例えこの眼に写るものが幻想だとしても、僕は君を守りたい。
まちゅ~@英雄属性
第1話 夢かもしれない世界
ギシギシとハンドグリップか小さく悲鳴をあげている。
今日一日で何百回やっているのか解らないけど、もう毎日、どこかの筋肉に負荷をかけていないと落ち着かなくなってしまっていて……
別に、
強くなりたい、早く強くなりたいんだ……。そんな焦りにも似た危機感が僕にはあった。
僕の名前は
今年、高校に上がったばかりの16歳。
身長175cm体重58キロの痩せ気味、最近成長期らしくまるで関節がギシギシいう音が聞こえる気がする。
性格は普通、両親と三人家族。
趣味は…鍛練とまぁ読書かな?その他はオレンジの髪の毛は地毛です、と。
こんなもんだろと、先生から用意された目の前のつまらないプロフィール帳を見ながら、小さくため息を吐く、何だよ性格は普通って。
まぁね、高校入って、初めての教室、ほぼ知らない人だらけ、楽しみよりも、不安しか無い。
この世界にダンジョンが出来てもう5年、出来てから1~2年の間、不安しか無かった日々も、政府の人とか、自衛隊とか、海外の軍隊、後は民間の組織『冒険者』の力によって何とかなった様だ。
一時は、ダンジョンから化け物(モンスターと呼称されたらしい。)が溢れ多大な被害があったらしい。
実の所、僕には、この辺の記憶はほとんど無いんだ。
実は調度五年前に僕は大ケガを負って数ヵ月程生死を彷徨った経験があるからだ。
これから話す話は、親以外には話した事が無い、と言うより話せない。
僕は、5年前に多分、異世界と呼ばれるだろう世界に行った事があるのだ。
………誰にでもそういう頃があるよね?とか、頭やっちゃったか?とか思わないで欲しい。
後、異世界召喚とか、お前勇者?とか馬鹿な事を言うのも辞めて欲しい。
あれは、異世界召喚というよりは、異世界に迷い混んで、何とか帰ってこれたって感じなのだ。
今でも時々夢に見る。あれは、僕の髪がまだ黒かった幼かった頃の話。
☆☆☆
親と二泊三日の旅行に行った帰り、立ち寄った高速道路のサービスエリア、トイレ休憩の為に寄り、トイレから出てさて帰ろうと外に踏み出した時だった。
「危なく、漏らす所だったよ」ほっと一息をついた時、そこは森の中だった。
気がつくと辺りが木に囲まれ、周りが深い霧に包まれていた。
急に不安になった僕は、両親が待つ車があるだろう方向に向かって走った。
確かこっちの方だ!!何の根拠も無く、ただ両親と会えば何とかなる、何とかしてくれると言うなんの根拠の無い思い込みが僕を走らせた。
しばらく走って気づく。
僕の白いシューズが地面の泥や水溜まりを踏んで大きな音を立てたからだ。
あれ?なんで地面が岩や土なんだ?何で木が沢山あるんだ?
そう言えば車どこ?パパ、ママどこ?
幼かった僕は、恥も外聞も無く泣きじゃくり、自分がまるで、知らない場所にいる事に気付き怯えた。
泣きながら、辺りを何も考えずに彷徨う。
そこは深い森の様で、辺りから鳥や獣の様な叫び声がして、僕を恐怖させる。
ただ、座ってパパやママが来るのを待ちたい。そんなに想いと、動かないと不味いかもしれないと言う恐怖感がぶつかり合い、僅かながら後者が勝った。
「どこだろ、ここ?」
のろりのろりと森を怯え歩きながら、少しの音に大慌てしていた。
しばらく歩くと遠くから、物音が聞こえる。
それは、グチョグチョとか、ガツガツとかいう咀嚼音と犬系の唸り声に似た音?もしくは鳴き声?そして微かに何処かで嗅いだ事がある様な鉄錆びの様な匂いと酷く犬臭い匂い。
凄く怖くて逃げ出したかったが、他に何か頼る様な、状況を打開できる様な事は何も無い、体が吸い寄せられる様に音の方向に近づいてしまう。
あえて言うなら、ゲームとかでゲームイベントが始まり、動かしたくても勝手に話が動いてしまう様な感じ。
僕は、大きな木の影に隠れて、そっと音の方向を見る。
「フグゥ!!」大きな声を出しそうになって僕は両手で口をふさぐ。
近づく鉄錆びの匂いと声の正体が姿を現した。
それは、巨大な犬か狼か?何となくそんな感じ。
身体中をくすんだ黒色の固そうな毛に覆われ、暗い所にいるせいか、その目の瞳孔は開き頭の上にピンと生えた耳は左耳は半分削れた様になっている。
デカイ口からは乱雑に伸びた無数の牙、半開きになった口からピンク色した舌がダランと伸びてハアハア息をしている。
大きさは当時130cmそこそこの僕が二人分位。
森の中ではかなり大きな生き物に感じた。
そして、その足元には…残骸があった。
それは、人なのだろうか?
人たる形状に当たるべき所、つまり頭や右手、左足に当たる所にそれが無い。
それゆえに、恐ろしく物か何かの塊の様な感じがした。
やっと、それが人だと気付いた時、恐怖と共に頭に急に声がした。
僕は、左目に強い痛みを感じて押さえる。『スキル発現、スキル・見極めの魔眼を修得致しました。』
声が終わった後、痛みは数十秒続き収まった後にゆっくりと目を開けると、左目から強い違和感を感じた。
左目から見た巨大な犬は真っ赤な光に包まれている。
最初は、巨大犬が光を出したのかと思った。
でも、それは、右目から見た巨大犬が光っていない事に気付き左目が変になったのだと気付く。
正直、良く解らなかったけど、最優先に考え無ければならないのは、僕がどう行動すべきかと言う事で、最悪なのは巨大犬がこちらを見て唸り声を上げていたのに気付いてしまったと言う事だろうか?
僕は、その恐怖に動けなくなった。
僕と巨大犬とが見つめ合った様な感じになってどれ位だっただろうか?
それは、数分だった様な、数十秒だった様なあまり定かでは無い。
その良く解らない時間の先で、巨大犬はこちらを睨んだまま、ゆっくりと後ずさる。
そして、一息フンッと大きな鼻息を立てて後ろを向いて行ってしまった。
後で考えれば、多分僕は恐怖に値しない者、腹が一杯だから、どうでも良いやと気紛れに助けられたのだろう。
僕は、助かった安堵と恐怖にただひたすら泣いた。
情けない話だが、漏らしていたのかも知れない。
良く覚えていないのは、地面に尻餅をついた時、ズボンが泥やら水溜まりやらでグシャグシャになっていたからだ。冷たさと気持ち悪さで余計に泣けた。
ただ、そんな情けない僕でも、このまま、ただ泣いているだけでは不味いと感じていた。
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