オデッセイの美少女

 いまや日常と化した朝晩に送られてくる自撮りはひちゃん――今日は五円チョコを舌に乗っけて誇らしげにする写真だった。添えられたメッセージ曰く、口に含んだチョコレートを溶かさず長時間過ごせるという。


 後で確認するから逃げるなよ、と返信して憂は半身を起こしベッドを出た。


 伸びをしながら洗面所へ向かう。

 氷佳も丁度起きてきたところだったので、一緒に顔を洗い、リビングへ行く。


「兄ちゃ、氷佳のこと抱っこできる? それとも氷佳が兄ちゃを抱っこする?」


「お、おおお……! 氷佳の閃きはいつも天才的で凄まじい、舌を巻くよ。巻くと言えば巻き寿司だ。なんてことだ、今日ここにベロ巻き寿司が誕生した。氷佳のおかげで世界はより豊かになっていくね。そんな氷佳に抱き締められることを誇りに思う。よし、僕にも氷佳を抱っこさせてくれ」


 久しぶりに朝から甘えられた。

 この時点で今日という日は最後まで幸せなものであると確定した。


 それから氷佳を膝に乗せたまま朝食をとり、抱きかかえたまま歯を磨き、着替えを手伝い手伝われ、支度を済ませる。

 このまま氷佳を抱っこした状態で小学校まで送り届けるつもりだったが、氷佳の友人が迎えにきたことでお役御免となった。


 無念である。

 しかしだからといって、幸福感に翳りは無い。


 弾むような足取りで家を出て、鼻歌を奏でつつ学校へ向かった。

 憂の舞い上がりっぷりは相当なもので、エア氷佳を抱っこする姿は言い訳の余地なく危険人物である。


 幸い知り合いに目撃されることもないまま、正門が見えてくる。

 そこで憂は知っている人物の姿を捉え、小走りで距離を詰めていき、こちらに気付いていないその人物へ呼びかけた。


「おはよう葉火ちゃん。早いじゃん、なんだよ来てるなら教えてくれよ。さっきまで家じゃなかった? もしかして瞬間移動とか? 使えるなら言えよ、言ってくれよ。寝耳に水臭いじゃねえか」


