第27話 マグマ竜(1)
「水責めの次はマグマ責めかよ」
目の前に現れた得体のしれないマグマ竜に、カインは一歩後ずさり。
竜の頬からマグマが岩場に滴り落ちると、すぐ近くでジュッと音を立てた。
「カイン、こっちへ!」
バルムが大声で合流するよう促すが、岩場よりも大きなマグマ竜が壁のごとく立ち塞がり、出口側へ進むことができない。
いったん入り口に引き返すか、影で身を守りながら出口へ強引に割り込むか。カインがどちらを選ぶべきか迷っていると、マグマ竜は天井へ向かい、鋭い灼熱の歯が並んだ口を開きながら落下してきた。
「マジかよッ!」
カインが吠えた直後、巨大質量のマグマが岩場を飲み込み岩肌を赤く染め、熱気が駆けるように周囲に拡がる。
カインはそれを寸でのところで避け、別の岩場から胸を押さえながら眺めた。
「あんなん喰らったら、一瞬で骨になっちまうぞ」
崩れた頭部を復元し再び首を高く上げるマグマ竜に、カインは緊張を最大値まで高める。
岩場があることを考えると、マグマには岩を溶かすほどの熱量はない。だがそれでも、人間の体なんて簡単に燃やし尽くされるだろうし、マグマ竜に飲み込まれた岩場に乗れば靴も足も無事では済まないはずだ。
「これではゆっくり服を乾かせないですわね」
「武器も拳も、こいつには役に立ちそうにないわね」
弟を守るためか、いつの間にかすぐ近くの岩場まで移動してきたリーシャとバルムが、面倒くさそうに相手に威圧の念を送る。
流体であるため、物理攻撃は一切効かないだろう。しかも直接触れれば再起不能に陥る未来しかない。どう攻略すれば良いかもわからない以上、倒すとしたら体の一部を失う覚悟が必要だ。
「戦うのは得策じゃねーな。出口まで急ぐぞ」
カインの指示に、全員待ったなしで岩場を跳び越え、たった一つの道に向かっていく。
その背に向かい、マグマ竜は大きく口を開けると、人の頭大の赤い熱をいくつも吐き出した。
「うおっ、あっぶね」
飛んできたマグマの塊が真横を通り過ぎ、近くの岩場に直撃した光景に、カインは思わず立ち止まり心臓の鼓動を速める。
目もないのに遠距離攻撃までしてくる敵に背中を向けていては、ここぞとばかりに狙い撃ちされてしまう。いくら身体能力が高かろうと、背後から飛んで来る攻撃を気にしながら岩場をジャンプで移動し続けることは困難を極める。一時的にでも相手の攻撃を妨害して時間を稼ぐ必要があった。
「せめて攻撃を止めないと無理っぽいな」
カインは近くの岩場で立ち止まった兄姉に視線を送り、互いに頷き意思を確認し合う。
使える手は限られている。マグマをすべて消し去ったり、完全に動きを止めるような手段は誰も持ち合わせていない。
一撃も喰らわずに相手の動きを牽制して出口から脱出する。
ある意味、さきほどの水責めより難易度の高い状況に、カインの流した汗が熱気で即座に蒸発した。
そんな人間たちを嘲笑うかのように、マグマ竜は岩場の隙間を縫いながら、三人を餌にしようと前進してきた。
「マインド・ビット」
カインが自身の影から黒の散弾を放つと、十個の黒い塊が竜頭に向かって飛来する。
しかしすべてが当たったにもかかわらず、竜は速度を緩めることはなかった。
「焼け石に水。この場合、マグマに影ね」
「足止めにすらならねぇってのかよ」
スピードは速くないものの、何事もなかったかのように突き進んでくるマグマ竜に、カインは唇を噛む。
超高温かつ大質量の相手に、ちまちました攻撃ではなんの効果も得られないようだ。
「どうやら、私たちの出番のようねっ」
「ふっ、弟の手を煩わせるまでもありませんわっ」
迫るマグマ竜にも怯まず不敵な笑みを浮かべるバルムとリーシャは、かかってきなさいと言うように拳と鞭を構えた。
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