「何だか知らない優斗がいるみたい」


 わたしがそう言うと、素直に関心を持ったことに驚いたようで、優斗こいつは苦笑いをした。

 誇るべきことを優斗こいつはすごく困ったことのように返してくる。


 そういう所は昔のままで少し安心した。昔愛した場所に戻って来たとき、自分が知っているものが何も残っていないと不安になる気持ちに似ているのかもしれない。


「詩音こそ、1年前と変わったよ」

「ウソ? どこも変わってないわ」

「変わったよ……上手く言えないけど変わった」


 何も変わってないと思ったのに、他人から見た1年はどれだけの力で支配されていたのだろう。

 わたしはそんなことを思いながらも、自分が変わってしまったことに嘆いた。

 あの頃のわたしも、あの頃の優斗キミももういない。


 それはわたしにとってすごく大きなことで、わたしは冷静ではいられなかった。


「ねぇ……」


 思わず身を乗り出してしまっていた。


「あたしたち、幸せだったのよね?」


 何の気持ちもなく、そんな言葉を言ってしまった。

 言った後で酷い言葉だと思った。だけど優斗は真剣にわたしを見返した。


「ああ、幸せだったよ」


 その言葉を聞いた瞬間、涙が出そうになった。

 そういう台詞は、とても大切で誰にも邪魔出来ない情熱を含んでいる。

 わたしには優斗のその台詞だけで十分だった。


 わたしと優斗こいつが一緒に暮らした4年は、その台詞が全てだった。

 あの時わたし達は、確かに幸せでわたしは変わることを恐れた。

 だけど優斗こいつには、それをものともしない勇気があったのだろう。変わる事への勇気が……それが狂気に似たものであったとしても。


 だからわたしは優斗こいつの決断を素直にそれを受け入れた。結果を振り返らないほうが幸せなときもあるって知っていたから。

 そしてわたし達はバラバラになった。

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