たしか二週間後に大規模な戦闘が起きると言っていたわね」

「そ、そうだけど」

「ならばその戦闘で一人たりとも怪我人を出さないよう働きなさい」

「ヤバいこと言ってる♡♡」


 この女、いま死ぬほど無茶なこと言ってる自覚はあるのか? マジですべての詳細を知っているわけではないし、そもそも知識だけでどうにかなるものじゃないと思うのだが。


「誰も負傷させずに戦闘を完封できたら、未来から訪れたという話も一応信じてあげる。他の生徒や学園長にもあなたの正体は黙っておくわ」

「えっ」


 でも、もし怪我人を一人でも出したら。


「柏木くん。あなたを女子寮不法侵入超ド変態下着泥棒女子大浴場盗撮犯としてお巡りさんに預けるわ」

「全力でやらせていただきます」



 百合女特有の超至近距離会話でチャンスを与えられた俺は大きく宣言し、その日から二週間だけ普通の学園生活を確約されたのであった。

 もちろん冬香の監視付きだが──これ原作通りに危機を乗り越えられるか超絶不安になってきたわね。

 


 ……というか。


「お風呂はともかく、トイレの個室にまでついてくるのやめてくれない……?」

「ダメ。文句を言うようならその無駄にデカい乳を揉みしだくわよ」

「んほぉっ♡♡♡ もう揉んでる♡♡♡ やめろ変態レズ女♡♡♡♡」


 監視にかこつけてセクハラしてくるのどうにかなりませんか!



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