4話
「何すんだ。てめぇ」
ムジが不意打ちで振るってきた鉄パイプを、同じ鉄パイプで受け止める。
「流石。主人たちにいつもサルベージを手伝わされているだけあるな」
「直感だけは一人前って、元プロからのお墨付きでな」
ヒバナが鉄パイプを振り、ムジに攻撃しようとするときちんとガードする。
「なんで裏切った」
「最初から敵だろ。俺らは」
「そうだったな。じゃあ、言い方を変える。なんで急に攻撃してきた」
「今、お前を殺しても、誰にもバレない。これ以上の説明いるか?」
「そうかよっと」
ヒバナとムジは攻防を続けるが、力は僅差。
しかも、ヒバナはムジを倒す気など毛頭ない。よって戦いに変化がまるで起きなかった。
「本気で戦え!!」
「お前を今ここで倒しても、メリット少ないんだよ! 誰が倒れたお前のことを運ぶと思ってんだ」
「さっすが、自称未来のサルベージハンター様。俺ごとき、簡単に倒せるみたいな言い方だな。これを喰らってもまだそんな口叩けるか見物だな! 【咆哮】」
ムジの大声を喰らった瞬間、殴ろうとしたヒバナの鉄パイプの動きが止まった。
「なっ」
「おらよっ」
ヒバナはムジの攻撃をダイレクトに喰らってしまい、殴り飛ばされる。
「う、動けねぇ」
すぐに起き上がろうとするが、筋肉が硬直しているのか体を動かそうとしてもプルプルと震えるだけで、指一本動かせない。
「おいおい、こんなのが本当にサルベージハンター様に成れんのかぁ?」
「はっ、成るんだよ。馬鹿野郎が」
「これから死ぬのにどうやってだよ!!」
ヒバナの後頭部めがけて、鉄パイプが振り下ろされる。
音が鳴り響く。
その音は、頭がつぶれる音ではない。
鉄パイプ同士がぶつかり合った音だった。
「アレスか」
アレスが、ヒバナに襲い掛かる鉄パイプを受け止めたのだ。
「ヒバナ、大丈夫?」
「おう。動けるようになってきたぜ。ありがとな」
ヒバナが立ち上がり、再び鉄パイプを構える。
「まだやるか? 俺らのコンビネーションを舐めんじゃねぇぞ?」
ムジは二人を睨みつけ、ヒバナに襲い掛かる。
ヒバナはムジの攻撃を受け止め、アレスが反撃として一発入れた。
「痛ッ。さすがに無理か」
すぐに両手を上げる。
「……降参だ。さすがに二人は相手できねぇよ」
アレスとヒバナは、鉄パイプを降ろす。
「念のため、それ預かるぞ」
「好きにしろ」
ヒバナはムジの鉄パイプを受け取り、袋に入れる。
「降参するなら、最初からすんなよな」
「ちっ」
「別行動はなしだ。全員で時間がかかろうが、周る」
「ん」
三人は、遺跡の探索を再開した。
「ねぇ、ムジ。なんで、そんなに私に執着するの?」
「執着って……。まぁ、そうだな。お前は覚えてないっぽいが、昔……」
「おい! 無駄話すんな。お前のせいで遅れてんのわかってるのか」
「うるせぇよ」
「まぁ、また今度、話すわ」
「ん。わかった」
ヒバナがなぜ聞かせまいとしているのか、わからないが。
聞けそうになかったので、探索に集中することにした。
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「はぁ、終わった」
三時間くらいだろうか。そのくらいでほぼすべての探索を終え、ほとんど鉄パイプだけだったが、それも袋いっぱいに集まった。
「誰かさんのせいで、時間がかかったがな」
「うるせぇな、そんな器の狭さでサルベージハンタ―に成れんのかよ」
喧嘩する2人を余所に、アレスは獲得物の整理をしていた。
「それにしても、遺物は集まらなかったね」
「あ? 遺物なら、鉄パイプが集まったろ」
「そんなことも知らないのか? ムジ」
「あ???」
「遺物ってのは、昔のテクノロジーで出来た何らかの力を持っている物のことを指すんだ。今でも加工できる鉄パイプは遺物に該当しねぇよ」
「そうなのか?」
ムジは、アレスに向かって真偽を問う。
「ん。ヒバナはサルベージハンターの勉強は絶対に欠かさない」
「まじか」
「なぁ。なんで、アレスに聞いた?」
「お前、頭悪そうだし、適当言ってんのかと思った」
「あ???」
再び、喧嘩が始まった。
これで、18回目だ。もう、アレスは止めるのさえ面倒くさくなったため、無視をしている。
(それにしてもセーナ、大丈夫かな)
アレスはなんとなくセーナがいるであろう海の張っている階段下を見た。
すると、アレスの瞳に衝撃的なことが映る。
「アレス? !?」
ヒバナもその色に気がついた。
「行くぞ!!」
「ん」
2人は人魚の涙を飲み込んで、階段へと走る。
「ムジ! 荷物番は任せた!!」
「え、おい!」
「あと、下には来んなよ!! 絶対だからな!!」
困惑するムジを置いて、2人は互いを見失わないように手を繋ぎ走る。
「覚悟決めるぞ! アレス」
「ん!」
二人は階段に張った深い青に飛び込む。
その反動で上がった水飛沫を見ながら、置いていかれたムジは豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
「な、なんなんだよ」
ムジが2人の飛び込んだ階段を見ると、そこには血が浮かんでるのがわかった。
「……クソが」
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