第41話 弟愛
「なっ……くっ……」
突如、降り注ぎ始めた太陽の強い光に、イメアは大げさなほど狼狽える。
その様子はまるでゾンビが聖なる祝福を受けて浄化される、絵画に描かれた一幕のようだ。
目だけでなく心を焼くような灼熱感に耐え切れず、イメアは日光の当たらない影に飛び込もうと試みるが。
「貴様ら、何をするっ!?」
ここぞとばかりにリーシャが鞭でイメアの胴体を捕縛し、背後からバルムが羽交い絞めにして、絶対に逃さないと全力で押さえ込みにかかった。
「くっ……うぁ……」
全身を陽に照らされ、網膜を焼き付けるような痛みがイメアを襲う。
なんとか逃れようと自身の影を操り二人を弾き飛ばそうとするが、急激に薄まっていく意識に朦朧とし、上手く操作できずにうめき声を漏らす。
「私たちのカイン!」「帰ってきなさい!」
愚直な願いを叫ぶリーシャとバルムの声が開いた穴から空へと響き、心なしか太陽の光が強さを増す。
光の導き。兄姉の想い。
二つが重なって注がれ、イメアの意識を白が埋め尽くしていく。
精神が浄化され天に召されるような感覚に、イメアは必死に抗おうとするが、意識は強制的に眠りに落ちた。
「……………………いてぇ………………」
項垂れ動かなくなった弟から、ポソリと呟く声が漏れる。
体や軽装鎧を覆っていた影も角も空気に溶けるように消え、カインは普段の見た目に戻り。
「……ぃぃぃっいてててててッ! いてーよ、離せよ馬鹿ッ!」
いつも通りのカインが罵倒する声が、羽交い絞めにしていたバルムに向けられた。
「イメアの演技かもしれないわ。まだ離さないわよ!」
「馬鹿野郎、もう元の俺に戻ってるよッ! ほ、骨が折れるッ!」
「もっと締め付ければ本性を現すかもしれませんわ!」
「体が上下に分断されるわッ!」
イメアからカインに戻ったにもかかわらず、イメアによる虚言を疑いさらに力を込めて拘束してくる兄姉に、カインは死にそうな顔をして解放を訴えた。
「カイン……ですの?」
必死の形相にさすがに演技ではないと感じたのか、リーシャが鞭を引く手を緩める。
「だから俺だって言ってんだろッ! 可愛い弟とか普段言ってるくせに、見分けもできねーのかよッ!」
痛みと苦しさからイラ立ちのボルテージが上がり、リーシャに向かって吠えた後、未だに締め上げているバルムにも振り返ってガンをつけた。
「本当にカイン……なの?」
解放はしないものの、太い腕から筋肉の盛り上がりが落ち着く。
声音も口調も魔王然としていたものから、聞きなれたカインのものに変化したことをようやく納得し始めたようだ。
「後は任せるって言ったけどよ。元に戻った途端に再起不能にされたら、たまったもんじゃねーよ」
カインは苦痛が和らぎ、呆れ顔で文句を垂れた。
暗闇のトラウマによって魔王イメアに変わるカインは、強い光によってイメアからカインに戻る。
カインであるときの記憶が引き継がれないイメアは、人格入れ替わり前後のことも覚えていないため、光を本能的に不快なものとして避けていた。
カインもイメアであるときの記憶はないが、過去に入れ替わりが起こった後に、兄姉からの証言で事態を正確に把握していた。その上で自らをトラウマに晒し、
それもこれも、バルムとリーシャならイメアが
ただ必死すぎて危うく弟を殺しかけはしたが……
「んもうっ! 元に戻ったならそう言ってよっ!」
「痛ったぁッ!! おまっ、背骨折れるだろうがッ!」
拘束を解いたバルムに背中をバシッと叩かれ、景気のいい音がカインの体から響く。
弟を溺愛していると公言しているくせに、本物を見分けるのに時間がかかったことに、カインは痛がりながら恨みがましい目を向けた。
「おほほっ。私はちゃんとカインだってわかってましたわっ」
「じゃあ頬に流れてる汗はなんだよ」
「こ、これはマグマの暑さのせいですわっ」
鞭を手元に戻したリーシャは、高笑いを上げながら兄弟のもとへ近づき、カインに内心の焦りを見抜かれ、苦しい言い訳を述べた。
「まぁ上手いこと済んだみてーだし、全員無事に生き残れたから良しとするか」
大きく抉られ青空が見えるようになった岩壁からカインは外を眺める。
水責めされ、マグマ竜に追われ、
命がいくつあっても足りなくなるような目に遭い、兄姉も大怪我しているものの、なんとか生還できた。
カインとして
気持ちを切り替え決意を新たにし、カインは兄姉を連れ、外へと繋がった巨大な穴から外へ出ようと足を踏み出し。
立ち塞がるように出現した黒い影にビクッと体を跳ねさせた。
「
生か死か、二択を迫ってきた相手が再び現れ、カインはとっさに身構える。
相手の態度と行動を見極めるため、何も言わず何も仕掛けず、三人は事の行末をうかがっていると。
『よく最後まで突破できましたね』
初めて出会ったときとは違い、〝ジニアの声〟で流暢に話す
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