第4話 変動

 バスケ部を退部することが決まって数日が経った頃、俺は担任の松本先生に呼び出されていた


「赤松、バスケ部やめるって聞いたけど次の部活決めてるんか?」

「いや、まだ決めてないです。今は運動部にこだわらずに文化部もありかなぁって考えてます」

「う~ん、運動をしないのはもったいない気がするな。もし、決まらんのやったらうちの卓球部はどうや?」

「えっと?」

「卓球部なら俺が顧問やから入りやすいし、怪我をすることも少ない。もし、先輩たちがいる環境が嫌なら先輩たちが引退してからでもいいぞ」

「少し考えさせてもらっても良いですか?ちょっと今すぐには決めれなくて・・・」

「ゆっくり考えてくれたらいいよ、3年生が引退するのも夏休みやから、もし夏休みに決めたら電話でもしてくれればいいし」

「ありがとうございます。考えてみます」


 始め卓球部に誘われた時は、正直俺を監視するためだと思った

 1年の時には正樹との抗争があり、この前の署名活動の告げ口もある。先生からしたら俺を自由にするよりも担任の目の下で監視する方が問題を起こしにくいという考えだと感じた

 だが、先生の理由を聞いている中で自分の怪我について触れられた、もちろんそれすらも監視するための理由としていったかもしれない。しかし、先生の声を聴いて嘘を言っているようには感じなかった。それに、実際に運動部の中では卓球部が一番怪我のリスクが低く、文化部に入るよりも先生からの監視の目は緩くなるようにも感じた

 俺の心は卓球部に入る方向に傾いていたが、ここでもう一つ問題がある


 冬香である


 俺から見たところ、冬香は恐らく部活での怪我のリスクよりも、部活動という活動自体に否定的である

 俺が卓球部に入るためには冬香を説得しなければならない

 だが、今回の場合は恐らく大丈夫だ

 卓球部は怪我のリスクが少ない事に加えてもう一つ特徴がある。それは、部活の活動時間である。朝練習は無しで、部活の終了時間も18時には練習を終え、18時半には帰宅が出来るという他の部活よりも圧倒的に活動時間が短い

 冬香の否定的である理由の一つは活動時間の長さだったりするので、今回は優位に働きかけることが出来る

 となると、今回冬香に示すべきポイントは4つ


 ・担任から誘われたこと

 ・怪我のリスクの低い卓球部なこと

 ・活動時間が短いこと

 ・入部時期は3年生が引退してからで良いこと


 この4つを上手く伝える事が出来れば、恐らく入部の許可がでる


「あとはタイミングだな」


 冬香は機嫌によって、ありとあらゆることへのハードルが変わる

 機嫌がいい時は、ある程度の頼み事は通る、なんなら、恐らくこの4つを伝えずとも入部出来るだろう

 問題なのは機嫌が悪い時である

 冬香の機嫌が悪い時は、細かいことで八つ当たりをしてくる。それはトイレに行こうとするだけでも八つ当たりをしてくるレベルであり、この時ばかりは、頼み事は出来ない。


「なんで、ワ○ピースのビ○グ・マムみたいな機嫌屋やねん」


 自分の母親ながら、本当に嫌な人間である

 しかも、外ではこの一面を絶対に見せることが無いからなおさら厄介である



 それから家に帰ると、今日の冬香は機嫌が良かった

 晩御飯を食べ終わったタイミングで今日の出来事を報告し、卓球部に入部する趣旨も伝えた

 最初は渋っていたが、先に挙げていた点を説明すると折れてくれた


「入る事は許可するけど、もしなにか問題があれば、すぐにやめさすからな」


 冬香からこの条件を出されたので、俺は承諾し、冬香との取引は終わった


 次の昼休みに松本先生を呼び止め、昨日の返事をする


「夏休みからですが、卓球部でお世話になります」


 これから、また俺の環境は変わってゆく




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 という事で、これから夏樹の環境は大きく変わっていきます

 この物語を書くときに恋愛要素を初めから入れるということも考えていたのですが、物語の中での主人公の立場の変動を分かりやすくしたいという考えから、この構成になりました

 この後、夏樹の立場がどのように変化していくのかお楽しみに!

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