第3話 主要キャラと邂逅 ①
『いいですかもう一人の私、よく聞いて』
はい、博士。
『剛腕な英雄や、頭脳明晰の天才じゃなくてもいいです』
なるほど。
『どうか、心が優しい人間をパートナーにしてください』
承知いたしました博士。
未来を救える、優しいヒトを見つけます。
◆
「……ん、起きたかロボ」
保健室のベッドへ寝かされたあと、バケモノから逃げ続けていた疲労でいつの間にか眠ってしまっていた俺が目を覚ますと、なんと男の体に戻ってしまっていた。
カーテンで仕切られているためこの姿はまだバレていないが、いつの間にかスリープモードになっていたロボが再起動してくれて安心した。気が気がじゃなかったぜ。
『……どうやら女子姿に変身している時は、私とタイガの精神がリンクしているので、タイガが眠ったら私も意識を失うようです。変身が解除された条件はわかりませんが』
「そうか。……なんか寝言っぽいの言ってたけど、ロボットも夢みんのか」
『シリアスな夢を見ていました。機巧少女も夢を見るのです』
ラノベのタイトルっぽいことを言ったロボは一瞬発光し、ネックレスから人型に戻った。質量保存の法則って単語知らなさそう。
「タイガ、あなたは優しい人ですね」
「どしたの急に」
「あなたという相棒に出会えてよかった。タイガ、あなたが私の鞘だったのですね」
「たいして仲を深めてない相手に言うことじゃないな」
「大好きです相棒! 伴侶にしてください~!」
「ちょっ、抱き着くな! 仲良くなる過程を吹っ飛ばすな! なんのイベントも起きてねえぞ!」
何で出会って一日も経過してないのにルートに入ったヒロインみたいに振る舞ってんだコイツは。こっちにだって心の準備ってものが……。
「ちまちま好感度を上げるのダルくないですか?」
「本人を前に言ってる時点でお前への好感度はもうマイナスだよ」
「面倒くさいですね。コレだから童貞は」
「そろそろお前の電源落としていい?」
「あっ、ちょ待って、ごめんなさっ」
しがない大学生だった柏木大河。
毎日を浪費する生活に嫌気が差してきたそんなある日、静寂が支配する闇夜の中で、彼は月明かりに照らされた謎の少女と出会う。その夜から彼の運命は大きく変わるのだった──なんて表現するといかにもエロゲの主人公っぽくなるのだが、現実は語尾にハートつけた変態女に変身して初日からバケモノに殺されかけるという最低なものだった。つらい。
それに加えて一緒に戦うパートナーになるはずの相手が煽りカスのブリキ野郎ときた。もう未来救えないんじゃないかなこれ。
「ビーストは次元を渡る侵略者です。こちらの世界を救わないとあなたの世界も大変なことになるかも」
「それは分かってるんだがな……」
「まぁまぁ、無論お礼も用意しますから。こちらの世界は科学力が段違いですし、タイガが人生逆転できるようなチート機器とかを提供しましょう」
「……はぁ、物で釣られてるようで癪だが……乗り掛かった舟だ。やるだけやってみる」
「お、本当ですか。えへへ、大好きです」
「好きが軽すぎるな……」
これから相棒となる不思議ロボットと一応の口約束だけを取り付けつつ、一呼吸を挟んで現状を振り返る。
さて、とりあえずアニメ一話は半分くらい終わったか。
学内に侵入したビーストを主人公がヒロインと一緒に倒して、いろんなキャラと顔見知りになりつつ入学式をやり直して終了──あとヒロインの闇が垣間見えるけど、視聴者視点だからそれは関係ないな。
……というか。
「アニメがどこまで脚色されてるのか知らないんだが。あれってあくまで博士のデータを参考に作ったアニメなんだよな?」
「大して変わりませんよ。むしろ再現度の高さにビックリしたくらいです」
あまり変わらない、ということはそれくらいデータを綿密に書き記したということだけど……もはやストーカーじみてるな。生前の博士はよっぽど暇だったのか。
──と思慮に耽る暇もないのか、保健室のドアが開かれる音。
「やべっ」
「とりあえず女の子に変身しましょう」
ネックレスに戻ったロボに触れることで水色髪童顔巨乳美少女に大変身。
あくまで主要キャラクターの邪魔にならないよう密かに活動をしなきゃダメなのに、こんなに属性モリモリの姿でいいんだろうか。
とりあえず膝に毛布を掛けてジッとしていると、ついにカーテンが開けられた。
「あっ、よかったぁ。もう目を覚ましてたんだね」
バケモノとの戦いで気絶して保健室へ運ばれた俺の様子を見に来たのは、他でもない主人公の少女だった。
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