大文字伝子が行く140

クライングフリーマン

パウダースノウからの挑戦(7)

 ====== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」と呼ばれている。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。

 大文字綾子・・・伝子の母。介護士。伝子に時々「クソババア」言われる。学を「婿殿」と呼ぶ。

 依田(小田)慶子・・・やすらぎほのかホテル東京副支配人。伝子の後輩、依田の妻。

 藤井康子・・・伝子達の隣人。料理教室を開いている。

 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。

 馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

 金森和子一曹・・・空自からのEITO出向。

 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からのEITO出向。

 斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 久保田嘉三管理官・・・久保田警部補の伯父。EITO前司令官。

 夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。

 井関五郎・・・鑑識の井関の息子。EITOの爆発物処理担当。オスプレイの操縦も担当する。

 ジョーンズ・・・オスプレイの操縦士。

 中道新九郎・・・SAT隊長の警部。SATは副総監の指揮下にある。


 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO精鋭部隊である。==


 午後4時。

 衆議院第二議員会館は燃えていた。いや、数か所から白煙が立ち上っていた。最初のニュースでは、『国会が燃えている』だったが、実際は議事場(国会議事堂)ではなく。議員会館の方だった。議員会館は、国会議事堂の正面に衆議院第二議員会館があり、その建物を挟んで、衆議院第一議員会館と参議院議員会館がある。

 なぎさは、馴染みの消防隊長を見つけ、声をかけた。「MAITOに要請は?」

 「既に手配しました。逃げ遅れた議員や職員は大勢います。」

 「第一会館や参議院議員会館は?」横から顔を出したのは、SATの隊長中道だった。

 「今は火の手が上がっていませんが、ここがもし鎮火出来なければ、類焼の危険はあります。」

 「あなたは?」と、なぎさは言った。「SATの中道です。爆発物を仕掛けられている恐れがあるので、出動しました。ええと、エマージェンシーガールズは、避難誘導もするのですか?」

 「そうです。では、爆発物を含めて他の議員会館はSATにお任せしていいですか?」

 「分かりました。では、こちらの避難誘導はお願いします。では・・・。」

なぎさは違和感を覚えつつも、インカムで支持を出した。「各班は避難誘導に専念しろ。万一、爆発物を発見した場合は、手を付けずに連絡の上に、直ちに撤収。いずれ、MAITOがやってくる。それまで頑張れ!」

 なぎさは、消防隊長に一礼すると、火の手がない階段に向かって走った。

 午後5時。

 MAITOが到着した。MAITOとは、陸自の精鋭チームからなる、大火災時用の設備を持った、オスプレイ部隊である。消防と違い、「消火弾」と呼ばれる、消火用の液体の塊を空から落す。落下中に拡散するので、一般家屋なら一発で、ビルでも二発で延焼を大幅に抑制する。下方からの放水との合わせ技で、鎮火を早めることが出来る。

