10話

「それで、どうしたんだ? 色男」


「なんだよ。色男って」


「女を泣かせられるのは、全員そろって色男だよ。お前の名前も知らないしな」


「ヒバナ」


「おぉ、お前がヒバナか。じゃあ泣かせた女の子はアレスか?」


「知ってるのか? 俺らのこと」


「ある伝手でな。誰から聞いたかは秘密だ。俺のことは、大将とよべ」


 大将は、ヒバナの隣に座る。


「で? 色男、女を追わなくていいのか?」


「……久しぶりに見たんだ。あいつの涙」


「それで動けなくなっちまったと。チキンめ」


「うるせぇ」


「すまんすまん。真面目に聞くから」


「……昔は、よく泣く子だったんだ。だけど、ある日「私は、ヒバナを守れるくらい強くなる」って宣言してな。それっきり、アレスは泣かなくなった」


「その子は余程、お前のことが好きなんだな」


「? まぁ、一番の相棒だ」


「そ、そうか……。まぁいいや、そこまで尽くしてくれる子にお前は何したんだ?」


「俺が、サルベージハンタ―になるっていう夢を諦めようとしたんだ。あんなに反対されるとは思ってなかったんだ」


「なんで反対されたと思う?」


「……わからない」


「じゃあ、なんでやめようと思ったんだ?」


「サルベージハンターになる夢を諦めたら、身代金を出してくれる奴がいるんだ」


「なるほどな。そのことを女に言ったのか?」


「ああ。だけど、それはただの前提条件だって」


「あはははは! ただの、ただの前提条件か! その子は大物だな!」


「なんで、アレスは認めてくれなかったんだろう。いつもは、サルベージハンターなんて危ないとか言ってたのに」


「そんなの、……あーいや、これは本人から聞け」


 大将は酒の瓶をあけて、ラッパ飲みを始めた。


「これが一番、大事な質問だ。お前はどうしたい?」


「……」


「俺は、お前の問題を解決できる」


「本当か!!」


「やらんがな」


「なんでだよっ」


 大将はにやけながら、拗ねるヒバナを眺める。


「相談者ってのは、相談された内容に関わっちゃいけないんだよ。絶対に、第三者の立ち位置を崩しちゃいけないもんだ。変に関わって誰かに迷惑かけたら、その誰かの相談を受けられなくなっちまうだろ?」


「そういうものか?」


「そういうもんだ。俺が変なことして、余計にぎくしゃくしたくないだろ?」


「まぁ、確かに」


「セーナを怒らせたくもないしなー」


「?」


 大将は、ヒバナの背中をバンッと強く叩く。


「お前に一つ、ヒントをやろう」


 大将はどこか寂しそうな顔で、ヒバナを見つめる。


「お前はなんでサルベージハンターになりたかったんだ?」


「あっ」


 何かを掴んだヒバナの背中をもう一度、叩く。


「さぁ。お前のやれることは、最初からたった一つだけだ。追いかけろ」


「話した意味ないじゃねぇか」


「話してすっきりしなかったか?」


「……まぁ、した」


「相談者からしたら、最高の誉め言葉だ。それに、頭ん中も大体整理できたろ?」


「ああ。ありがとう!」


「そうだ。これ落し物だ。お前らのもんだろ?」


「アレスの懐中時計……」


 拾ってくれていたようだ。

ヒバナは、大将に深々と頭を下げる。


「本当に、何から何までありがとう!」


「ああ。行ってこい」


 ヒバナは、走り出した。

本当の気持ちを伝えにいった。


 その後ろ姿を眺めながら、大将は煙草を咥える。


「…………。お前は上手くやるんだぞ」

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