13話

「本当に、走り切ったの!?」


「……ああ」


「……ん」


 ヒバナたちは、ゴールであった甲板に寝そべっていた。


 沈んだはずの太陽は、もうすでに水平線の上にあった。

 二人は一歩も動ける気がしなかった。


 そうやって寝そべっているときに、セーナに見つかったのだ。


「なぁ、セーナぁ。次の、訓練内容を、教えてくれよ」


「貴方ねぇ!」


「何のことだ? まさか適当な訓練内容を教えたわけでもあるまいしなぁ」


 セーナは、黙ってしまう。

冗談だとわかりながら走ったヒバナはともかく、何も知らずに走り切ってしまったアレスの手前、今更冗談でした。はあり得ない。


 セーナはヒバナを睨みつけるが、そのヒバナはどこ吹く風といった表情をしていた。


「サルベージハンターになるのは諦めるんじゃなかったのかしら?」


「そのつもりだったよ」


「じゃあ、なんで」


「その前に聞いていいか?」


 ヒバナは体を起こして、真面目な顔をする。


「セーナは、サルベージハンターやって時期が確かあったよな」


「……ええ」


「なんで、辞めたんだ?」


「いろいろあったからよ」


「まぁ、過去は詳しく詮索するつもりはないぜ?」


 ヒバナもアレスも奴隷になる前のことは、あまり思い出したくない。

だから、今まで聞かなかった。


「じゃあさ、一個だけ聞いていいか?」


「なにかしら」


「セーナは、サルベージハンターやってて楽しかった時代は本当になかったのか?」


 セーナは言葉に詰まってしまう。


 嘘はもう通用しない。


 ヒバナは真剣にセーナを見つめる。


「別に意地悪で言ったわけじゃないことぐらいわかってる。それに意趣返し出来たからもうなんとも思っちゃいない。だから、本当のことを教えてくれ」


「わかってる癖に、乙女に選択を求めるなんて、いつからそんなにずるい男の子になっちゃったのかしらね」


 セーナは深呼吸をして、日の出を眺める。


「楽しかったわ。毎日が新鮮で、……自由だった」


「じゃあ、なんで……」


「色々あったのよ。本当に色々ね。神様って思いのほか残酷なのよ」


 セーナは、ペンダントを開いて中にある三人組の写真を懐かしそうに見る。


「サルベージハンターって、仲間と別れる要因っていっぱいあるの。一つの重大な秘密とか、一つの失言とか、一つの行いとか。あとはそうね、才能の差とかかしら? 命のやり取りをするのに少しでも信用できない人物は、仲間にはできないっていう世界。だから、バラバラになりやすいの」


 セーナはそのペンダントに一滴だけ涙を垂らす。


「私は、三人でいられれば、幸せに暮らしてればよかったのに。……バラバラになっちゃったわ」


「だから、俺らにはそうなって欲しかったってことか?」


「ええ。そうよ」


「じゃあさ、セーナはなんでサルベージハンターになったんだ?」


「それは、誘われたから……」


「それだけじゃないはずだぞ」


「え?」


「俺だって、アレスに聞く前は気づかなかったが、ちゃんと夢見てたんだろ」


「…………」


「誰よりも応援したんだろ? そいつのこと」


 セーナは、黙ってしまう。

ショーの夢に救われた。だから、叶えてあげたかった。


「俺は、そいつがどういうことを思ってセーナを誘ったのかわかるぜ。多分、俺と同じだからな!」


 セーナは、聞きたかった。

ショーはなぜ、自分たちを選んだのか。それが戯言だったとしても。


「自慢したかったんだよ。『俺は、こんないい仲間に恵まれた』ってな」


 その言葉を聞いて、セーナの涙は一滴では収まらなかった。


「……貴方にショウのなにがわかるのよ」


「ただの俺の考えだ。真偽はわからねぇよ」


「そんなの、そんなの、ショウにしかわからないはずなのに。なんで、こんなにしっくり来るのよぉ」 


「俺の考えじゃ、まだセーナ達はバラバラになってないはずだ。話せば和解できるだろう。だけど、一人じゃ見つけるのに苦労するだろう。だからさ、」


 ヒバナは、セーナに向かって拳を差し出す。


「一緒にサルベージハンターをやろう。セーナとも一緒に一旗打ち上げたいんだ」


 セーナは、泣きながら笑う。


「どこで、そんな口説き文句覚えてくるのよ」


 セーナは、ヒバナと拳を合わせる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「それで、なんの話?」


 置いてけぼりで、拗ねた様子を見せるアレスが単刀直入に聞いた。


「あー、それはな」


「ヒバナ、私が言うわ」


 セーナは、赤裸々と隠し事なしに全部を語った。

ヒバナの知らないセーナ自身の過去も含めて、全てだ。


「改めて、二人ともごめんなさい」


「許さない」


「……そうよね」


「私は最初からセーナも一緒にサルベージハンターになるつもりだったのに、なんで今決まったの」


「そっちかい」


 セーナは、呆けた顔をしていたので、ヒバナは笑う。


「俺の相棒は最高だろ?」


「そうね。最高ね」


 アレスは、セーナの手を掴む。


「今度はセーナも一緒に100km、走ろうね」


「え?」


「俺の相棒最高だろ?」


 ゲラゲラと笑うヒバナが恨めしい。

 アレスは悪意ゼロで言ったため、セーナがなんで動揺しているのか不思議そうにしていた。


「そ、そうね。100kmは今度、走りましょうね」


「絶対走れよー」


「わ、わかってるわよ」


 その光景を見て、愛おしそうに微笑んだ。


「アレスちゃんが……笑った?!」


「よかった。元通りになって」


「それは違うぜ、アレス」


「え?」


「今回のことで、結束力は確実に高まった。つまりは、前より良くなったんだ」


「確かに」


「ヒバナ、臭いこと言うわねぇ。このこのぉ」


「うるせえうるせえ」


 セーナがヒバナの恥ずかしがる姿を笑う。


「今のうちに、サルベージギルド名と決めちゃおうぜ!」


「えー、もう?」


「まぁ、決めてあるんだけどな」


「それ、私たちに決定権ないでしょ。ヒバナはそういうことする」


「当り前だ! 俺がリーダーだ!!」


「それで、ギルド名は何?」


「ああ、それはな……」


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