 午後6時。なぎさ達の避難誘導も終わり、中道達からの報告も来た。

 第一会館や参議院議員会館に異常は無かったが、発煙筒が数本見つかったと言う。

報告を受けた、なぎさは「陽動かも知れませんね。不発だったから混乱は起こらなかったのが幸いです。ご苦労様でした。」と、中道に挨拶した。

議事堂付近で、交通整理に当たっていた、あつこは、なぎさからのガラケーでの連絡を受け、「気に入らないわね。」と、呟いた。

 このガラケーは、通信障害が起きても、特殊な周波数帯で通信出来るガラケーで、伝子の叔父、大文字教授が開発したシステムの1つを警察がアップグレードしたものである。

 午後7時。伝子のマンション。

 「伝子。叱られたんだって?」「チクるな、なぎさ。お前も池上先生に怒られたんだろうが?学。今日は止まってくか?」「いいの、おねえさま。おにいさま。」

「いいよ。お義母さんは帰ったから。今日、夜勤なんだって。」

高遠が言うと、なぎさはご機嫌になった。

 「妙な火事だったな。」とピザを契って食べながら言った。

 「おねえさま。確認したらね、SATに誰も要請してなかったらしいの。あつこがカンカンだった。」

 「なぎさちゃん。警視と中道警部は犬猿の仲らしいね。珍しく、ヨーダに愚痴ったらしい。」

 「それで、怪我人は?」「3人。おねえさま。その3人の内1人があのリストに載っていますのよ。」

 「リストって、殺人予告リスト?」「うん。」「じゃあ、その人1人を狙った犯行で、この騒ぎ?」高遠は呆れた。

 「そうなりますわ。」と、なぎさは平然と言った。

 「酷いな。」と高遠が呟くと、「確かに。」と言って藤井が入って来た。

 「ピザ、まだあるわよ。」と、ピザを持って。今日は出前ではなく、藤井が焼いたピザだ。

 翌日。午前8時。

 高遠と伝子、なぎさは一緒に朝食を採っていた。

 「なぎさ。素朴な疑問だが、一ノ瀬家では何も言わないのか?外泊が多いこと。」

 「もう、諦めてるみたい。お義母さまの躾から逃げているのが見え見えだから。『たまに帰る実家』ですね。もう本当の実家はないし。」

「ウチに来ることは、何でオッケーななの?」「恩人だから、おねえさまは。おにいさまもね。」

 伝子と高遠はクビを傾げた。

 高遠がTVをつけるとニュースで、昨日の火事のことを言っていた。

 怪我人のことは報道していない。「リストに載ってた怪我人は?」「勿論、すぐに警察の保護下に入りましたわ、おにいさま。」

 「何で、今まで黙ってたんだろう?」「はげ、でぶ、中年。」「え?」「あまりに昔の写真と今では違うから、誰も分からないと思っていたって。」「殺される理由は?」「殺される理由になるかどうかは分からないけど、イケメン時代に悪さしてたみたい、おんなに。」

 「タダで殺してあげます、なんて文字みたら、反射的に投稿しちゃう人が多いんだね。」

 「草薙さんによると、その闇サイトもうとっくにないらしい。リスト作れれば、もう用はなかった、ってことになる。」

 「ねえ、伝子。ひょっとしたら、『消し込み』、完璧に出来ても無駄に終るかも。」

 「どういうこと?」「なぎさ。それは、私の台詞。どういうことだ?」

 「リストの中から殺人・・・って、刷り込みかも知れない、ってこと。『シンキチ』事件みたいな感じには思えなくなってきたんだ。」

 「そう言えば、リストを発表してから、何のアクションもない。実際は殺されかかった人はいるけど、今までの『幹』みたいに直接挑戦してこない。」

 「あつこに寄ると、捕まった『枝』の口は堅いらしい。何か裏で進行している気がする。」

 午前9時。

 アラームが鳴り、EITO用のPCが起動した。このPCと久保田管理官用のPCは、向こうからリモートで起動させることが出来るのだ。

画面に映った理事官は、「一ノ瀬。また、大文字君の家に泊まったのか。困った奴だ。ああ、緊急連絡だった。東京ディズニーランド、いや、東京ディズニーリゾートの従業員が救急搬送された。熱中症らしい。着ぐるみを着る職員だ。体調不良はあったらしいが、無理をしたんだな。問題は、その人物は、あのリストに載っている写真の一人なんだ。救急隊員が病院に運ぶ前に気づいたらしい。2人とも現地に直行してくれ。既に、警視と結城が向かっている。」

 程なく、オスプレイの音が近づいて来た。

 高遠は、二人を台所から見送った。「朝から大変ね。」と、隣のベランダから、藤井が声をかけた。「お昼、ざるそばにしない?親戚から、わさび送って来たの。」

 「ありがとうございます。」と言いながら、高遠は洗濯物を干し始めた。

 午前10時。千葉県。東京ディズニーランドから数百メートルの救急病院。

 久保田管理官と、あつこ、結城が2人を待っていた。

 「今、検査中だ。検査が終り次第、警察で保護する。職場にも了解を取った。本人は、着ぐるみ着ているから安全安心、と思っていたらしい。実は、彼の着ぐるみは、暑くなるいような仕掛けをされていた。これだ。」

 久保田管理官が見せたのは、ポケットサイズの使い捨てカイロだった。

 「おじさまは、明らかに犯人はリストの人物と特定して、着ぐるみに仕込んでいた、って言ってるのよ、おねえさま、なぎさ。」

 「着ぐるみの中は複雑でね、表情作る為の仕掛けとかもあるらしい。一度着ると、誰かの助けがないと、自分では脱げない。パレードから飛び出し、離れたので、係員が慌てて脱がせて、様子がおかしいので救急車を呼んだ。これは、事故じゃない。立派に殺人未遂だよ。」

 「着ぐるみに仕掛けるのが可能な人は?」「特定しにくい。大勢で複数のキャラクターの装着者の世話をするのが決まりらしいから。実は、救急搬送する例は少なくない。それで、予備の装着者が、待機している。彼が抜けた後、すぐに予備の装着者がパレードに戻っている。」

 「大変な仕事なんですね。」「その通りです。」と言って近づいて来た男がいた。

伝子達に配られた名刺には『広報部、近石信次』とあった。

「実は、皆さんの想像以上のサポートチームがいるんです。菊永さんは、ベテランで、想定外だったんですが・・・。」

 「ベテランでも、こんなことされたら、倒れますよ、誰でも。」と、久保田管理官はカイロを出して、説明した。

 「彼が恨まれた理由は分かりますか?出来れば、親しかった方にもお聞きしたいのですが。」と、あつこが言うと、「では、夕刻にでもオフィスにお越し下さい。えーーと。」と近石が確認したがったので、慌てて、あつこは「渡辺と申します。殺人リストの担当をしております。」と名刺を差し出した。

