第2話 一筋の光と絶望的な闇
ひとしきり泣きじゃくった後、僕は立ち上がる。
このままでは、僕も目の前の人の様になってしまう。それだけは嫌だ。
恐る恐ると巨大犬のいた場所に近づいて行くと、そこに有ったのは草木は折れ、焼け焦げた跡もある戦いの後と、戦いに負けた、かつて人であった肉塊。
近くにあった木の枝でそれをつついてみる。妙に肉感があるそれは、まるで動く事もなく僕は、しばらく考えた後しょうがなく、かつて人だった物の荷物を調べて始めた。
それは、どうやらカバンかランドセルの様な物を背負っていたらしい。バックから巨大犬の攻撃で荒らされたらしい荷物がこぼれ出ている。
そこに有ったのは、袋にしまわれていたパン?の様な物と水が入った水筒、そして……マンガやアニメでしか見た事も無い様な大きな剣や短剣、後はずっしりとした重さがあり丁重に布で包まれている何かがあった。
妙に気になった僕はそっと包みを開いてみる。妙に派手な装飾がされた鍵の様な形をした物だった。
何だろ、これ?
鍵を握りしめた瞬間だった。
爆発する様なオレンジの光の奔流に、慌てて手を離す。カランと岩の上に落ちた鍵は鍵を差し込むであろう先からオレンジの光線がまるでレーザービームの様に一直線に一点を目指して延びていった。
恐る恐る、鍵をつついて見る。特に熱くも冷たくも無い様だ。持ち上げてみる。
どんな方向へ鍵の先の方向を変えても光の光線は方向を決して変えず一点を指し続けていた。
どうやら、光は一点を指し示しているのではないかと言う事は、幼かった僕にでも何とか想像出来た。
光の先に何があるのか解らなかったけど、向かう先が解るのは嬉しかったし、ここにいたら、巨大犬がまた来るかも知れない。
その一心から、持てるだけの荷物を持ち僕は短剣とパンと水筒を持った。
ただ、剣は重すぎて残念だったけど諦めた。
短剣ですら数キロはあるのだろう。刃渡り50センチ前後の鞘に収まったそれを僕に扱えるのかは解らなかったけど、それでもあの大きな犬の事を考えたら、それを持っていくという選択肢しか無かった。
遠くで獣の鳴き声がする度に、あの巨大犬の姿を思い出す度に、僕は耳を塞ぎ、泣くのを必死に堪えて走った。巨大犬と遭遇した場所がまるで解らなくなる位まで遠くへ必死に走って逃げる。
何度転んだか解らない。
すでに、膝は擦り傷だらけ、手足は切り傷だらけ打撲だらけ、幼い僕は満身創痍だった。
「こっ、ここまで来れば!!」
息も絶え絶えに大きな岩を見つけ、その岩影まで来ると隠れる様に座り込む。
安心すると不思議な物でお腹が空いて堪らなくなってしまった。
死体が持っていた物を食べるの少し気が引けたけど、食べなきゃ死ぬんだ。
包んであったパンを貪る様に食べる。味なんて、ほとんどしない…けど、お腹の中に食べ物が入る満足感と水筒の水が生きている実感をくれた。
ほんの少しだけ出来た余裕で、背にしてた岩に登る。僕はポケットに入れていた鍵を取り出して掲げてみた。この時だけは、まるで僕は漫画やゲームの主人公になった気になって、少し誇らしげに光る鍵を見ていた。
この先には、必ず僕を助ける何かがある、きっと何が僕を助けてくれる。
本当の所、もしかしたら罠かも知れないし、もっと酷い事になるかも知れない。
けど、この時の僕は、そんな事考えている余裕なんて無かったし、このゲームやアニメの様な展開に大喜びしていた。
そして、光の指す方へ僕は歩きだした。相変わらず、獣の声が聞こえる度に怯えたつつ子供の足で不安の中、約30分程歩くと急に光が地面の方を指し、そこで途切れる。
「光が…!!」
消えた光の先に急いで走る。
その瞬間、目の前の地面が崩落する。崩落した穴に落ちそうになって、慌てて止まる。良く見れば、そこは階段となっていてかなり下に続く洞窟になっている様に見えた。
灯りもなく手すりもなく、只々深く続く暗い闇の先にこの先に進んでよいか躊躇していると、後ろから先ほども聞こえた獣の声は段々と大きくなっていて隠れんぼの鬼が他の隠れている子供を探すかの様に段々と大きくなっている。
「やだよ、やだ…」
ただ、あの声から逃げたくて後ずさる様にゆっくりと階段を降りていく。
「何も、見えない。」
誰に言うわけでも無いのだか、何か喋らないと気が狂ってしまいそうだった。だから、頭を屈む様に階段を降りたのも、単なる闇に対する恐怖感からだった。
それは、いきなりの衝撃だった。
バンと棒で革か何かを叩く音と同時に僕は背中に凄まじい衝撃を受けてボールの様に吹き飛ばされてしまう。そして、そのまま洞窟の天井にぶつかり、そのまま階段を転がる様に落ちていく。転がりながら見えたのは、巨大な黒い影。
あいつだ!!
聞こえたのはあの巨大な黒い犬のハアハアと荒い息づかいだった。
そう僕は巨大犬の前足の爪による斬撃により、階段の下へ吹き飛ばされてしまった。
痛いとか、苦しいの前に只、背中が熱かった、転がりながら見えたのは、やはりあの巨大な犬、転がりながら、またアイツにやられたのかと悔しい思いと、体に染み付いたアイツへの恐怖、良く転がってぐちゃぐちゃになりながら心の中でパパやママへ助けを求めていた。
「やだ、もうやぁだー、うっ、ゲフッ!!」石畳に叩きつけられて、二度三度跳ねる様に転がっていく。
痛む身体を起こすと、巨大犬が此方を狙おうといるのが偶然見えた。
巨大犬の一歩づつ歩く度に聞こえてくる足音と伸ばした爪の石畳を引っ掻く様なキシリ音、つい数時間前まで、哀れな犠牲者の死肉を貪ってハアハアと生臭い息を吐く巨大な口。
虚空を見つめるただ暗く暗闇の様な目。
どれか一つでも、トラウマに残りそうな状況に気が狂いそうになりながら、僕は必死に洞窟の先に向かった。ズルズルと文字通り痛む身体を引きずりながら短剣を鞘から抜き、両手に杖代わりに、ただただ、その鉄の塊だけが自分を助けてくれると信じ……。
『逃げてみろそのボロボロの身体で、恐怖しろ己の全てで、我は
『貪るものだ』
暗闇で良く解らなかった、だけど確かに解った。ブラックイーターは笑った。
その時の僕は訳の分からない場所で、辛くてしょうがなかった、寂しくてしょうがなかった、誰かの声が聞きたくてしょうがなかった……。心の底から、欲しかった声が……、
貴様なのか!!
「ウガァーーーッ!!!」言葉にならずにただ叫んだ。
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