最終話

★★★★★

まえがき

読んでみて面白いと感じた方、ぜひ評価をよろしくお願いいたします!

★★★★★ 






 今、私は友達と北海道旅行もねて、札幌に来ている。

 旅行と言えば旅行だけど、1番目的は魔法の取得だ。つまり、魔法を取得する為の旅ってことだね。


 そう。魔法【空間移動】を入手して、コアとの戦闘に備える為に、私達は昨日から札幌の高級旅館に宿泊している。


「私はこう見えてもスキーは得意なんだ! 修学旅行で練習したからな!」


 本当は魔法を取得するのがメインのハズ……だったんだけど、なんと今は絶賛スキー中だ。

 大学生のカガミさんが、中学校の修学旅行で手に入れたというテクニックを見せつけてきた。上手いけど、普通に安全に滑っているだけだ。でも、転ばないのは凄い! 私はもう何回も転んでいる。


「む、難しいですね!」


 ソラちゃんも転んでるけどね。そういえば、本当だったら私達も今年の修学旅行先は、スキーができる場所だったんだよね。修学旅行を体験できないのは残念だけど、今こうして皆と遊べるのは凄くラッキーだ。


「だーっ!」


 って、カガミさんが転んだ!


「起こしてくれ! 練習して転ばないようにはなったんだが、結局最後まで1人で起き上がれるようにはならなかった!」


 私はカガミさんの手を取ると、カガミさんを起こした。


「サンキュー! いやぁ、恥ずかしい所を見せちゃったな! それに引き換えココロは凄い!」


 天然青メッシュ入り女子高生のココロちゃんは、いつも通り人間離れした運動能力を見せつけていた。


「ひゃっほー!」


 ココロちゃんは大ジャンプして、木の枝に飛び乗り、更にまたそこから大ジャンプをする。


「ココロちゃん! 流石に危ないよ!」

「大丈夫だっつーの! って、駄目だ!」

「ココロちゃん!?」


 ココロちゃんは体制を崩し岩に頭をぶつけ、その衝撃で天井に張り付いていた、つららが降って来た。


「いってー……怪我する所だったぜ!」

「ぶ、無事で良かったー……」


 かなりヒヤヒヤした。けど、流石はココロちゃん。岩はココロちゃんの頭で粉砕。つららもココロちゃんの皮膚に負け、ボロボロに折れたようだ。


「無事じゃねぇ……ズボンの下を見ろ。少し擦り傷が……」


 ココロちゃんはふくらはぎの部分をめくると、血は出ていないけど確かに擦り傷みたいになっている。軽そうな怪我だけど、こういうのも油断は禁物だ。


「本当だ! すぐ消毒しないと!」

「大丈夫かああああああああああああ!? って、思ったけど擦り傷で済んだみたいだな……これもダンジョンの影響か?」

「どうだろう……?」


 そういえば、ココロちゃんってどうしてあそこまで身体能力とかが高いんだろう? 世界がダンジョン化した時も生身で戦ってたし、明らかに強すぎる。にぶい私でも、最近そう思うようになってきた。ダンジョン探索の影響かなって思ったけど、ココロちゃんが喧嘩強いのって昔からだったし。

 もしかして、神様の加護的な……? でもそれだったら私も友達のレインちゃんに、精霊さんが見守っている的なことを言われたし、お揃いだね! 実際はどうか分からないけど。そもそも精霊さんと話せないし。そもそも、レインちゃんにも話したけど私に精霊さんは憑いてない気もする。レインちゃんと違って、1度も精霊さんと話せてないしね。……よし、久しぶりに話しかけてみようかな。


 精霊さん? 聞こえますか?


 って、いつも通り返事はないね。恥ずかしがり屋さんなのかな?


「どうした? 私はココロを連れて行くけど」

「私も休憩しようかな?」


 私とソラちゃんも、休憩を兼ねて2人について行った。



 その後スキーを満足するまで滑ると、旅館の部屋に戻って来た。

 カガミさんは、スマホで地図アプリを開いて、目的地のダンジョンを指差す。


「じゃあ、この辺りのダンジョン行って、帰りに札幌味噌ラーメンを食べるか! 旅館の夜ご飯もあるけど、食べられるか?」

「うん!」


 私達は全員頷いた。成長期だからね。



「ここが札幌のダンジョンか!」


 私達は、札幌の人通りが少ない所にあるゲートから、ダンジョンに入った。

 人はあんまりいないけど、魔法少女の人がポツリと何人かいる。やっぱり、皆魔法を取得したいんだね。


「マジカルチェンジ!」


 私も魔法少女形態に変身する。

 とは言っても、相変わらずの漆黒の龍の姿だけどね。こういうのって、王道展開だと最終的に人型になったりすると思うんだけど、現実はそんなことはなく進化してもひたすら龍なのでした。まぁ、私は気に入ってるけどね!


