葉火ちゃんの王子様(偽)

 葉火さんとの結婚を認めてください、なんて冗談を言える空気ではなかった。


 呼吸すら慎重になってしまうほどの厳粛さに満ちた空間――葉火の部屋よりも広い和室で、憂は葉火の祖母と一対一で対峙していた。互いに正座で背筋を伸ばし、如何にも高級な唐木の座卓を挟んで向かい合っているところである。


 憂はこの状況を作り上げた、ほんの数秒前の葉火を思い出す。


 回想始め。


 一対一の方がおばあちゃん好みよ。いってらっしゃい。あたしの部屋で待ってるわ。


 回想終わり。


 せめてこの部屋の前で待ってろと言いたかったが、その隙は与えられなかったし、家政婦の巳舌みずさんが扉の前に控えているようなので、嫌われているという事情を考慮すれば葉火の判断が正しいのかもしれない。


 まあいい。あれこれ不満を垂れても詮無いことである。

 そんなことよりなによりまずは、自己紹介だ。


 憂は頭を下げながら言う。


「初めまして、姉倉憂と申します。本日は突然の訪問にも関わらず、 お時間いただきありがとうございます」


三境みさかい火富ひとみです。そんなに畏まらないでください」


 祖母――火富は淡々と応じた。

 憂は一層身体を強張らせつつ、火富の顔を見返す。


 五十代後半くらいだろうか。顔に刻まれた皺の数々からは、酸いも甘いも嚙み分けてきただろう人生経験の深さが窺える。積み重ねを厚みとしていける人なのだろう、火富の放つ気品は、見掛け倒しでない、地に足のついた本物であるように感じられた。


 洗練、されている。

 葉火とは対照的に、静かに燃えている。


「姉倉さん。最初に聞かせて欲しいのですが、あなたと葉火は、どういった関係なのでしょう」

 

 と、火富が言った。

 当然の質問である。


 火富から見た姉倉憂という人物は、現状、謎多き変態に違いない。


 孫娘の膝の上に頭を乗せ、自身の腹には小娘を置き、目上の人物が姿を見せてなお体勢を変えなかった不届き者だ。少なくとも常識は著しく欠如していると判断されていることだろう。


 ――それはあなたのお孫さんなんです、なんて言えるはずもなく。


 憂はひとまず嘘だけはつかないと心に決めた。お願いに来た立場だ、不自然を見破られて怪しまれることは避けたい。


「友人です」

「友人ですか」


 火富の声は平坦だ。

 本当にその答えでいいのか――そんな風に訊かれた気がして、憂は小さく首を振る。


「……いえ。言い直します。大切な、友人です。本人には言ってないんですが、僕は彼女に憧れています」


「憧れ?」


 学校の話をほとんどしてこなかった、と葉火は言っていた。

 であれば、友人から見た孫娘の話は、過保護だという火富の興味を引くに足るだろう。

 本題へ入るための、助走。


「かっこいいんですよ、葉火さんって。真っすぐな性格で自信満々に、言いたいこと言ってやりたいようにやって、貫き通すところが、僕みたいな奴には眩しくて――あんな風になれたならなって思わされます」


「迷惑を掛けていませんか?」


「……正直、掛けていないとは言えません」


 偽りようのない事実を告げて。

 間を置かず続ける。


「僕だって迷惑を掛けてます。きっと、みんながみんな、誰かに迷惑を掛けてるんだと思います。それは悪いことばかりじゃないけれど、直せる部分は直すべきだって、そんな風に葉火さんと話しました。だから僕は葉火さんと、他ならぬ葉火さんと、欠点を言い合って補い合って、少しずつ成長していきたいと思っています」


