第42話 観測者ジニア
『この試験場の責任者として、あなたたちの記録は録らせて貰いましたが……あのような方法で侵入し、変則的なやり方で試験場を突破したあげく、圧倒的な力で
褒めているようでどこか冷めた口調に、カインは薄ら寒いものを感じる。
見た目は
【観測者】が試験場を用意し、
しかしまさか
人を騙すのが相当得意なのだろう。村で話していたときの温かみのある雰囲気は声音からいっさい伝わってこない。
人間そのものを実験に用いるような連中だ。その責任者ともなれば、性格も推して知るべしといったところか。
驚きはあるが、すぐに状況を理解したカインは冷静さを取り戻してジニアに問うた。
「責任者っつーことは、いろいろ知ってるってことだよな? 実は昔から一つ聞きてーことがあったんだ」
「なんで
この世界に
実験によって
輝石というエネルギー源の見返りがあるとはいえ、かつてはいなかった
平穏としていた世界に騒乱を持ち込んだ相手の正体はおろか、目的すら定かではない。
破壊と混乱を撒き散らされている憎しみもある。一方で輝石という恩恵を与えている相反する行動をする【観測者】そのものへの知的好奇心もある。
そんなカインの思いに、【観測者】であるジニアは
『武力を増強し、他惑星を侵略──つまり、他者の住んでいる地を力づくで奪って植民地化し、自分たちのものとしたいからです』
「それとこれと、俺たちとなんの関係があんだよ」
他者を虐げ強奪したいなら、なぜこの地の侵略を諦め、
最初は
しかし諦めて去るわけではなく、
カインは真意を探ろうと、瞳のない
『私たちは、あなたたちの
我々は偉業を成そうとしていると告げるように、
その様は、崇高な目的のためなら他者の命を軽んじる、狂った研究者の姿に見えた。
「つまり、お前たちのくだらない遊びに付き合わされてたってことだな」
カインはグワッと頭が熱くなり、熱気を帯びた気配を漂わせ始める。
何もかも理不尽で自分勝手な目的と行動に、怒りを通り越した黒い感情が渦巻く。
知らなかったこととはいえ、思うように踊らされ、誰かを傷つけるための研究材料にされていたという事実に、カインは自分自身にも腹が立ってきた。
しかしそれだけなら、真実を知っている他の
『あなたは素晴らしいサンプルです。今後も私たちの研究対象として観察させて貰いたいですね』
顔は黒い
「俺はお前らのオモチャじゃねぇっ!!」
カインは瞬時に足元の影を伸ばし、無数の刃を
生物はもちろん、
『コレはホログラム。どんな攻撃も効きません』
スルリと影の帯をすり抜けるように、
初対面のときに拘束できなかったので、攻撃が通じないことは百も承知だったが、怒りを相手にぶつけたいという本能が理性を上回った。
それほどに、命を弄んでいる相手が許せなかった。
「このこと、世界中の人間に知らせて、お前たちの研究を潰してやるからな!」
惑星アネスタに住むすべての人々が真実を知れば、奮起された人たちがレジスタンスとして施設を破壊して回ったり、逆に研究材料にならないように
当然そうなるはずだと、カインは固く信じて相手を挑発するが。
『実力はあるようですが、頭はあまり良くないようですね』
ジニアは失笑を禁じえないように、手を口元に持ってきてニヤリと口角を上げた。
『今や、
小手調べでもしたいのか、ジニアは試すような口調で問いかけてくる。
「小さな子供でも知ってること聞いて、何になるってんだ」
その態度と小馬鹿にした発言に、カインはイラつきながら答えた。
『人間は一度便利さを覚えてしまうと、いくら不都合が生じるとしても、そこから逆戻りすることを心理的に拒みます。ここまで言えば、理解できますか?』
もったいぶった物言いに即座に答えを要求したくなったが、瞬間的に頭を巡った考えに、カインはハッとして目を見開いた。
「輝石を得るために
自分たちが他人を殺すための実験に利用されていると知っても、生活に欠かせない輝石を供給してくれる【観測者】たちに反旗を翻さない。ジニアは必ずそうなると、確信を持っているようだった。
『真実が広がれば、一部には退化を受け入れ許容する者、怒りを覚え私たちに反抗する者も現れるでしょう。しかし人間の根源は、より良く生きたいという欲求には抗えません。それを覆すことは不可能です』
全知全能の神が人間を見限るかのごときジニアの断言。可能性を信じられなくなった者の憂鬱そうな言葉に、カインは噛みついた。
「そんなの、やってみなくちゃわからねーだろ! 自分たちが他人を傷つける片棒を担がされてると知ればきっと……」
『私たちの世界に、人間がどれくらいいるか、わかりますか?』
人間の可能性を信じるカインに、まるで痺れを切らしたように、
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