「北海道っていうだけあって、氷のダンジョンですね!」


 ソラちゃんは目を輝かせるようにして、辺りを見回した。

 確かに、凄く綺麗だよね。ちなみにこのダンジョンは広い洞窟タイプのダンジョンだから、滑って落ちる心配とかはない。ダンジョン内の体は身体能力が外の身体よりも高いから、スキー苦手な私とかソラちゃんでも滑るってことはない。気を抜いたら滑っちゃうだろうけど。


「結構強いな……!」


 ココロちゃんは、モンスターと互角な戦いを繰り広げながら進んでいた。

 私はワンパンで倒して、カガミさんは攻撃を避けて連続で攻撃を叩き込んでモンスターを倒している。ソラちゃんは回復アイテムを用意してくれている。


「なんか、私ばっかり飲んでて悪いな」

「その為の私ですから! むしろ、ありがとうですよ! 私昔から結構嫌われてますから! 今こうやって皆に必要とされるのが、凄く嬉しいんです!」

「嫌われていたことに関して深くは聞かないが、ここにいる皆は、普段からソラのことを凄く頼りにしてると思うぜ!」

「ありがとうございます! いやまぁ、簡単に言うと空気が読めなかったというだけなので、あんまりシリアスな理由じゃないですよ」


 皆いい人だ。勿論ここにいない私の友達も。

 ココロちゃんはただ見た目で怖がられるだけで優しいし、ソラちゃんも色々詳しいし、私的には一緒にいて凄く面白い。カガミさんも例え仕事ができないとしても、私にとってはカガミさんを嫌うマイナス要素にはならない。


『よし! 今日のボス戦は、皆で協力して倒すぞ!』


 なんだか、こうして皆で戦うのが最後になりそうだ。そんな予感がした。

 まぁ、ただの予感なんだけどね。



 ひたすらにダンジョンを進んでいき、現在第3層だ。今私達はボス部屋の前にいる。この大きな扉を開いて中に入ると、ボスと戦うことになる。


『皆! 行こう!』


「ああ!」


「ソラのポーションが無ければ、ボロボロな私だが、サポートは精一杯するぜ!」


「私はアイテムなどで、サポートをします!」


 皆で扉を開いて、ボス部屋に入る。すると、粒子が集合してボスモンスターの形となっていく。


『あれは……コウモリ!?』


 2mくらいの大きさをしたコウモリだった。


「相手にとって不足無しだ!」


 カガミさんは壁を蹴って、背中の2本の剣を抜くと、体を回転させながらボスを斬りつけた。


「ピョォォォォォォォ!?」


 大ダメージみたいだ。コウモリは叫びながら、空中で体をよろけさせた。


「こりゃ私も早い所行かないと、何もしないまま終わっちまうな!」


 ココロちゃんが私の背中に乗る。そして、ココロちゃんだけじゃなくてソラちゃんもだ。


「お供させてください……いや、私こそボス戦では本当に何もしないまま終わってしまうので、乗っただけで合体したということで……はい。せめて融合が使えればガチ合体ができたんですけどね……ぬいぐるみ化した影響で、あれからまた使えなくなってしまいましたからね……」


 ソラちゃんは表情を明るくすると、ちょっと嬉しそうに、でも同時にちょっと残念そうに言う。


「こういうのって、漫画とかアニメだとこちらの強さに合わせて相手も強くなる強さインフレが起こるハズなんですけど……現実はこんなものですよね! けど、それだったらコアももっと弱くて良かったような気もします!」

『ははっ! 確かにコアもあんまり強くなかったら良かったのにね』


 私は飛翔する。ネクストチェンジは使わずに、マジカル☆ファイアを発動して口から黒い火球を吐き出した。それはコウモリの腹部に当たると爆発。更にココロちゃんが追撃を仕掛けた。


「はあああああああああっ!」


 刀でコウモリを斬りつけた後、落下していった。


「心配するな! 落下じゃ死なねぇから!」

『ええ!?』


 そうは言っても、地面に叩きつけられたら痛そうだ! 助けに行かないと!