「なるほど……それは確かに、友人ですね。では、姉倉さんの思う葉火の欠点を聞かせてもらえますか」


「……周りを気にしない性格が、時に欠点になっているかと」


「あの子は、ワガママでしょう」


「魅力的でもあると思います」


「そうですか」


 と、目を伏せる火富の声は無感情だったが、口元がほんのわずかに綻んだ――ように見えたのは、もしかすると憂の見間違いかもしれない。

 それくらい、些細な変化だった。


「気の強い子ですが、昔はお姫様に憧れていたんですよ」


「マジですか?」


 驚きで言葉遣いが乱れすぎた。憂は口元を抑えて一礼する。


「幼い頃は『いつか王子様が迎えに来るんだって』とはにかむロマンチックな子でした。それがある日『よく分かんないけど、幸福は一夜おくれて来るらしいの』と言い出して。そこまでは分かるのですが」


「それからが分からないと……?」


「今では『仲間と共に切磋琢磨し、王子という恵まれた血に勝利してこその主人公』などと言っているのです。私にはよく分かりません」


「……それは葉火さんの良い所です。安心してください」


 活字に触れてはみたけど少年漫画の方が肌に合っていた、と、そういうことだろう。


 空気が軽くなるのを感じ取り、憂は言った。


「葉火さんと話すのは楽しいです。そんな彼女の友人として――本日はお願いに参りました」


 憂は改めて姿勢を正し、火富の目を真っすぐ見据える。

 ここからが本題。今更回り道など必要ない、単刀直入に切り出すのみだ。


「葉火さんの居残りを認めてあげてください。文化祭が終わるまでの間でいいんです。帰宅時間が遅くなる場合、僕が責任をもって自宅まで送り届けると約束します」


「責任という言葉を軽々しく用いる者を、私は、信用しません」


 ぴしゃり、と。

 叱るような語調で、火富は言い切った。


「万が一にも葉火に何かがあった際、姉倉さんはどう言い訳するつもりですか。よもや誠心誠意謝るなどとは言いませんね」


 表情も、声も、雰囲気も、言葉選びも。

 そのどれもが鋭利に研ぎ澄まされていく。

 突き刺される。

 突き放される。


 ――なにが勝ったも同然だよ葉火ちゃん。身内相手に目が曇りすぎだ。

 内心恨み言を呟きつつ、火富から目を逸らさないようにする。


「葉火を友人として大切に想ってくれていることは、心から感謝しています。しかし――残念ですが、私はあなたを信用できません」


「信用、ですか」


「私はあなたが葉火を守る姿を想像できない。古い考えだと笑われても、構いません。有事の際に身体を張れない男に、葉火を任せるわけにはいかないのです」


「出会ったばかりでそう判断されるのは、納得がいきません」


「葉火の部屋で見た光景が忘れられない。思い出すと、頭が痛くなります」


 耳の痛い話だった。

 ぐうの音も出ない。

 何一つ、言い返せない。


 葉火に対してならば、舌が渇くまで文句を言い続けられる自信がある。

 それくらい、あの膝枕が致命的。

 後悔は全然していないけれども。


 いやしかし、あれだけの醜態を晒しておきながら「納得いきません」などとよく言えたものである。


「ですから、わざわざ来ていただいて申し訳ないですが、認めることはできません」


「僕が浅はかだったことは謝ります。けれど、決して軽い気持ちで言ったつもりはありません」


「話は終わりです」


「待ってください。お願いします、葉火さんが必要なんです」


 憂は必死に食い下がるが、火富は目を閉じ一切取り合わない。


「巳舌さん。お帰りだそうです」


 火富の呼びかけに、障子が開く。


 現れたのは巳舌さんと呼ばれる家政婦――先程すれ違った時は顔をよく見ていなくて気付かなかったが、その人は、過去に憂と夜々がここを訪れた際に対応してくれた少女だった。