「なによ朝っぱらから鬱陶しいわね。百点満点の絡み方じゃないの」


「そいつはありがたい」


 二人は並んで昇降口へ向かいつつ、歩くペースを数段落とし、今にも止まってしまいそうな速度で進む。


 そして葉火が珍しく巳舌さんが車を出してくれた、と不思議そうに語り、次いで憂の上機嫌に触れ、「あたしに会えて嬉しいのね」とあながち間違ってはいない発言をした。


「いや。あんたのことだから、あたしからチョコ貰えると思ったんでしょ」


 言って葉火が、んべ、と舌を出し憂に見せつける。

 なにも乗っていないことを示すと、引っ込めて。 


「残念だったわね。とっくに噛み砕いてやったわ。邪魔くさい」


「とか言って、しっかり溶かして味わったんじゃねえの――あ、いいこと思い付いた。葉火の胃液で、溶解液」


「あはははは! あんたの末路が決まったわね!」


 からっとした笑い声を響かせ、その調子のまま葉火は言う。


「あんた、今日暇でしょ。美味しそうなお店見つけたからあたしと――」

「あっ!」


 と、憂は。

 まるで葉火が取り戻しようのない過ちを犯してしまったかのように驚いて。

 目を見開く葉火と見つめ合い。


「……ごめん。悪いけど今日は予定があるから、また今度でいい?」


 頬を掻き、済まなそうに誘いを断った。


「そ。残念ね。その反応を見るに、約束あるの忘れてたんでしょ。おバカねえ」


「違う。今日の予定は葉火ちゃんと遊びに行くことだ、それもいまから取り付ける――というわけで。今日の放課後、僕に付き合ってくれよ」


「はぁ?」


 得体の知れない塊を見るような目が向けられているが、憂は怯まない。

 これ以上なく正気である。自分から誘うと決めた矢先に先手を取られたため、なんとかしようともがいた結果だ。


「今日は僕から誘いたかったんだ。いつも誘われてばっかりだから。まったく、葉火は油断も隙もないよな」


「へえ。なによあんた、可愛いやつね」


 そこで葉火が立ち止まり、憂も同じく足を止める。

 止まって、向き合うと。

 葉火はニィと大胆に口の端を吊り上げ、伸ばした右手を憂の頭に置くと、乱暴に撫で始めた。


「可愛いわ。健気でキュンときたじゃないの」


 小動物を相手にするような、湧き上がる庇護欲を押さえられないような――そんな顔で葉火は微笑んでいる。


 憂は左手で葉火の手を掴んで頭から引き剥がす。

 剥がしただけで、離しはしない。


「ありがとう。それじゃ、放課後空けといてよ。葉火と行ってみたい場所がある。ちょっと怖いかもしれないけど、我慢してくれ」


「平気よ。あの世くらいなら付き合ってあげる」


 揺るぎない自信を表情に込め、優雅に髪をかき上げる葉火。

 礼を告げると葉火は高笑いして再び歩き出したので、憂も続く。


「いざという時は虎南を召喚するわ。あいつは囮。おっとり刀で駆け付けるはずよ」


「虎南ちゃんを捨て駒にするなんて僕が許さない」


「なに言ってんの。虎南を囮にして逃げるのはあんたよ。見捨てられた虎南を助けるのがあたしの役目ね」


「そういや前に似たようなことされたな僕! させるかーっ!」


 たい焼きを報酬にチンピラ役を引き受けた葉火のクラスメイトを思い出しながら、憂は夜々の真似をした。



 〇



「それであたしはどこへ連れ込まれるのかしら」


 ホームルームが終わると同時に教室を出て、寄り道せず脇目も振らず正門までの道のりを駆け抜けたのだが、それでも葉火の先を越すことはできなかった。

 呼吸を整える様子もなく、ずっと前から待っていたように見える。


 そんな自称影分身の使い手は、「さあ行くわよ」と行き先も知らないのに先導しようと歩き出した。


 引き止めて、逆方向へ。

 しばらく進んだところで、憂は唐突に足を止めると進路を180度変更した。


「こうやって相手を惑わすのも効果的らしい。行動の読めない相手ってドキドキする、みたいな話を盗み聞きした人から聞いた」


「盗み聞きなんて趣味の悪い奴もいたものね」


 さらりと昔の自分を非難する葉火だったが、しっかり覚えているのだろう、過去に憂がそうしたように前へ出て進路を塞いでくる。

 憂は葉火の背中に軽く頭突きをお見舞いして、隣に並び直す。


 過去の再現をしながら目的地まで小競り合いを繰り広げ――到着。

 二人が訪れたのは、カラオケ店。


 かつて足を貰えない人魚姫と呼ばれていたらしい葉火だが、店の外観を眺めるその瞳に怖じた色は含まれない。どころか、強敵を前にした強者のように笑っている。


