第43話 観測者ミレア

 兄妹なのだからミレアも【観測者】だと考えるのが当然だ。今まで兄の横で黙って聞いていたが、口を出さずにはいられなくなったというところだろう。

 しかし、ミレアたちの世界──惑星に人間がどれほどいるか、カインにわかるはずがない。

 何を言いたいのか理解不能な発言にカインが怒りも忘れて困惑していると、ミレアはハッキリとした口調で告げた。


『二百億人です』

「──ッ!?」


 自分の予想を超えた圧倒的な人数に、カインは息を飲む。

 惑星アネスタにある巨大都市でも、人口は一万に届くか届かないかと言われている。世界地図すら誕生していない世界で正確な人口を知る術はカインにはないが、おそらく億単位もいないと推測される。

 想像もできない数の人類がひしめき合い、他の惑星も侵略しながら生きている世界。

 その規模感に圧倒され、カインは言葉を紡ぐことができなかったが、ミレアの言は続く。


『膨大な大地と資源があれば、自分たちの世界だけで生きていくことも可能でした。ですが、どんなに科学を進歩させようと、今の私たちには到達できない限界があります。だからこそ、他惑星にそれを求めることにしたのです』


 増えすぎた人口に対し、自分たちの惑星では手狭になった。ゆえに、他者を虐げて略奪し、自分たちの植民地とする。

 かつては惑星アネスタでも他国に対して行われていた植民地化ではある。だがそれを惑星単位で行う度量と技術力は目を見張るものがあった。


『輝石というエネルギー源を生み出す術はありますし、それを軍事利用することも可能です。実際に輝石を利用して生み出したのが魔霊種レイスですから。ですが輝石を動力源とする魔霊種レイスは、自らエネルギー補給することはできず、力を消費し切るか数ヵ月経ったら消滅してしまいます。だからこそ、生きている限りエネルギーを生み出し続けられる私たちの惑星の人間が、心力マナを自由に扱えるようになれば、軍事問題はほぼ解決すると言っても過言ではありません』


 正体を隠すことをやめ、洗いざらいしゃべれるようになったミレアは饒舌に語る。

 ジニアも二導影リシャドウを通して冷淡な印象に変わったが、ミレアは兄以上にギャップが大きい。

 サイコパスな人間が本性を現したに等しい豹変に、呆気に取られているのかバルムとリーシャは黙っていた。


「俺らは心力マナを研究するための実験動物ってことかよ」

『惑星アネスタの大地と資源は欲しいですが、あなたたちは強すぎました。もちろん最大限の火力を以てすれば蹂躙は可能ですが、同時にこの世界を破壊し尽くしてしまいます。だからこそ、植民地化することをやめ、他の惑星を侵略するときの軍事力を得ようと考えたわけです』


 カインに怒りにミレアは淡々と応える。

 いくら自分たちが軍事利用のための実験動物として扱われているとはいえ、輝石を失えば生活に根付いたエネルギー源がなくなり、今の生活水準を保てなくなる。


 また真実の話が拡がれば、世界は大混乱に陥り、道徳心や怒りの感情によって【観測者】を排除しようとする者と、輝石による恩恵で発展して便利になった生活や覚星者かくせいしゃとしての仕事を守ろうとする者の間で争いが起こる。


 口ごもっていた覚星者かくせいしゃたちはこの事実を知ったからこそ、他人に言うことができなかったのだとカインは悟った。


「輝石も星託せいたくも、すべて仕組まれてたってことかよ」


 輝石というエネルギー源をバラ撒き、文明を発展させて輝石に依存するように仕向ける。

 そして輝石をエサに、魔霊種レイスと戦わせたり星託せいたくを遂行させることで、心力マナそのものや覚星者かくせいしゃの能力を観測し、自分たちのモノとする。

 それが【観測者】たちの本当の目的であり、真実にたどり着いた覚星者かくせいしゃだけが知る、誰にも言えない筋書きだった。


星託せいたくの一番星を何度か手にした覚星者かくせいしゃには、研究所で特別コース──いくつかの試練と瘴機種カースとの戦闘をテストしていましたが』

「許せないわね」


 ミレアが楽しげにネタばらしをし続けようとしていると、ここまで黙っていたバルムがビシッと二導影リシャドウを指差し、不服そうに表情を歪めた。

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