 その事実に驚いていると、迫って来た巳舌さんに腕を掴まれ、憂は強引に退室させられた。華奢な身体つきだが力は強かった。


 おとといきやがれ――下品な口上と共に戸が閉じられる。

 なんて口の悪い人だクビにした方がいいぞ、と憂は思った。


 戸をじっと見つめる。

 そりゃあ、こちらにも不手際や無礼があったけど、にしてもあんまりじゃないか。

 スタートが悪すぎたのは一旦忘れるとして。信用できないなりに挽回のチャンスを与えてくれても――いや、それは責任転嫁か。


 立ち尽くす憂の背に、声が掛けられる。


「憂。こっち来なさい」


 振り返ると、二つ隣の部屋から顔を出した葉火が手招きをしているのが見えた。

 憂は重たい足取りでそちらへ向かい、部屋へ入る。葉火の背中に虎南がくっついていた。


「どうだった?」葉火が訊く。


「……ダメだった」


 済まなそうに答える憂。

 そんな憂の頭をわしわしと乱暴に撫でながら、葉火は、気にしてないとでもいう風に。

 豪快な笑顔を見せた。


「ま、仕方ないわね。おばあちゃん頑固だし。期待はしてたけど、だからって気に病む必要ないわよ」


 ――情けない。なんて頼りない男なんだ。

 そう思いながらも。

 段々と思考が熱を帯びていく。

 やっぱり納得いかない。


 火富の親心は理解できるが、それはそれとして、こちらの子供心もぶつけさせてもらわなければ不公平だ――いや、そんな理屈はどうでもいい。


 お願い、と友達から頼まれた。

 一番大事なことだ。

 このまま終わってたまるか。


「ああ、気に病まない。なにを言ってるんだ葉火ちゃん。気に病む必要がない。だってまだ終わってなんかいないんだから。どころか始まってすらいない。いまのはプロローグより更に手前だ」


 憂は声に覇気を乗せて答えた。

 つまりこれから始まるんだと澄まし顔で、表面上はクールを装いながら、そんな文句を謳いあげる。


 虎南は怪訝そうな表情。

 葉火は好敵手を見つけた悪役のように、口の端を上げた。


「連載前の読切みたいなことね。次は三人で攻め込みましょうか」


「いや。もう一度、僕一人で行ってくる。悪いけどキミらの出番は訪れない。引っ込んでなよ葉火ちゃん」


「――あはっ。なによなによ、物凄く心躍るじゃないの」


 憂がすべきは火富を納得させること。

 葉火を任せられる男だと証明すること。


 火富が求めているのは――いざという時に身を挺して相手を守るような、男らしさ。頼りになる面を見せてみろ、想像させてみろと、そういうことだった。


 正解なんて分かるはずもない。

 だから思い付きのまま動くことにした。


 憂はポケットからスマホを取り出し、カメラを起動して虎南に手渡す。

 

