12話

 私、セーナ・シルビアは子供のころも奴隷だった。


 今と違うのは、私にも仲間がいたということだ。

冷めているショウ・ウィングと真面目過ぎるクリス・ミンドという仲間がいた。


 奴隷の生活は、辛かったけれど二人の仲間がいるおかげでそれなりに楽しかった。


 クールぶっているショーを揶揄ってしっかり者のクリスに叱られ仲直りしたこと。クリスの思いついた新しい遊びをやって主人に死ぬほど絞られたこと。


 そんな様々な思い出が鮮明に心に残っている。


 そんな日常の転機は、一つの憧れだった。


「サルベージハンターになりたい」


 そう、ショウが言った。

私もクリスも心底、驚いた。いつもつまらなそうな顔をした少年の言葉だとは思えなかったからだ。


 驚きはしたが、私はそれを当たり前のように同意した。

それからは遊び暇もなく、必死にお金を集めた。


 目標金額の100万を目指して、どんなこともした。


 だけど、必死で一年集めた金の合計は、雀の涙ほどしかなかった。

サルベージハンターになれるのは、あと何年後なのだろうか?


そういう空気が流れるある日、いきなりクリスが大金を持ってきた。


「ちょっと。このお金どうしたの? クリス」


「ああ、伝手があってな。借りてきた」


「借りたって……。誰が私たちみたいな奴隷に金を貸してくれるの?」


「……」


 クリスの沈黙が答えを出していた。

盗んだのだ。それも、主人たちから……。


「すまん、クリス。こういうのが嫌いなお前にこんなことをさせてしまって」


「気にするな! そんなことより、主人たちにバレる前に早く身代金を提出しちまおうぜ」


 私たちはすぐに奴隷ギルドに自分たちの身代金を提出し、晴れて奴隷の身分から解放されたのだ。


「そんなに嬉しくないな……」


 私は、クリスのそんなつぶやきを聞かなかったことにした。


 それから、順風満帆に事は進んだ。

サルベージハンターになり、色々な遺物を手にし、数々の遺跡を攻略した。


 一仕事終えた後に宴を開いて、三人で昔みたいにバカ騒ぎしたり、星のカーテンに花火を上げたりと、誰よりも自由で、誰よりも楽しかった自信がある。


 切磋琢磨しながら、成り上がっていくのは、とても楽しかった。

 クリスの減ってしまった笑顔も瞬く間に、取り戻していった。


 そんなある日、ショウがまた一つの提案をした。


「サルベージギルドを建てないか?」


 私たちも、それにすぐ同意した。

仲間が増えれば、冒険ももっと楽しくなると思ったからだ。


 しかし、現実は違った。


 私たちは、最も勢いのあるサルベージハンターとして有名だったからか、ギルドメンバ―の応募は殺到した。


 メンバーが増えるたびに、私たちが一緒にいる時間は減った。


そんな毎日が、数年続いたある日、突然。


「なぁ、俺はサルベージハンタ―を辞める」


 クリスが私とショウを呼び出し、そう告げた。

私たちは、なぜかと問い詰めるが「お前らには、話したくない」と言って、出て行ってしまった。


 ずっとクリスと共にいた部下が、何か知っている風だったので、問い詰めたところ。


 大金を持ってきたクリスは、主人からお金を盗むだけではなく、殺しもしていたらしいのだ。罪の重さに耐え切れず、一番に信頼していた部下に打ち明けたところ、「人殺し」を罵られたのだとか。


 ショウがその部下を殺そうとするのを、私は必死に止めながら意外と冷静だった。


 ずっと、考えていたからだ。

有名になった私たちに、主人たちがお礼参りに来ないことを。


 そして、同時に悲しくなった。

なんで、私たちには打ち明けてくれなかったのだろうか、と。


 あんなに真面目で曲がったことが嫌いなクリスが、私たちのために自分を犠牲にした結果を私たちが責めるわけがない。


「こんなことなら、サルベージハンターなんかにならなければ……」


 私は、そう呟いてしまった。ショウが目の前にいるというのに。


「はっ、……ごめんなさい」


「すまん。少し、一人にしてくれ」


 この日を境に私たち3人は、バラバラになってしまった。


「ごめん。私、旅に出るわ」


私は逃げるように、旅へ出ることにした。


「そうか」


 その報告を聞いたショウの反応はかなり淡泊であったが、声が震えているのがよくわかった。


 その旅の先で出会ったのがヒバナとアレスちゃんだ。

 奴隷なのに、やたらと元気で、活発で、ショーと同じ夢を持っていた。


 あまりにも多い共通点に、二人をかつての私たちと重ねてしまった。


 私は、すぐに行動に移った。

二人の主人の仲間を脅し、奴隷にしてもらい、二人と交流を持った。


 私たちは、サルベージハンターになるという夢を持たず、普通に暮らすという選択肢を選んでいれば、バラバラにはならなかっただろう。


 だからこそ、私たちと重なる二人には、絶対にバラバラになってほしくなかったんだ。

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