バカップルはひかれ合う

 本人はまだ自覚していないが、名瀬虎南はストーカー気質である。

 気になる相手へのアプローチとして真っ先に尾行が浮かぶほどで、およそ躊躇いというものが見られない。


 彼女と仲の良い友人達は口を揃えて言う。

 ――もしも虎南が恋をしたら、私達で軟禁しておこうね。


 今のところ虎南の情熱は姉に一直線であり、尾行対象の選定に事件性は感じられないため、友人達のスタンスは静観である。


 そんな心根の優しい彼女達なので、虎南に振り回されることもしばしばだった。

 彼女達が虎南を振り回す側に回ることも同じくらい多いのだが。


「ほら見てみんな! お姉ちゃんデレデレしてて可愛いでしょ! ね! 早く頷いて!」


 電柱の陰から頭だけを出して虎南が言う。

 その後ろに並ぶ三人の女子中学生は、呆れ混じりにやれやれと吐息をついた。


 まさか春休みが始まって早々、姉の尾行に付き合わされるとは。

 そんな一息である。


「大好きなお姉ちゃんが大好きな人と結ばれたんだから、妹としては盛大に祝わないと」


 三人を向いて誇らしげに胸を張る虎南。

 友人達は首肯で賛意を示しつつ、こういった場における決まった手順を踏むように思考を揃えた。


(唯一の良心の私がしっかり手綱を握らないと。でなきゃ収拾つかなくなるし)


 ちなみに虎南も全く同じことを考えている。

 この仲良し四人組は、全員が全員、自分を一番お姉さんだと思っているのだった。


「というわけで行くよみんな! 祝う準備はできてるかーっ!」


 右手を天高く掲げる虎南に、三人が呼応する。


「データは完璧。この作戦が成功する確率は99.9%。さらに吾輩が指揮を執ることで数値は495%まで跳ね上がる」


「ククク……いいからさっさと暴れさせろ。腹が減ってしかたねえ。あいつら喰っていいんだよな?」


「……常識? ああ、義務教育で捨てるアレね。誰にもボクを理解できはしない」


 虎南の友人達は、痛々しい歴史を刻むことを臆さない時期の真っただ中にいた。

 いわゆる中二病。

 この経験が糧となるか枷となるかは彼女達次第である。


 友達の発言でスイッチが入った虎南も、口調に威厳を織り交ぜて言う。


「それでこそ我が同胞。秘めし激情を大いに発散せよ。ただし我が姉に危害を加えることは許さぬ」


 そして四人で悪巧みをする悪役顔をした折、虎南が号令を掛けた。


「男の方は好き放題生意気を喰らわせても構わん! 万一にも有り得ぬことだが機嫌を損ねた場合は速やかに謝罪せよ! ではゆくぞ!」 


 かくして。

 駒縞東こましまひがし中学校の五天衆(本日一名欠席)、一年三組の中二弱。


 ヘンテコ集団、通称『信念無き革命家デッドエンド』は目標へ向けて駆け出した。





「なんだったんだろうねあの中二弱たち。内輪揉めを始めて勝手に滅んでいったけど」


「虎南が愉快な友達と愉しそうにしてて嬉しくなっちゃったよ」


 何をするでもなくただ立っているだけで中学生の襲撃をやり過ごした憂と夜々は、和気藹々とした様子で歩んでいた。


 背後より現れた四人組とその口上には驚かされたが、そこからの展開はグダグダでひどいものだった。


 誰がどう見ても出たとこ勝負であるにもかかわらず、全員非常に我が強く、誰一人として一番手を譲ろうとしないままあーだこーだと言い争いを始め。

 ただただ段取りの悪さを晒し続けた挙句、舌戦の果てに出直す意思を固め、「覚えてやがれ!」と撤退したのである。


「夜々さんも中学生の頃はあんな感じだったり?」


「私はバランサーとして活躍してたよ。元気の良さは同じくらいだったかな」


「そっか。元気が有り余ってるみたいだし、虎南ちゃんにも葉火ちゃんの母親探し手伝ってもらいたいな」


「やる気に満ち溢れてるよ。既に知ってるみたいでさ。出番が来るまで牙を研いでるって」


 そう言って夜々は何かを思い出したように笑い、虎南と暁東と一緒に映っている写真を見せてくれた。暁東はツンとした顔つきだが、内心嬉しくて堪らないのだろうな、と憂は自然に微笑んだ。


