See you again……

朝霧 巡

 それは春の花が散り、緑が広がる初夏の朝。

 もう梅雨になっているのかもしれない。髪一つとっても整えるのに時間は掛かるし、広がるうねるボサボサになる。おまけに気圧も低くて気分が塞ぎがちになる。

 そんな朝の儀式を終わらせたわたしは、お気に入りの傘を差し、いつものように学校へ向かっている途中だった。


 その道を歩くのは毎日の事だし、これからも当分続くのだろう。それがわたしの日常だから。

 なのに、不意に出会ってしまった。


 元カレという存在に。


 優斗あいつは気まずそうな表情をして、それから無理に笑った。


「あ、詩音しおん……」

「……何よ?」


 久しぶりに会ったのに、わたしはぶっきらぼうに睨んだ。

 なんだかすごく気まずかったから……1年前の傷が再び開きそうだったから……


「久しぶりだね」

「……そうね……」

「元気だった?」


――気まずいならさっさと気づかなかったふりして去ってくれた方が良かったのに、どうして話し掛けてくるの?


 わたしは思う。こっちだって、今さらこんな風に会ってしまったって良い気分ではない。


「元気よ。すっごい元気……やばいくらい……ね」

「そ、そっか……な、なら……いいんだ……」


 厭味みたいになってしまったのに気づいてわたしは口篭もった。

 優斗あいつもそれに気づいたようで、口篭もった。


「……じゃあね! わたし学校行くから」


 優斗あいつの気まずさが伝染したのか、そう言って離れようとした。そして一歩を踏み出そうとしたとき……


「待って! 少しでいい。話……できないかな?」


 こんな風に優斗あいつに誘われたのは初めてだったから驚いた。


「……は?」

「久しぶりに会ったんだから、ちょっと喋りたいな…って思ったんだけど……」


 わたしは優斗あいつの頭から足の先まで嘗めるように見た。


「……うん、良いわよ、少しだけなら」


 自分でもどうしてそう言ったのか判らなかった。


 破れかけた傷口をさらに開くようなものなのに?

 優斗あいつがわたしの元を去ってからもう1年が立っていたというのに?


 新しい生活の中でやっと光を見つけたというのに、どうしてこうタイミング悪く現れるのだろう?

 まるで、仕組まれたように優斗あいつは現れ、わたしは何かを動かされた。


 ただついていく自分がすごく軽薄な女みたいな気がしたけど、優斗あいつの変わらない背中を見てしまったらそんな風に思う気にならなかった。


 時間は簡単に動き出してしまう。あの頃の鮮やかな夏のグラウンドを思い出した。部活動で汗を流している憧れの先輩だった頃の優斗あいつを……


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