「な、なんですかどうしろと? 自撮りでいいですか? やったことないですけど」


「僕を撮ってもらう。合図するからちょっと待ってて。で、葉火ちゃん」


「あたしに何をしてほしいのかしら」


 期待に胸を膨らませているらしい葉火が、前のめりで訊いてくる。

 憂はその隣に並んで「じっとしててくれ」と言う。


 そして。

 いきなり。

 許可も得ず。


 右腕を葉火の背中へ回し、左腕は両膝へ回して――強引に、葉火の身体を抱え上げた。

 お姫様抱っこである。


「ちょ、ちょっと。なによいきなり。なにすんのよ」


「お姫様抱っこ。写真を撮っておばあさまに見せる。ほら笑えよ葉火ちゃん」


「はあ!? 全然意味分かんないわ!」


 いくらなんでも予想外だったのだろう、葉火は暴れこそしなかったが、明らかに動揺している。


 突拍子の無い行動であるが、憂の中で一応の筋らしきものは通っている。


 相手は確固たる自己を持つ大人だから、正攻法だけで打ち勝つのは難しそうだ――ならば想像の外側にあるアクションを起こす必要がある。

 そうしてこちらのペースへ引きずり込むのだ。


 火富は葉火を愛しているが、言動が理解しがたいことは認めていた。

 ということは葉火を参考にすればいい。

 そんな思考をもとに憂の辿り着いた答えが、お姫様抱っこである。


 女の子に挟まれてニヤついていた男が、こんなに大胆な行動を起こせるとは思うまい。きっと見直すはずだ。

 それに古き良き男らしさを求める火富に、この分かりやすい男女の構図は効果的であるように思えた。


 なにより――勘ではあるけれど、葉火がお姫様扱いされることを、火富は喜びそうだと思った。


「葉火ちゃん、お姫様に憧れてたんだろ。相手役が僕で悪いけど、必要なことだから我慢してくれ。さあ虎南ちゃん、撮って」


「わ、私の葉火さんが奪われちゃう! その結婚ちょっと待ったぁー!」


「いいから早く。めちゃくちゃ重いんだよ」


 いつものように段々と冷静になってきた憂は、自然に中断するべく軽口を飛ばしてみたが、葉火からのアクションは無い。

 恐ろしいくらい静かに、この状況を受け入れている。


 なので、続行。

 そこまで重くはないがずっと続けられるかと言われたら間違いなく無理なので、早く撮ってくれと虎南を急かす。


 虎南はむすっとして一向に撮影を始めなかったが、葉火に「あとで虎南にもやってあげるわ」と言われ、無事カメラマンとして産声をあげた。

 消去法でも虎南ちゃんは今後絶対選ばねえ、と憂は密かに決意した。


 撮影を終えて、葉火を降ろす。

 葉火はじーっと憂を見つめたのち、嬉しそうに笑う。


「楽しかったわ。ありがとね憂。おかげで一つ、夢が叶っちゃった。結婚式に乱入されてみたかったのよ」


「そっちかよ。ま、それなら良かった。ところで葉火ちゃん、考えてみたら僕、相当ヤバいことやってるよな。いまになって震えてきやがった。だって意味分かんねえもん」


「憂って頭おかしいわよね。本人には言うんじゃないわよ」


 葉火に言われるということは――そういうことだった。

 これはいよいよ、説得を成功させなければ他人の家で奇行を繰り返しただけの男に成り下がってしまう。


 果たしてそもそも挽回可能な程度なのかが疑問だが、反省はあとだ。

 一度アホを選んだ以上、貫き通すしかない。

 貫き通せばかっこいいかもしれない。


「今日のあんた、いつも以上にあたし好みね。なにか良いことあった?」


「あったよ。あの葉火ちゃんに頼み事されたんだ。何とかしてと望まれたんだ。張り切らないわけないだろ」


 虎南からスマホを受け取り、写真を確認してポケットへ戻す。


「たった一度の失敗で諦めるほど軽い気持ちで臨んでないし、それに言われっぱなしで黙ってられる性分でもないんでね。じゃ、葉火ちゃんを任されに行ってくる。僕のことはプリンスと呼べ」