 きっと弟妹を自慢したくなったのだろう、その気持ちはよく分かる。


「あんまり待たせると暴走しそうだし、早く出番を用意しないとね」


「うむ。そこで私は閃いたんだけど――憂くん、お腹の減り具合はどう?」


「割と減ってるかな。そういえばお昼まだ食べてなかった」


「ではでは。お蕎麦なんてどうでしょう」


 夜々の表情に得意げな色が差す。

 その変化に含まれた意図を読み取るのは簡単だった。


「カレーの美味しいお蕎麦屋さんだ」


「その通り! もしかしたら手掛かり見つけちゃえるかも!」


 あの日、剣ヶ峰母と思しき人物は蕎麦屋を探して道に迷っていた。

 目的地があって、迷っていた。


 もしかすると過去に馴染みのあった店なのかもしれない。

 そうなると場所を覚えていても良さそうなものだが――とにかく行ってみるとしよう。


「場所は覚えてるから私に任せて。憂くんは店休日じゃないことを祈っててちょーだい」


「調べなくていいの?」


「うん。閉まってても別にいいの。開いてなかったーって一緒に落ち込もうよ。私は憂くんと、そんなハプニングも楽しみたい」


 と、句点代わりに夜々は完璧なウインクをした。


「僕、夜々さんのそういうところも好きだ。じゃあ、行こうか」


 とてもじゃないがじっとしていられず、憂は場所も知らないのに先導しようと一歩前に出る。

 すぐに夜々も隣に並んで。

 甘えるように憂の右腕に抱き着き、仲睦まじく腕を組んで歩くカップルの姿が誕生した。


 ――その直後。

 言い逃れようのない瞬間を狙い澄ましたかのように。


「お姉ちゃんお兄ちゃん、おめでとう」


 背後から声を投げられ、憂と夜々は弾き合うような勢いで離れつつ振り返った。


 視線の先に立っていたのは――暁東と氷佳。

 仲良く手を繋ぎ、暁東は呆れた風で、氷佳は喜びを抑えきれないといった風でこちらを見ている。


「ひ、氷佳! どうしてこんなところに! 可愛い僕の弟も一緒じゃないか!」


 憂は早足で距離を詰めると屈んで目線の高さを合わせる。

 少し遅れて夜々も同じようにした。


「暁東……み、見てたよね?」


「見てないよ。ぼくは外でお姉ちゃんを見つけても知らないフリするって決めてるんだ。姉離れを済ませてるからね」


 お粗末すぎる嘘を展開する暁東だった。

 キミから話しかけてきたんだよ? とは言わないであげよう。憂はまた一つ大人になった。 


「これから氷佳ちゃんと図書館に行くんだ」


「うん。読みたい絵本があるの」


「氷佳は偉いなぁ。僕に言ってくれれば一晩で作ってあげるのに」


 シスコン、と暁東が言った。

 お互い様だろ、と憂は答えた。


 すると慌て始めた暁東が手で口を封じようとしてきたので応戦する。

 そのようにシスコン二人が揉み合っている傍らで、氷佳は夜々に飛び掛かるようにして抱き着いた。


「おめでと、よよ。今度氷佳にもお話聞かせてね」


「うん。また一緒にお昼寝しよっか」


「しよ。楽しみにしてるね、お姉ちゃん」


「~~~~っ!」


 見上げてくる氷佳にノックアウトされたのだろう夜々は、感極まった様子で氷佳を強く抱き締めた。

 争っていたはずのシスコン共は動きを止め、羨ましそうに姉妹の抱擁を眺めている。


「……ハグしてやろうか暁東くん」


 暁東は慌てて憂から距離を取り、断固たる拒否の意思を示す。


「もしかしてデートを邪魔されて怒ってる? ごめんねお兄ちゃん」


「別に怒っちゃいないよ。邪魔だとも思ってない。名瀬弟妹に会えてご機嫌なくらいだよ」


「ということは、虎南お姉ちゃんももう来たんだ。ぼくも誘われたんだ、夜々お姉ちゃん達をバカップルにしてあげようって。それで見に来てみたんだけど、誰かが手を加える必要なんてなさそうだね」


