父親の痕跡
───絵の具の臭いと混じる・・・部長の髪の香り─
「あら・・これは・・」
部室を閉める準備を一緒に居残っていた榊木と行っていた鞠だったが、彼女の声に反応する。
「どうかしたのですか?」
「えぇ・・これ部長のポーチ・・大事なものだと聞いてたのだけど・・」
榊木の手を覗く鞠、その手には綺麗な花の刺繍が縫い込まれたポーチ。
「え、これ部長のなのですか?」
「えぇ・・そうね。まぁいろいろと大事な物が入っているはず・・軽いお化粧用具とか・・あれ・・とかね・・・」
「部長はお家の事情で早く家に帰ったし、明日渡せばいいのではないのですか?」
「そうね・・でもこれ大事だといっているから落としたと思って探し回っているかもしれないわ」
「じゃあ・・もっていってあげないと・・榊木先輩は部長の家を知っているのですか?」
「まぁ知っているといっては知っているけど・・私もこれから用事があるから、鞠ちゃんがもっていってくれるとたすかるかな」
「わ・・私がですか!」
先輩の家と聞いてドキっとする鞠。そもそも友達が殆どいない鞠にとって他人の人の家に行くこと自体が経験が殆どなかった。
「部長の大事な物だからもっていってくれると助かるわ。お願いしていい?」
「え・・あ・・はい」
さすがに断れなかった鞠は、しかたがなく承諾することにした。
「じゃあ、ここが部長の家・・LINEで地図のURLをおくったから」
スマホに届いたURLから地図アプリを起動させる。アイコンが表示された場所を確認した。
(・・学校から大分比較的近いみたい・・でも市街地からの離れの家・・)
先輩の自宅も小高い山の上にあるみたいだ。
そっとポーチを手渡される。
「じゃ・・お願いね・・」
「わかりました」
二人は部室からでると鍵を閉め一緒に下校した。
***
駅で榊木とわかれ、先輩の自宅へと向かう。
小高い山の上とはいえそれほど離れていない。まだ夏も終わってない時期アスファルトの照り返しが暑い。汗だくになりながら歩みを進める。
そして息を切らせながら山の中を昇ると木々に囲まれた家が見えてきた。
(・・大きな家・・部長の親ってお金持ちなのかな・・)
敷地に入り、家の周りを見渡す。大きな建物。そこそこ親はお金持ちなのだろう。
ふと家の隣をみるとガラス面積の多い建物が見える。
(あれはなんだろう。花を育てる・・場所かなにかな・・)
気になる建物ではあったが、ポーチを渡してさっさと帰ろうと思い、玄関に立ちベルを鳴らす。
「はーい」
いつも聞いている先輩の声が家の中から響いてくる。
ゆっくりとドアがあく。そして先輩は息を飲んで驚いた。
「え?鞠?どうして・・」
はじめて見る先輩の普段着・・制服ともとれる清楚なドレスみたいな服をまとっていた。
「え・・部長・・忘れ物です・・榊木先輩から頼まれて・・」
きょとんとした目で鞠を見る先輩。ぼそっとぶつやく。
「・・榊木ちゃんが・・もってくると思ってたんだけど・・」
「え?」
「あ・・いや、なんでもない!せっかくだから入って。暑かったでしょう?麦茶でもだすから」
「いえ・・遅くなるので帰ります・・」
「ちょっとぐらいいいじゃない。せっかくきたんだし・・ね!」
鞠の腕を掴むと強引に家にひきいれる。
「え・・あ・・」
しかたがなく鞠は先輩の家にあがることになる。
***
外見も大きいと思ったが家の中も広かった。
(すごい大きい家・・)
「あたしの部屋ちらかっているから、居間に通したいけどお母さんにあまり人をいれるなって言われているの・・アトリエでいいかしら」
「アトリエ・・アトリエがあるんですか?」
「えぇ・・お父さんが昔つかってたアトリエ・・今はあたしがつかっているの」
もしかしてさっき見えたガラス張りの建物の事だろうか。先輩についていって長い廊下を歩く。
そして突き当たりの扉を開く。一気に光が差し込み。思わず鞠は目を瞑る。
「ここもちょっとだけ汚れているけど・・」
目を開けてびっくりする。
たくさんの画材・・そして絵・・先輩のタッチではない。たぶん父親の絵なのだろう。無造作に重ねて立てかけてある。