「嫌よこっちが恥ずかしい」


 廊下へ一歩を踏み出した憂に向け、葉火が呆れたように笑いかける。


「あんた、ものすごくバカね。そういうとこ、好きよ」


「お揃いだな」


 そうして憂は再び、火富のいる部屋へ向かった。戸の前で立ち止まり、息を吸って呼びかける。


 対応した巳舌さんと入れ替わりで憂が室内へ。

 先程と同じ配置で、同じような空気で、仕切り直し。


 覚悟を新たに憂が切り出そうとしたところで――


「ごめんなさいね」


 と火富が言った。

 柔らかい笑みを添えて。


 別人のような穏やかさに憂は面食らい「ぬぇ」と夜々の真似をした。


「先程の発言は撤回します。意地の悪い真似をして、ごめんなさい。あなたがどういう人間なのか、覗いてみたくって」


「えーっと……?」


「葉火から聞いていたものですから。その……色々と、頼れる話を」


「あー……そういうことですか。僕のこと、嫌な奴かもと思ったんですね」


 火富は困ったように微笑んだ。思ったらしい。


「信頼できる方で安心しました。最初から決めてはいたんです。葉火の選んだ相手なら、私も信じようと。しかしどうしても、一目見ておきたくて、連れて来るよう言いました」


 まさか翌日とは思わなかった、なんて吐露をして火富は微笑む。

 それを見て、憂は自分の身体から力が抜けていくのを感じた。


 最初から認めるつもりで、顔合わせさえできれば、それで良かった。

 つまり葉火が余計なことを言わなければ、あっさり済んでいたということだ。


 憂は思う。

 ――葉火ちゃんはあれだ。味方のフリした敵。


「余程の変人でなければ、問題なかったということですね。ちなみに僕は大丈夫でしたか?」


「はい。部屋での一件は未だによく分かりませんが……」


「ごめんなさい」


「帳消しにするだけの甲斐性を見せてもらいました」


「甲斐性ですか?」


「追い返されて、すぐにまた挑みかかってきました。それも、一人で。充分です」


 憂は照れくささから目を逸らし、頬を掻きながら、火富に訊く。


「聞くのは野暮かもしれませんが……葉火さんの居残りを認めていただける、ということで、いいでしょうか」


「はい。あんなに必死な葉火を見たのは、久しぶりでした。あの子はいま、学校が楽しいんでしょうね。ありがとう、姉倉さん」


「葉火さんのおかげで、僕も楽しいです」


「だからこそ、羽目を外し過ぎないか心配で。葉火には過保護だと不満を持たれているみたい」


 そう言って火富は、更に柔らかく微笑する。

 気持ちは分かる。憂も氷佳に対してはめちゃくちゃに過保護だ。あれは頭で分かっていても、どうにもならない。


「理屈でどうにかなる問題じゃ、ないですよね」


「そうですね」


 和やかな空気が場に満ちていき、それから少し、葉火の話をして。

 一区切りついた折、火富が深く頭を下げた。


「今日は葉火のために、ありがとう。これからも、葉火を――娘をお願いします」


 娘をよろしく――孫ではなく、孫娘でもなく、娘。

 はなから裏切るつもりなどないが、期待に応えてみせようと強く思った。


 憂も同じように頭を下げ、精一杯の感謝を伝える。

 どこか儀式めいたやり取りを終え、憂は立ち上がり、もう一度深く感謝を告げて、部屋を出た。



 二つ隣の部屋へ戻ると、お姫様抱っこをされてご満悦の虎南と、平気な顔で小娘を抱え続ける葉火の姿があった。


 結局、葉火を抱っこした意味は少しも無かった――あたしを抱っこしたかっただけでしょ、なんて言われてはたまらないので、打ち明けるのは先延ばし。


 葉火と目が合う。

 憂は不敵な笑みを浮かべて言った。


「居残りしていいってさ。良かったな」

「やるじゃない憂! ありがと!」


 葉火は邪気のない笑顔で素直に喜びながら、抱いている虎南を座布団へ投げ捨てた。「なーっ!」と喚きながらも虎南は綺麗な受け身を取った。


「悪いけど、スマホの件までは気が回らなかった。そこは自分でなんとかしてくれ」


「お安い御用ね。ここで意地を優先するほど傲慢じゃないわ。あたしもかっこよく決めてやるんだから! 負けないわよ! さあ、ついて来なさい虎南!」


「はい! どこまでついて行きますっ! しあーはーとあたっくです!」


 気の毒なことに虎南ウイルスに感染したのだろう、変に上機嫌な葉火が、気品の欠片もなく走って部屋を飛び出していく。虎南も「うおりゃー!」とあとに続いた。


 行き先は、どうやら火富の部屋らしい。しばし悩んで憂は二人を追いかけた。


 それからも色々あったが――長くなるため一言にまとめると。

 葉火は、スマホを手に入れた。




 その日の夜、憂のもとに葉火からメッセージが届いた。

 初めてのやり取りが以下である。


『あんたのあだ名考えてやったわ。感謝も込めて、アイラブ憂。本命は氷佳』


『はひちゃん文字打つのジョーズだね』


『面倒でもようかで変換しなさいよ。腹立つわね』

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