16話

 犬小屋に着く頃には、2人は少し落ち着いていた。


「「・・・・・・」」


「とりあえず、今日は休むか」


「・・・・・・ん」


 アレスは自分の部屋に入り、誰も入れないように扉の前で座り込んだ。

 

 顔を逸らして、寝静まるヒバナを見る。


(これはただの悪夢だ)


 アレスは、心のどこかでまだ少し希望を持っていた。

この夢から覚めれば、きっとケロッとしたセーナの顔が見れるだろう。


 そんなことを思っていた。


 奴隷によくあるシチュエーションとはいえ、突然すぎる。

ヒバナとセーナが和解して、これからという段階だった。


 これから、みんなで奴隷を辞めて、

 これから、みんなでサルベージハンターに成るんだ。


 早くこんな夢、覚めてくれ。


 そんなことをアレスは思っていた。


 しかし、そんな思いはすぐに消えた。

聞こえてしまったのだ、ヒバナの鼻をすする音が。


 そこからアレスの涙は決壊した。

頭で理解する前に、心が理解してしまったのだ。


 ここは、夢ではない、現実だと。


 もう見れないのだ。恥ずかしがってるセーナの姿も、かっこよく戦うセーナの姿も、嬉しそうに笑うセーナの姿も、全部。


 セーナは、もう死んでいるんだと。


「セーナぁ、セーナぁ」


 アレスは、掴んでいる毛布を固く握りしめる。


 ヒバナがセーナを助けに行っていれば、セーナは助かったかもしれない。


 その代わりに、ヒバナは死んでいただろう。

アレスは自分が2人の命を天秤にかけて、傾いてしまったことをひどく後悔していた。


 明日、明日までに心の整理をつけておこう。


 明日生きるために我慢しなきゃいけない。

 

感情を出してはいけない。耐え忍べば明日はきっと……。

 私たちにとっての明日はいつ来るの?


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