 「では、管理官。我々はこれで。」と、伝子は管理官に言った。

「ああ。ご苦労様でした、エマージェンシーガールズ。」 

 伝子達は、オスプレイに引き上げてきた。

 話を聞いたジョーンズは、「ワオ!僕なら1分ももたないよ。井関は?」と側にいた井関に尋ねた。「愚問だな。まあ、助かって良かったですね、隊長。」と、伝子に質問のリレーをした。

 「うん。一旦、本部に帰ろう。」と、伝子は言った。

 正午。EITO東京本部。食堂。

 「カイロ?この時機に?」と、増田が食べながら言った。

 「うん。着ぐるみは、冬は暖かいと思われがちだが、実はそうでもない。臨時に使えるように、『秘密のポケット』があるらしい。全ての着ぐるみにある訳じゃないが。」

 「隊長。そのポケットのカイロを入れたってことは、そのポケットの存在を犯人は知っていたってことになりますね。」と馬越が言った。

「その通り。でも、知っているのは大勢いる。指紋やDNAでは犯人を特定出来ないな、怪我でもしていない限りは。」

 伝子の言葉に、皆は、ため息をつき、食事を再開した。

 「ああ、そうだ。隊長。着ぐるみの中の顔、公開されているんですか?」と、金森が言った。

 「そんな筈はない。だから、勤めたことがあるに違いないな。ああ。金森。」

「はい。」「事件が解決したら、パウダースノウを倒したら、馬場と結婚しろ。命令だ。違反することは許さん。」

 金森は、立って敬礼をした。「はい。隊長。命令を遵守します。」金森は泣いていた。

 理事官が入って来て、「よく言った。違反したら、EITOから追い出すからな。空自に復職も許さんぞ。」

 夏目が入って来て、拍手をした。皆、箸を置いて拍手した。夏目の後ろに控えていた馬場が済まなそうに畏まっていた。

 午後3時。伝子のマンション。

 「それじゃ、馬場さんに拒否権がないみたいじゃない。」と綾子が言った。

 「ある訳ないだろう、クソババア。わきまえろよ。」と、伝子は綾子に言った。

 「愛し合っているんだもの。拒否なんてあり得ないわよ。ねえ。」と、煎餅を食べながら藤井は、隣でコーヒーを飲んでいる高遠に言った。

 「それで、着ぐるみ装着者の人、殺される心当たり、あったの?」

 「分からない、って。逆恨みかな?何せ、無報酬で殺してあげます、って画面に出るから、見た人はついポチっとボタン押すわよ。」と、伝子は言った。

「どんな情報収集するんだろう?写真が古いってことは、写真のデータは『個人情報保護法』より前のデータかな?とにかく、その人は警察に保護されているんだよね。」

 「残りの人達って、もう死んでるのかな?もう、それなら保護出来ないかもね。」

 「それも考えたくないパターンではあるけれど、50人とも存在する日本人かどうか、今のところ、分からないんだよね、伝子。」「うん。あ。フェイクも混じってるってこと?可能性はなくは無いけど、今は確定出来ないな。」

 その時。伝子のスマホが鳴動した。

 伝子が出ると、慶子からだった。「先輩。ニュース見て、ニュース。」

 慶子の声を漏れ聞いた高遠は、テレビをつけた。

 「繰り返します。帰国した旅行者を税関職員がナイフで刺しました。今、SATが到着した模様です。」

 EITO用のPCが起動した。

 ディスプレイに映った理事官に伝子は「空港の事件は今、ニュースで知りました。」と言った。

 「大文字君。すっかり、見逃していたよ。刺された帰国旅行者は、リストに載っている人物だ。事件を目撃した人が警察に似ていないか?と画像を送ってきた。既にSATが出動しているが、オスプレイを迎えにやったから、空港に行ってくれ。警視は今、出発した。」

 高遠は、伝子のスマホの慶子に謝り、慌てて台所に行き、出動準備を始めた。

 伝子は、すぐに着替えに寝室に行き、荷物を整えてきた。

 数分後、オスプレイが到着し、ベランダにロープが降りて来た。

 「じゃ、行ってきます。」と伝子は言い、高遠は100均の火打ち石を慣らした。

瞬く間に伝子はいなくなった。「見慣れた光景だけど、やっぱり変な光景ね。」と、 綾子は言った。

 「私は、ワクワクするわ。映画みたいだし。」と、藤井は言った。

ベランダを片づけた高遠は言った。「国外にいたから狙われなかったんだ。港も危ないな。」

 午後5時。

 件のシネコンを利用して、警察、EITO、総理の合同記者会見が行われた。刺した空港職員は放心状態であること、空港や港の税関にリストの害鳥人物でないかどうかのチェックをすること、入館チェックをする場所には、複数の警察官または警備員を配置することが発表された。

 そして、市橋総理は、知り合いにリストの該当人物がいて、海崖に在住または旅行をしている場合は、帰国を見合わすよう説得して欲しいと、頭を下げた。

 高遠は、今夜も眠れない、と思った。

 ―完―

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大文字伝子が行く140 クライングフリーマン @dansan01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