「やるじゃない。いよいよカラオケデビューというわけね。あたしの母性にフィレオフィッシュがいいわ」


「美声にひれ伏すとしよう。ほらおいで、葉火ちゃん」


 カラオケ屋さんを訪れたのは憂も初めてのことである。しかし誘った手前みっともなく狼狽えるわけにはいかない。

 ついておいでと背中で語りながら入店したのだが、流石は葉火ちゃん、瞬く間に憂を抜き去るとテンポ良く受付を済ませてしまった。


 それから指定された部屋まで移動して、中へ入る。

 六人くらいは自由に動き回れそうな広めの空間。

 三つの長いソファが凹型にテーブルを囲んでいて、葉火は鞄と自身を放り投げるようにして真ん中へ陣取った。


「あたしの家のお風呂よりは狭いわね」


「嫌な金持ちみたいな発言するな」


「隣来なさいよ。せっかくの個室なんだから」


 ぱんぱん、と自分の隣を手の平で叩く葉火。

 憂は勝手が分からないなりにマイクとタブレットを持って葉火の隣に腰を下ろし、両方を手渡した。


「それじゃ早速、葉火ちゃんの歌を聞かせてくれ」


「大変よ憂。この機械、ご飯のことしか書いてないわ」


「はひちゃんみたいな機械だな」


 歌いたくないからって適当なことを、と思って画面を覗き込んでみたが、確かにフードメニューばかりが羅列されている。

 どういうカラクリか首を傾げていると、葉火が睨むような視線を向けてきた。


「そういえば。あんたに苦情が届いてるわよ、あたしから」


「な、なんでしょう」


「あんたの所為で、あたしが陰でなんて呼ばれてるか知ってる?」


「……なんて呼ばれてんの?」


 不穏な前置きに憂は身構える。

 葉火は不満気に目を細めると、特大の溜息を吐き、わざとらしく肩を竦めてこう言った。


「はひちゃんって呼ばれてんのよ」


 はひちゃん。

 緊張していたところに間の抜けた響きを差し込まれ、憂は思わず笑ってしまった。


 話によると前々から陰ではひちゃん呼ばわりされているのには気付いていたが、本日とうとう口を滑らせた者が出たのだそうだ。


 以前チンピラ役のオファーを受けてくれたクラスメイトのクラさんが、葉火に話しかけた際「はひちゃん」と呼び、直後に硬直。挙句無言で退場していったらしい。

 想像するだけで微笑ましい光景である。


 それに自分がちょっとしたブームを生みだしたことを、憂は少しだけ嬉しく思った。


「良かったじゃん。親しみやすい奴だと思われてんだよ」


「あんただから許してんのよ。考えてみなさい。はひちゃんって聞いて、どのポケモンを連想する?」


「ヌオー。あの、オオサンショウウオみたいなやつ」


「分かってるじゃない」


 葉火はむぅと唇を尖らせ、ぱっちり目を見開いて、あたしのどこがヌオーなのよと不満を露にする。


「そのギャップがいいんだろ、可愛くて。はひちゃんが不満なら、はひはひって呼ぼうか」


「あんたのことはういういって呼ぶわ」


「はーちゃん」

「うーくん」


「はひたん」

「うれたん」


「人を化合物みたいな呼び方するな」


 適当なラリーを続けつつタブレットを操作して、とりあえずドリンクとフライドポテトを注文する。

 音楽は流れなかった。


 その後デンモクなる電子目次本の存在に気付いた二人が扱いに悪戦苦闘している内、注文した品物が届いた。

 ひとまず、腹ごしらえ。


「歌う場所に来たからって、歌うだけじゃつまらないわよね」


 なんて言いながら葉火はポテトを一本摘まむと、端っこを咥え、憂を向いて「ん」と顎を突き出すようにする。


 反対側の端を咥えろ、というのは分かるけれど。

 そこまでして歌いたくないのかこやつは。


 憂は無言で葉火とその唇から伸びるポテトを見つめる。しばらくそうしていると、痺れを切らしたらしい葉火が吸い込むようにポテトを食べてしまった。


「ポッキーゲームってやつ知らないの? 定番中の定番でしょうに。三耶子も夜々もノータイムで乗ってきたわよ」


「詳しく聞かせてくれよ」


「自分で確かめなさい」


 挑発するようにそう言って、葉火は再びポテトを摘まむと、憂の口に突っ込んだ。

 指ごと。

 人差し指と中指ごと。


 幸い短めのポテトだったため喉奥を貫かれるようなことはなかった――が、そんなことよりも。

 女の子の指が口に入ってくるという未曽有の事態に、憂は硬直する。


 すると。

 するすると、葉火は指を引き抜いた――その表情は、悪意っぽくもどこか残念そうだ。

 

