第8話 メインヒロインの尋問 ①



 ──俺は今、尋問されている。


「で、目的は何なの?」

「……」

「どこから来たの、誰かの命令?」

「……」

「っ……何で今更女子に戻ってニコニコしながら黙ってるわけ?」

「……♡」


 首に刃物を当てられながら。これ当ててる本人にその気がなくても、なんかの事故で頸動脈ぶった切って俺コロされそう。


「あぁーっ!! なんか喋りなさいよコラァ! 喋らないと殺すわよ死にたいのえぇ死にたいのねじゃあ殺してあげるわよこの変態ッ!!」

「んひぃぃっ♡ いいっ♡ いはいれすぅ♡ やめへぇ♡♡」

「変に色っぽい声だしてごまかすな!」

「おほォっ!?♡♡♡」

「わっ!? な、なに……!?」


 咳したんだよ! あと頬っぺた引っ張るのやめて! 剣捨てても肉体言語に移行するのはよくないよ!


「何なのよアンタはぁ~ッ!」


 この常時絶頂セリフを吐く状態の原因については俺の方が知りたいくらいだが、まずはこの状況についての説明をしよう。



 百合の花園に突っ込んできた変態暴走車両こと不審者オレは冬香に縄で拘束され、一般生徒たちに存在がバレる前に三春と共に彼女の自室に連れ込まれた。


 いったい私に何をする気なのドキドキっとしたところで、冬香に数週間放置された生ゴミを見るような眼で見られて失禁しそうになった俺は、とりあえず部屋で待っていた相棒ロボと合体して女に戻った。


 とりあえずこれなら第三者が部屋に入ってきたとしても大丈夫だろう──などという冷静な判断をしたわけではなく、単に心細くなっちゃったからロボに頼っただけである。


(裏切者の可能性がある安代田冬香に事情を話すわけにはいきません。なんかこう良い感じにはぐらかしてください)


 とのことだった。つまり解決策はすべて俺に丸投げということである。コイツ海に沈めようかな。


「ぶっ殺すわよ!?」

「ひえぇ……♡」

「まぁまぁ、冬香さんも一旦落ち着いて……」


 なんとか三春のおかげで命拾いはしているものの、いま現在はアニメの一話~二話の間の出来事だ。つまり攻略前だから当然冬香はまだ三春に心を許していないし好感度もさして高くない。だからそれほど三春の発言に力はないということになってしまうのだ。

 でもがんばってくれ百合の輪を外れたエロゲヒロインさん! 死にたくない! 死にたくない!


「っ……だいたいねぇ、あなた──確か大道三春さんだったかしら? 大道さんは何でこの不審者の肩を持つわけ?」

「事情を知る前に排除するのは早計だと思うからです」

「聞いたわよ!? ワタシさっきたくさん聞きました~! こいつが答えないからこうなってるんじゃない! このっこの!」

「あう……♡」


 剣の柄でどつかないで……。


「そ、そうやって剣で脅すから怖がって喋れないんですよ。一旦ギアをしまいましょう、冬香さん」

「あなたにそう気やすく名前で呼ばれるような覚えもないんですけど」

「ッ。……すみません安代田先輩。ともかく、まずは平和に話し合いをですね」



「話は聞かせてもらったァ! 僕も混ぜてもらおうっ!!」



 ばしーんと部屋の扉を勢いよく開けて登場したのは、白衣を着た小柄な少女だ。見た目がロボそっくり。

 おいちょっと待て。待ってくれ。次から次へと面倒ごとが舞い込んできてもう眩暈で倒れそうだ!


(あ、あれ博士です! 生きてる博士です! うわ~~ん博士!! ちょっとタイガ、変身解いていいですか!? 博士に超熱烈な愛情たっぷりの抱擁をしてきてもよいですか!?)

(ややこしくなるから黙ってろ!!)

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