「まるで僕達が既にバカップルみたいな言い草じゃないか」


「どこからどう見てもバカップルだったよ」


 やっぱり。薄々そんな気はしていたけれど。

 とはいえ加減が分からなかったのは事実だし、こうして第三者目線からの意見を貰うまで、確証はなかった。


 まだ一人分ではあるが――目指すべき方向性は、ズレていないらしい。


「バカップルってなあに?」


 そこで氷佳が会話に混ざってくる。

 不思議そうに首を傾げる姿が愛らしかったので、憂は急ぎスマホを取り出して撮影した。


「……お姉ちゃんが教えてくれるよ」


「ちょっと暁東!? パスは足下に出して欲しいなっ!」


「よよ、教えて」


 氷佳の瞳は純粋な好奇心に光り輝いている。

 夜々は眩しそうに目を閉じたが、すぐに視線を合わせ直し、氷佳の肩に手を置いて。


「お、お互いに相手のことが大好きで仲良しなカップルのことだよ」


 教え諭すように言った。


「よよと兄ちゃのことだ」


「…………うん」


「いつ結婚する?」


「そ、それは……私の一存では……もにょもにょ」


 よく分かった、と氷佳は夜々の頭を撫でると、次いで暁東の腕に抱き着いた。


「氷佳と暁東くんもバカップル。そうだ、よよと兄ちゃ、ちゅーはした? まだがまん中?」


 氷佳の問いに絶句する憂と夜々。

 息つく暇もない無邪気な好奇心にたじたじである。

 

 さてどう答えるべきか。

 といっても氷佳に嘘を吐く選択肢は存在しないし、それに誤魔化すようなことでもない。


 だから。

 氷佳の目を見て、


「うん、したよ。僕は夜々さんのことが大好きだから、我慢なんてできなかった」


 と、憂は強い口調で言い切った。


 その答えが欲しかったのだろう――その答えが嬉しかったのだろう。

 氷佳は満足そうにあどけない笑みで表情を飾る。

 そして――


「じゃあ、氷佳も」


 と。

 ごく自然なさりげなさでそう言って。

 暁東の口に――キスをした。


「なァーーーーッ!?」


 飛び込んできた衝撃的な光景に憂は絶叫する。

 力の限り。

 喉が爆裂して張り裂けんばかりの咆哮をあたりに響かせて。

 その反動か尻餅をつき、そこでようやく息を吸い込んだ。


 ……?