軽くやすめるソファーと椅子が真ん中に鎮座している。そして海が見渡せる窓にイーゼルと椅子が置いてあった。
・・それよりも・・。
何故かベッドまでがある。
(・・ベッドまで・・一体何に・・日当たりがいいからお昼寝用かな・・)
「じゃあ飲み物もってくるからソファーでまってて?」
「あ、ありがとうございます・・」
先輩は走ってアトリエを出て行く。
このガラス張りのアトリエにぽつんと鞠が一人。
そわそわしながら周りを見渡す。たくさんたてかけてある絵に目がいってしまう。
(これ・・ほとんどが部長のお父さんの絵なんだ・・)
ソファーを立ち、たくさん立てかけてある絵を眺めながら歩く。風景画・・静物・・花・・。
・・息を飲みながら歩いていると足を絵に引っかけてしまう。そして数枚重ねて立てかけてあった絵を倒してしまった。
「あ!まずい!」
とっさに絵を支える。
「あぶなかったぁ・・え?」
思わず鞠は息を飲んだ。
倒れた絵の後ろから出てきたもう一枚の絵。
それは先輩の裸婦画だった。
ベッドに横たわり、花を持って・・。
「・・綺麗・・」
絵になった先輩の裸に吸い込まれ自分の世界に入り込んでしまう。
(あのとき強引にされたからよく見てなかったけど・・こんなに部長って綺麗だったんだ・・)
「あら、見られちゃったわね」
「!?」
後ろから声が聞こえてビク!っと身を震わせる鞠。
ゆっくり振り向くと先輩がグラスを両手にもってにこやかな笑顔でたっていた。
固まっている鞠のとなりをすたすたと歩いてソファー脇のテーブルにグラスを置く。
そしてくるっと向きをかえると鞠を抱きかかえそのままベッドに押し倒した。
「あ・・」
「お父さんもあたしの事大好きで絵に描いてくれたんだ・・成長の記録もかねてってね・・」
「小さいころからの絵もある・・立てかけてある絵で隠れて見えないけど・・ね・・」
先輩は鞠の制服をまくり上げると胸をまさぐる。
「あ・・♡・・や・・先輩・・?」
「好きな人を絵に書き留めて永遠に美しい姿を書き残すってことはとても素晴らしいことだと思うの・・」
「榊木ちゃんを描こうと思ったんだけど、鞠も好きだから・・ねぇ・・いいでしょ・・」
「いいでしょって・・ちょ・・あん♡」
するっと指をすべらせ鞠の下着に触れる。
「くす。敏感ね・・鞠」
「ご家族に見られちゃいますよ・・あ♡やぁ!」
「大丈夫・・お母さんはお仕事でしばらくかえてこないから・・」
下着から指を放すとゆっくりと鞠のシャツを脱がす。
そしてブラを外すと何度も鞠の胸に口づけをする。
(ん・・部長・・の髪の香りが・・)
「ふふ・・かわいい・・綺麗に描いてあげるから・・ね・・」
「せ・・ぶ・・部長・・まって・・あ・・♡」
部長のキスのうまさに心を奪われ・・そして全身からこみ上げてくる快楽で頭がいっぱいになり真っ白に心を染め上げていく。
── い・・いく・・♡
***
気がつくと夜になっていた。
真っ暗なアトリエ・・天井も所々ガラス天井になっており、綺麗な星空が見えた。
すうすうと吐息が耳元で聞こえる。
そっと横をみると先輩が寝息をたてて眠っていた。
その寝顔が子供じみていてなんか愛らしく感じられた。
でも心の中では別な不穏な気持ちもこみ上げてくるのだ。
多分先輩は・・お父さんが忘れられない・・寂しさを私達にぶつけているのだと・・。
(このままじゃいけない・・部長にはもっと大切なことが・・でも・・)
一瞬このままの関係でもいいかなと頭によぎった鞠ではあったが、榊木先輩のこと、そして先輩の将来の事を考えるとそうとは思えない鞠だった。
通知ランプがちかちかと光っているスマートフォン・・・着信履歴・・・母親からの着信だった。
(そういえば寄り道していく事・・連絡してなかった・・やばいかな・・・)
起き上がって周りを見渡す。イーゼルにいつの間にか画板が立てかけてあった。
そこには鞠のはだけた姿で眠っている様子が鉛筆でスケッチしてあったのだ。
(・・いつのまに・・私・・気を失っていたからなぁ・・)
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