「今日のあんたならいつもの仕返しとばかりに噛んでくるかと思ったけど、違ったわね」


「僕くらいの達人になると、噛まれたことに気付かせない」


「口だけは達者なんだから。いいわ、そんなあんたに一枚噛ませてやろうじゃない」


「なに企んでんだ」


「夜々と三耶子、氷佳に虎南も交えた王様ゲーム。王族はあたしとあんただけ」


「よし乗った!」


 憂と葉火は指切りをして国家の繁栄を誓った。

 滅亡は避けられぬ腐敗国家が誕生した瞬間である。


 嬉しそうにする憂を見た葉火は、呆れたように言う。


「あんたってほんと、男の子よね」


「なんだよ急に。葉火ちゃんは、女の子だよね」


「分かってるじゃない。あんたはいま、オデッセイの美少女と個室で二人きりなのよ」


「オデッセイ……?」


「間違えたわ。絶世の美少女と二人きりなのよ。めちゃくちゃにしてやりたいとか思わないわけ?」


「していいなら、やるけど」


「やってみなさい」


 ずい、と身を乗り出してくる葉火。

 こういった売り言葉に買い言葉、みたいなやり取りは今日まで幾度となく繰り返している。


 葉火ちゃん――に限った話ではないが、距離感がおかしい灯台娘の中でもとりわけヘンテコで身体接触を好む葉火は、隙あらば自身と同じ大胆を憂に求めてくるのだ。


 いかに相手を辱められるかの戦い、とのこと。

 最初こそ抵抗したが、もう慣れてきた。


「じゃあ、目閉じて」


 憂は言った。

 葉火は挑発するように顎を上げて、目を閉じる。


 黙っていれば可愛い――なんて言い回しがあるが、葉火は喋っている方が魅力的だ、と憂は思った。


 そんなことを考えながら。

 どうしたものか考える。


 普段なら頬を突いたり鼻を摘まんだり眉毛を撫でたりするところだが、食傷気味だし――いや待てよ、そういえば先日身に着けた技があるじゃないか。

 閃きのまま憂は行動を開始する。


 右手を葉火の頬に添えるようにして、指先で髪を掻き分け耳に触れる。それから人差し指と中指を折り曲げフックのような形を作り、耳の裏側を撫でた。

 上から下へ、優しくなぞる。


 すると葉火が肩をぴくりと震わせ、目をまん丸く見開いた。

 ――してやったり。

 予想外、といった反応を見た憂はからかうような口調で、


「なにされると思ったんだよ」


 と。

 そう言って。


「可愛いやつ」


 手を自分の方へ戻し、葉火の代名詞ともいえる不敵な笑みを真似た。

 大人が子供をあしらうような態度。

 子ども扱い。

 これは見事に一本取ってやったぞ、と憂は得意になり「最近覚えたお気に入り」と告げた。


 と、ここまでは完璧すぎる程に完璧だったのだが――しかし、憂の天下はあっさり終わりを迎えることとなる。

 油断にまみれた勝利は瞬きの間に覆るのだ。


 なにせ相手は剣ヶ峰葉火――屈辱に震える暇があれば、反撃するのが彼女の王道。


 飛び掛かってきた葉火に、憂は難なく押し倒されてしまった。

 まるで受け入れたかのように。

 押し倒された。


 葉火が這うような体勢で両肩を押さえつけてくる。

 覆いかぶさられる形。


 抵抗しなければ、と判断する頃には全てが遅きに失していて、憂はただただ葉火を見上げることしかできなかった。


「あたしを本気にさせたわね」


 サディスティックに色付けされた表情で、憂を見下ろしながら。

 普段よりも低い声でそう言って、葉火は強気に笑む。


 口元に覗く白い歯が、いまにも噛み付いてきそうだ。


「最近、妙にあんたを食べてやりたくなるのよね。獣の槍を持ってなければとっくに食ってるわ」


「とらちゃん、謝るからやめてくれ」


 身体に力を込めて抵抗を示すも、葉火に無理やり抑え込まれる。