 一体何が起こっているというのだ。

 理外の現象に身体の震えが止まらない。


「わぁ……ぁ……」


 消え入るような声を漏らす憂。

 夜々も暁東も、突然の意想外に対処できておらず言葉を失い立ち尽くしていた。


 そんな中、氷佳は照れくさそうにはにかんで、暁東の腕をぎゅうっと抱き締める。


「氷佳もね、がまんできなかったの」


「……ひ、氷佳ちゃん。こういうのは、二人きりの時だけって」


「ごめんね。今だけ特別。もうしないよ」


「まさか今日が初めてじゃないってのかい!?」


 追加の衝撃による負荷に耐えきれず憂は処理落ちした。

 表情と言葉を失い虚ろな瞳で宙を眺め始める。

 そんな憂の頭を夜々が「よしよし」と優しく撫でた。


「氷佳達はもう行くね。夜々と兄ちゃも、デートの続き楽しんで」


「ん。ありがと、氷佳ちゃん」


 動揺を隠しなんとか年上の威厳を保つ夜々。

 氷佳が呆ける暁東の手を引いて歩き出す。


 そこでなんとか意識を取り戻した憂は言った。


「暁東くん。氷佳を頼むよ。もしも氷佳が悲しむようなことがあれば。キミの将来は僕の秘書だ」


「ぼくを使い潰すつもりだ……!」


 暁東が逃げるように駆け出し、氷佳もそれに合わせながら「ばいばい」と手を振る。夜々は片手で自身の顔を扇ぎながら、もう片方の手を二人に向けて揺らした。


 そうしてちびっ子カップルを見送り。

 場には憂と夜々、そしてなんともくすぐったい沈黙が残った。


「氷佳ちゃんすごく大胆だったね。私の方が照れちゃったよ」


「一体どうして……」


「ふふっ。氷佳ちゃんなりに憂くんのこと考えてくれたからだと思うよ」


 夜々は確かな自信を支えとするような声音で言い切った。


 憂も同意見だった。氷佳がみだりに自分を困惑させるような子ではないとよく知っている。

 今夜じーっくり聞かせてもらうとしよう。


 夜々が自分と同じ意識を持ってくれていることが嬉しくて、憂は張り切って立ち上がる。


「ごめん、かっこ悪いとこ見せて。もう大丈夫」


「もっとかっこ悪くてもいいんだよ。そういう所も、好きだから」


 しばし二人で微笑み合い、憂は夜々の口元をじっと見つめる。

 視線に気付いた夜々は途端に慌て始め、自分の身体を抱き締めるようにして、恥じらいつつのジト目。


「……こ、ここじゃダメだよ?」


「だ、大丈夫。分かってる。しないよ」


「……したくないの?」


「それはズルいって」


 あざとさを炸裂させた夜々が悪戯の成功に顔を綻ばせる。

 そして憂に抱き着き、腕を組んで。

 二人はゆっくりと歩き出した。





 蕎麦屋へ到着すると同時、美術部員達から返信があった。

 全員似顔絵は描けないが協力してくれるそうだ。美術に無関係の虹村まで「任せろ」などと言っていた。


 今日にでも描いてあげる描けないけど、と迅速果断な対応を見せてくれた彼女達は、用事が済み次第合流してくれるらしい。


『ありがとう。僕の彼女も喜んでます。なので僕もより嬉しいです』


 と送信してスマホを仕舞い、戸を引いて入店する。


 老夫婦が二人で経営しているようで、他に客がいないこともあって店内は大人びた静寂に満ちていた。


 中は奥に長く、向かって左側にカウンター席、右側に四人掛けのテーブル席が三つ設えてある。どれも年季が入っているが丁寧に手入れされているのだろう、どこか高級な趣があった。


