昔のように喫茶店に入って向かい合って座ると、あの頃のわたしの視線と違う自分がいることに気づいた。

 季節の移ろいは何一つ変わらないなのに、わたしは変わり続ける。人の気持ちは流れるように季節に溶けていく。


「ここの紅茶、久しぶり!」


 優斗あいつが無理に微笑んだような気がしてそれがすごく痛々しかった。だからわたしも微笑んだ。自分の微笑みが無理しているように見えないように。


 ちょうど1年前だった。こうやって同じ状況で優斗こいつが別れを告げてきたのは……

『他に好きな人が出来た』

 あの時優斗こいつはそう言った。


 部活の先輩に憧れた一人の女子高生が、バレンタインデーに想いを告白したら、彼女になっていた。

 それまでの人生で恋愛経験など皆無だった者同士が出会い、二人で思い出を重ねてきた。


 放課後の制服デートを楽しんだり、休日に待ち合わせして出掛け、海が見える夕べの公園で唇を重ねた。

 わたしの優斗こいつへの呼び方も『先輩』や敬語呼びではなくなって名前で呼ぶようになった頃、誕生日で初めて訪れた優斗こいつの部屋で、わたし達は結ばれた。

 その事に後悔はしていない。ううん、最初の相手が優斗こいつで良かったとさえ思っている。優斗こいつは、その名の通り本当に優しかったから。


 そんな関係を重ねていく内に、優斗こいつは大学に進学し、後を追ったわたしも同じ大学に通い、一緒に暮らすようになっていた。そんな日々が4年ほど続いていたけど、わたしは優斗こいつを束縛しようとは思わなかったし束縛されたくもなかった。

 こうした日々が続いていくうちに、何時の間にかお互いが違う道を選んでいた。


 だからなのかもしれない|。

 優斗こいつが口にした別れの言葉に、わたしは頷いていた。


『優斗の好きにしたら良い……』


 わたしは部屋を出て、新しい住まいに移って大学院に進学することにした。

 落ち着いた頃には、優斗こいつとは顔を合わすこともなくなった。スマホの連絡先もアドレスもアカウントも削除したから、優斗こいつがどうなったかについては知らなかった。


――少しやつれた?


 優斗こいつも多少は料理をしていたけど、レパートリーが少なかったし偏っていた記憶があるからそんな気がしてならなかった。


「紅茶を飲むと、詩音キミが淹れてくれた紅茶の味を思い出すんだ」

「当たり前でしょう? わたしが淹れた紅茶は世界一なんだから!」

「……そうだったね、忘れていたよ……」


 優斗こいつは紅茶の表面を見つめながら頷いた。

 わたしも目の前の紅茶を一口飲み込む……ちょっと苦かった。この季節に合わない気がして嫌な気分になった。

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