 そして葉火は。

 ふざけた発言と裏腹に目元をきゅっと引き締め、真剣な表情を浮き上がらせた。真剣に聞け、と言外に伝わってくる。

 だから憂は沈黙を以って続きを促す。


 葉火は笑って。


「――あたし、あんたのこと、好きよ」


 一音ずつ大切そうに。


「三耶子も、夜々も。あんたら全員、大好きなの――」


 言い切った。

 というより、打ち切った。

 言い出したらキリがない、とでも言いたげに口を結び、じっと見つめてくる。


 葉火の優しい眼差しはこちらを覗き込むようでも自身を覗かせるようにも見えた。


 ゆっくりと、葉火が顔を近付けてくる。

 憂は思わず目を閉じて、せめてもの抵抗に顔を横に向けた。


 すると。

 葉火は憂の耳元で、唇が触れそうな距離で――


「誰一人、手放すつもりないから」


 と、囁いた。

 それは決意でもなんでもなく、既に確定している事柄を報告しているようだった。


 脳に直接吹きかけられるような吐息に全身が強張る。

 その隙を葉火は見逃さない。

 追撃は終わらない。


 なんと葉火は――耳たぶより少し上のあたりを甘噛みしてきたのだ。

 なにが起きているのかは感覚で分かったが、それでも憂は声を出せなかった。


 いくら口先だけとはいえ、下手に抵抗すると噛み千切られるかもしれない。

 大人しく葉火が満足するのを待つことにする。

 左胸だけは触らないでくれ、と憂は思った。


 しばらくして憂を解放し元の位置へ座り直した葉火は、恥じらい一つなく髪をかき上げ、「美味しくはなかったわね」と辛辣な評価を投げてくる。

 そして起き上がった憂からの咎めるような視線もなんのその、意地の悪い顔で葉火は微笑む。


「なにされると思ったのよ」


「多分そのセリフは正しくない……」


「この程度でだらしないわね。夜々と三耶子は喜んでたわよ」


「二人にも同じことやったのか」


「当然じゃないの」


 迷いなく言い切る葉火の頬が赤らんだことを憂は見逃さなかった。

 僕の時はなにも感じていなかったというのに、二人を思い出した途端紅潮するとは、一体なにがあったのだろう。


「……なにがあったの? 反応が大違いだけど」


「あいつら凄いのよ、ほんと。気を付けなさい。あたしよりあいつらの方が、よっぽど肉食だから」


「まさかぁ」


 葉火は答えずに俯いて、顔の熱を冷ますためか大きく首を横に振り、乱れた髪を手櫛で整える。


「そういうわけだから。あんたも好きにやりなさい」


「どういうわけで……? 十分好きにさせてもらってるよ」


「というわけで、あたしも好きにやるわ」


 今更な発言と共に葉火はごろんと寝転び、憂の膝に頭を乗せた。

 かつてとは逆の構図の膝枕。

 いくらなんでも好き放題すぎるが――甘えられるのは嫌じゃない。


「ちょっと眠るわ。あんたは好きに歌ってなさい」


「葉火ちゃんの歌、聞きたいんだけど――ま、いいか。頭撫でてやるよ」


「寝てるあたしに触れると危険よ」


「大人しくしてます」


 一秒かからず眠れるらしい葉火は、あっという間にすやすやと寝息を立て始めた。


 葉火が自分の膝の上で無防備に寝ているという状況には緊張するものがあった――寝ぼけて噛み付かれたりしないだろうか。

 寝相、悪いらしいし。


 憂は衝撃を与えないように葉火の顔の前に手を翳したり、小声で呼びかけたりして寝ているのかを確認する。

 どうやら本当に眠っているようだ。

 だから憂はエア葉火の頭を撫でながら、氷佳におやすみと告げる時のトーンで、言った。


「溶解液垂らすなよ」


 太ももを思い切り噛まれた。

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