 憂と夜々は緊張しつつ、おばあさんの案内にしたがってテーブル席に腰掛けた。


 間が空くことを恐れた二人はすぐにメニューを開いて目を滑らせる。

 そうしているうち憂はあることに気付き、小声で言った。 


「……無いね、カレー」


「ねー。冗談だったのかな。ちょっと気になってたのに」


「あれじゃない? 裏メニューってやつ。でも、まあ。雰囲気的に冗談の可能性が高そう――」


 だ、と憂が言いかけたところで。


「あるよ」


 ここまで寡黙を貫いていたおじいさんがそう呟いた。

 まさか聞こえていたとは、恐るべき聴力である。


「あるよ。カレー」


 ぶっきらぼうに投げられた一言に驚きつつ、憂は反射でカレーを注文した。


「ゆっくりでいいのよ。あの人、久しぶりの若いお客さんに浮かれてるけど、不器用なの」


 いつの間にか傍に居たおばあさんが穏やかに笑む。

 心安さの詰まった声と表情に、憂と夜々はようやく肩の力を抜いた。


「それにしても、こんな若い子がカレーがあることを知ってるなんてねえ」


 と、感心するおばあさんを見て、この流れで訊いてみようと憂は思った。

 少し急ぎすぎかもしれないが、またとない機会だ。


「あの、二ヶ月くらい前に、このお店に女性が来ませんでしたか? その人に聞いたんですが」


 続けて思い出せる限りの葉火母の特徴を伝えた。

 丁寧な相槌を打ってくれていたおばあさんは、全てを聞き終えると得心がいったという風に微笑んだ。


すいちゃんのことね。あの子なら、ここにカレーがあるのを知っているはずだわ」


「水ちゃん?」


三境みさかいすいちゃん。あの子、学生の頃ここに通ってくれてたのよ。しばらく見なかったけど、そうね、確か二ヶ月くらい前にふらりとやって来たわ」


 馴染みがあるかもとは思っていたが、まさか旧知の間柄だったとは。

 三境水。

 あの女性が葉火の母親であることはほぼ間違いなさそうだ。


 思いがけず名前まで判明したことで憂はつい身を乗り出してしまう。


「その人が今どこにいるのかって、分かりますか? 色々あって捜してるんです」


「ごめんなさいね。そこまでは」


 でも、と繋いでおばあさんは言う。


「四月までこの街にいるとは言ってたっけね。一目見たいものがある、とも」


 一目見たいもの――それは成長した葉火の姿、だろうか。

 気に掛かる点はあるが、なによりまずは見つけ出すことだ。


 幸いにもあの人は。

 剣ヶ峰水は、まだこの街を離れていない。

 もっとも、葉火母はさらりと嘘を吐くタイプのようなので、完全には信頼できないけれど。


「ありがとうございます。後日友達を連れて来るので、その時にまたお話を聞かせてもらえませんか?」


「ええ。毎日暇でくたばりそうだったから助かるわ」


 詳しい話は後日改めて、葉火達も同席のもと。

 ということで、憂は改めてカレーを、夜々は天ざるを注文した。


 天ぷら半分こしようね、と夜々はウッキウキである。わずかながら事態が進展したことも、ご機嫌の一助となっているのだろう。


「しかし驚いたね。まさか常連だったなんて」と、憂。


「どうして道に迷ってたんだろうね。確かに学生の頃なら結構前だろうし、景観も変わってるとは思うけど」


 それに関して憂には一つの確信めいた閃きがあった。

 なんというか、流石葉火ちゃん。


「これは僕の願望も込みだけど。多分あの人は、道に迷ってたんじゃなかったんだよ」


「どういうこと?」


「既にあの時点での夜々さんと僕から、バカップルの波動を感じ取ってたんだと思う。僕達のことカップルだと思ってたみたいだし。葉火ちゃんの作戦はあながち的外れじゃなさそうだ」


「おお……」


 夜々が照れ顔でくしくしと頬を掻く。


「惹かれ合ってる。僕達はきっと、目指した場所に近付けてる。だからこの調子でじゃれ合おう。憂くん憂くん、頬っぺたにエビの尻尾ついてるよ。私が取ってあげる、って感じで」


「似てないからね!? そればかしは辛口でいかせてもらうよ!」


「夜々さんに何言われても甘く感じるよ、僕」


「私の方がちょっとだけ早く目を覚まして、まだ寝てる憂くんの顔を眺めてたい」


「……こやつめやりおる」


 てっきり辛口方面でのアプローチを仕掛けてくると思ったのに……。

 不意打ちをまともに食らった憂はごく普通に赤面した。


 そんな憂を夜々がからかっていると。

 おばあさんが料理を運んできてくれた。


 テーブルに置かれたそれを見て、憂も夜々も揃って目を見開く。


 カレーも、天ざるも。

 メニュー表の写真よりも倍くらい量が多い。

 憂はカレーを見て小さめのラグビーボールみたいだ、と思った。


「うちのモットーは善意の押し付けなの。召し上がれ」


 曰く、健啖家であった三境水ちゃんが若者の基準になっているとのこと。

 きっとこの場に葉火がいれば、大喜びで完食したことだろう。

 

 もちろん善意は嬉しいし、完食するつもりではいるけれど。

 ――念のため。

 あの暇そうな中学生達を呼び出す必要がありそうだった。





 ――同時刻。

 憂と夜々が食事を始めた頃。


「三耶子。あたしの命、あんたに預けるわ」


 三耶子と葉火は、目的を達成すべく闇のゲームに身を投じていた。

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