第45話 兄姉愛
「……どうやら去ったみたいだな」
誰もいなくなった場所を眺め、外の光にもすっかり慣れた瞳で、カインは大きく溜め息を吐く。
今すぐにでもマイン村へ行って、ジニアとミレアをぶっ飛ばしたいが、本当にそれをやるとなれば、間違いなく他の村人を巻き込む。
カインたちには正体を明かしたものの、村人は彼らが【観測者】であることを知らない。ましてや村長としての地位がある以上、権力を利用してこちらが悪だと吹聴し、村人に襲わせてくる可能性だってある。
少なくとも、輝石の製造法を得るまでは下手に関わらないほうがいいだろう。
「なんだかデカいことになっちまったな」
しかし後悔はない。正しいと思うことを遂行し、間違っていると思うことと戦い、自分の道は自力で勝ち取る。
【観測者】たちを退ける方法が思いついたわけではないが、前へ進んでいけば必ず道は開けるはず。
そう思い、カインは未来に備えてもっと力と経験を身に付けようと心に誓った。
「「カイーン」」
「ちょ、お前ら、気色悪ぃっての!」
いきなり後ろから抱きついてきたバルムとリーシャに、カインは嫌そうに身をよじる。
「どこにも怪我はない? 体の隅々まで調べさせて?」
「疲れてませんの? 必要ならバルムに背負わせて、街まで戻りますわよ?」
「過保護過ぎんだろ。たいした怪我してねーし、一人で歩けるっつの」
擦り傷切り傷はあるが、数日すれば跡も残らない程度のものばかりだ。
あれだけの死地をくぐり抜けてきて、大怪我すら負っていないのは奇跡に近い。
「ってか、お前らのほうが酷い怪我して……」
それもこれも、兄姉が身を挺して守ってくれたからに他ならない。
詳細に状態を診たわけではないが、バルムの横腹、リーシャの右肩もさぞかし酷いことになっているだろうと、カインがそれぞれの傷に視線を向けるが。
「うふふっ。あの程度の怪我、もう治ったわっ」
「おほほっ。私たちの精神力をもってすれば、造作もないことですわっ」
「……いや、精神力は関係ないだろ……」
本当に傷一つない横腹と肩に、現実逃避するように冷静なツッコミがカインの口から出た。
今まで二人が大怪我を負ったことがなかったせいで、回復力まで化け物じみているとは知らなかった。
おそらくは
一般的な
「次からはガンガン、敵のど真ん中に放り込むからな」
改めて兄姉の驚異的な能力に、カインは劣等感を隠すように軽口を叩いた。
「んじゃま、こんな縁起の悪い場所とっととおさらばして、輝石を売って美味い飯でも食いに行くか!」
兄姉が大怪我をしていたため、
【観測者】のことは許せないが、相手が
キラキラとした光を内包している人の頭大の輝石に近づきながら、カインは生きる者のしたたかさを見せつけ。
「二人が居てくれて助かった。ありがとな」
輝石の前でパッと振り返り、バルムとリーシャに悪戯っぽい笑みを送った。
「あらぁん。カインがデレるなんて、これはパーティー開かなきゃいけないわっ」
「素晴らしいですわっ。街中を馬車でパレードですわっ」
「今の取り消し俺は何も言わなかったいいなそれで先行くぞ!」
ちょっと隙を覗かせた瞬間、世界最強の弟バカたちが諸手を挙げて感動し、抱きしめようとスキップで近づいてきた。
それを避けようと、カインは一気にまくし立て、輝石を抱えて出口へ走る。
「うふふっ。カインが生まれてからずっとストーカーしてた私たちから逃げられるとでも思って?」
「おほほっ。これからもずっと付いて行きますわよ!」
「嘘だろっ!? マジ勘弁してくれ!!」
衝撃の事実を口走るバルムと、死の宣告に似た発言をするリーシャに、カインは恐怖し顔を引きつらせる。
オネエな兄と女王様な姉。
二人の最強タッグにカインは翻弄され、命を削るような試練に身を投じさせられるだろう。
体を鍛え心を鍛え、いつかは兄のようにマッチョで姉のようにメンタルタフネスな最強の人間に…………なりたくはないが、
これからも難敵と厳しい局面にぶち当たっていくだろう。
しかし、最凶には最強と共に立ち向かい、必ず乗り越えていく。
バルムとリーシャに追いかけられながらも、今後に不安はなく、晴れ渡った青空のように爽やかな心に期待を込めて、カインはギャーギャー騒ぐ声を背に走り続けた。
他惑星に侵略されても、おねえさまたちは最強でした タムラユウガ @tamu51
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