第22話 パズル
「重そうなのに簡単に動きますのね」
「見た目じゃわかんねーけど、少し浮いてるみたいだな」
仕組みは不明だが石柱は地面と接しておらず、わずかに浮遊しているようだった。これならば普通の人間でも問題なく動かして道を作れる。
「もし詰まって動かせなくなってしまったらどうするんですの?」
「そのときは残りを全部ブチ壊しちゃえばいいじゃない」
「そりゃバルムなら問題なく破壊できそうだけど、さすがに効率が悪すぎるな」
リーシャの問いに、バルムが腕と胸筋をアピールし、カインが苦そうな顔をする。
動かすべき石柱を間違えて進めなくなったときは、残りの石柱をすべて破壊すればいいと考えているようだが、最初のほうで行き詰まったら一体いくつ破壊すればいいのか見当もつかない。
面倒を避けるため、一つのミスもなく行こうとカインが鏡を見て、頭の中でパズルを紐解いていると、リーシャがポンッと拳で自身の手のひらを叩いた。
「効率を考えるなら、こうすればいいじゃないですの」
妙案を閃いたと豪語するような表情を浮かべた姉に、〝何するつもりだ……〟とカインが訝しげに目を細める。と、リーシャは膝をグッと曲げて力を入れると、石柱に跳び乗る勢いでジャンプをし。
「……………………痛い…………」
見えない何かに頭をぶつけると、両手足を広げながら地面に落ちてきた。
「…………ギャグみたいだな」
「ボケたわけじゃありませんわ! いたた……」
自分の声が脳内に響いたのか、起き上がり両手のひらで頭を押さえた姉に、カインは呆れ顔を返す以外の反応ができなかった。
「上を通って行けるなら、わざわざ動く石柱があるわけねーだろ……」
あからさまな罠に引っかかった姉を憐れむカインの言葉に、バルムも嘆くようにこめかみを押さえて頭を振る。
「リーシャの姉として、妹のバカさ加減を謝罪するわ」
「リーシャの弟として、姉の愚かさを謝罪するぜ」
「なにお互いに謝ってるんですのよっ!」
脳筋のバルムにまで頭が可哀想な娘扱いを受け、リーシャは抗議の声を上げる。
どうやら石柱の上部全体に見えない天井があるようだ。これでは石柱の上を移動して先へ向かうことはできない。
「地道にやるしかないんだから、頑張ってやってくぞ」
「納得いきませんわ」
ふて腐れるリーシャを半眼で見つつ、カインは石柱を押す作業を再開する。
どうやら石を押すと石柱一つ分だけ、隙間が空いていれば押した方向にスライドする形式のようだ。
試しにくっ付いて重なった二つの石柱を押したが、動かすことはできなかった。可能なのは空いている隙間に一つの石柱を動かすことのみ。
触った感じも一般的な石ではなく、硬い鉱石を固めて作ったような形状をしている。行き詰まってしまっても最悪バルムがなんとかできると思うが、さすがに何個もやるとなると硬くて時間がかかるだろう。
試験場で何が起こるかわからない以上、無駄な労力は抑えたいと、カインは丁寧に天井とにらめっこをして。
自分たちの位置と動かした石の配置が間違えていないか何度も確認しながら進むと、残り三分の一ほどの場所までたどり着いた。
「リーシャも手伝ってくれよ。結構大変なんだよこれ」
最後尾をついてくるだけのリーシャに、カインが疲れたように声をかける。
脳筋バルムにすべて任せたら一瞬で詰むが、多少はマシなリーシャであれば、もっと早く出口まで行くことができるようになるだろう。
そういう魂胆で、姉にも頭脳労働を分担させようと試みたが。
「あれだけ馬鹿にされて、手伝う気なんて起きませんわ」
よほど根に持ったのか、リーシャは腕を組んで申し出を断った。
バルムはカインが間違えそうなときに〝野生の勘〟で気づかせてくれたが、ゴールに近づくにつれ、どう進めればいいかカインが悩む時間は増えていた。
「どれだけ先の長い試験場かわからないんだから、無駄に時間かけてられねーんだよ。頼むよ、華麗で美しいお姉さま」
カインが両手を合わせて拝むようにお願いすると、リーシャは頬をほのかに赤く染めて身震いし、弟から顔が見えないようにスッと逸らした。
「し、仕方ないですわね。私の力が必要なのであれば、き、期待に応えて差し上げますわっ」
「うふふっ。リーシャ、顔がものっっっすごいニヤけてるわよ?」
顔を向けた先にいたバルムが妹の表情を目撃し、面白いものを堪能するように目を細める。
「さ、さあ。三人力を合わせて先へ進みますわよっ」
カインが下手に出て姉の自尊心をくすぐると、リーシャはまんざらでもない様子で、横にあった石柱に手をかけ。
ズズズ、カチッ。
体重の重みで動いた石柱が移動した先で沈み込み、何かのスイッチを押したような音を立てた。
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