第5話 新しい環境に向けて

 バスケ部の退部について本格的に動き始めると、やはりというか正樹とバスケ部の後輩からの裏切り者としての目は強くなった

 先輩たちは、いきなりの事で驚いているというのがほとんどで、退部の理由についても聞かれた。俺は退部の理由を怪我が原因だと伝えると、秀介君は冬香の性格について知っている部分もあるので、それで納得するような態度になった。他の先輩たちも秀介君の態度を見て、俺の事を良く知る人間が納得しているということで何も言わなくなった

 少し気まずい空気になりながらも、俺は部活に顔を出していた。バスケ部の顧問と話し合った結果、夏休みまではバスケ部に顔を出すようにするという事になったからである



 夏休みに入り、俺はしばらく部活の無い暇な日々を過ごしていた。部活の無い日の過ごし方は小説を読むか、漫画を読むかの二つしかなく、お小遣いの無い俺はひたすら家にある本を読み漁る事しか出来ない。家にある本は全て一回読み切っているので、俺がすることは同じ本を何回も読み、俺が気づいていない伏線を探すしかない

 周りの同級生はスマホがあったり、テレビを見て過ごすのだろうが、俺はスマホは持たされていないし、テレビにおいても、一時期冬香の機嫌を本気で損ねた時にテレビのカードを抜かれ、電源を付けても真っ暗な画面が流れるだけの液晶となっていた

 こうなった今の俺の主な情報源はラジオであり、逆にラジオ以外から流行を知る事は出来ない。だから、ようつべのようなサイトでの流行や、テレビでのアイドル系の話題については至極疎い状態になっている


「この曲何回も聞いたなぁ。流行ってるんかな?」


 ラジオを垂れ流していると、何回も流れてくる曲というのが2,3曲あり、それに気づくとその曲が今流行りであることが理解できる。ただ、ラジオは基本的に流し聴きなので、その曲のタイトルや歌手については全く情報を持っていない


「やべ、あと3日で卓球部に参加しなあかんのか。すっかり忘れてたな」


 こんな非生産的な生活を過ごしていると、日付感覚が狂い今日が何日なのかを忘れる瞬間が良くある。その時に意図的に日にちを確認することで、俺が卓球部に参加する日までのカウントダウンをしていた

 卓球部の部員で同期メンバーは全員知ってるとはいえ、参加する日を想像すると緊張が押し寄せてくる。いや、全員知っているからこそ緊張するのかも知れない

 今まで、俺の知る限り部活を途中で変更した人は先輩も含めて知らない。というより、先生の口ぶりから恐らく俺がほぼ初めてなのだろう

 そんな中で、俺がいきなり部活を変更したとなれば周りの部員は理由を探ってくるだろう、それが俺からすれば拷問のようなものだ


(まあ、バスケ部から逃げた俺への罰やと思って受け入れるしかないか)


 卓球部に参加するまでに俺はある程度自分の立場について受け入れなければいけず、それに加え俺の立ち振る舞いに関しても考えなければいかない

 俺はひどく小心者なので、こんな事でもしないとメンタルが持たない

 ちなみに、今までこんなに考える事はあったが、その内容通り振舞えたことは無い。それでもなお、考えてしまうのは俺の性分なので仕方がない


「さて、卓球部に入るなら俺も気持ち切り替えてせめて1年生と張り合えるくらいの努力はしないとな」


 部活を変える事に伴い、俺はプライドを全部捨て、1年生と同じ環境で努力する覚悟を決め、同級生組に実力を並べることは出来ずとも、せめて1年生に対して精神面で先輩としての姿を見せれるような努力はしようとも密かに目標を立てた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る