「ったく、無茶しやがって」


 と思ったら、カガミさんがココロちゃんをお姫様抱っこで救出した!


「ルカさん! 今です!」

『うん!』


 私は黒炎を右腕にまとわせた。そして、勢いよくコウモリを殴った。するとコウモリは叫び、爆発しながら粒子になって消滅した。



「やぁ!」

「ふぇっ!?


 人間の姿の私は、寝転んでいたみたいだったから、急いで起き上がる。

 え!? もしかして死んじゃった!?


「落ち着いて」


 よく見ると、この前の金髪オールバック丸眼鏡おじさんが立って私を見ていた。

 そして、ここはあの白い空間だ。ってことは、夢か……なんだ良かった……。


 って、良くない! ボス部屋で寝てるってことじゃん!


「君に伝えるべきことが2つある」

「2つも?」

「うん。良いことと、後は……君にとっては悪いことかな。どっちから聞きたい?」

「いいことから!」


 どうせどっちも聞くことになるんだからね。

 そもそも夢だから、適当だろうし。


「まず良いこと! 君はあのコウモリを倒して【空間移動・改】を手に入れたみたいだ。これで……えーと、君達が名付けた名前は、コアだったね。とにかくそれを倒す準備は万端ばんたんになったってことだね!」

「ああ、うん。夢じゃなかったらね」

「夢じゃないよ? 正確には夢であって夢じゃない空間だって言ったじゃない。さしずめここは、おじさん空間だね」

「お、おじさん空間……」


 そのまんまのネーミングだ。

 夢なんだから、こう……もっとかっこいい名前が良かったな。


「とは言っても信用されにくいと思うし、試しにさっきの良い情報が当たっているかを後で確認するといいよ。さて次は悪いことだけど……ちょっと忠告いいかな?」

「忠告?」

「うん。君はコアを倒そうとしているみたいだけど、本当にいいのかな? コアを倒したら、ダンジョンという存在が消滅しちゃうんだよ?」

「それは前に皆とも話したよ。ダンジョン研究者の人がコアって名付けたことから、文字通りそういう可能性もあるかもって……」

「それは分かってるから、止めはしないけどね。忠告だよ、忠告。もう1度考えてみるのもいいんじゃないかと思ってさ」


 そう言われると、決意が揺らぎそうになる。

 でも……。


「……もうないんだ」

「え?」


 誰にも話していなかったことを、夢の中のおじさんに話す。夢の登場人物ってことは、自分自身みたいなものだし、いいよね?


「私達がいた世界は、もうないんだ。あの時、世界もダンジョン化しちゃったし、私達以外の人間は消えちゃった」

「そうだね。だからこそ、それを無かったことにしたいんでしょ?」

「最初はそう思ってた。けど……私達がいた世界は、もうないんだっって、最近思うようになったんだ。奇跡が起こって歴史を修正して未来を変えて2024年に戻れたとしても、一緒に過ごした世界や皆はもう2度と元には戻らないんだって。だから、今は……今住んでる世界を守りたい」

「なるほど。確かに、その奇跡とやらが起きるのもいつになるか分からないし、今も君の体は成長を続けている訳だしね、どっちにしても完全に元に戻るのはかなり難しいだろうね」

「うん。だから、私は今いる皆を守る為にコアを倒したい」

「そうか……君結構面白いね! 例え強がりだとしても、そう言葉に出せるのは中々面白いよ!」


 おじさんが嬉しそうに言うと、目の前は真っ白になった。



「ルカ! おい!」

「えっ!?」


 私はボス部屋に立っていた。

 そして、ココロちゃんが目の前にいた。


「良かった! 何もなくて良かったぜ!」

「私、どうしちゃってたの?」

「勝負が終わった後、地上に降りたと思ったら変身を解除してボーッとしてたな。何もなかったか?」

「あ、うん……変な夢を見てたと言うか……」

「変な夢?」

「うん。って、そうだ! 魔法魔法!」


 私は目をつむると、脳内で魔法を思い浮かべる。すると、覚えている魔法が一覧のようにズラーっと脳内に並んだ。


「え!?」


 そこには、【空間移動・改】の文字があった。

 どういうこと……? っていうことは、もしかしてあれは夢じゃない……?


 いや、きっと夢だ。私の脳内にこうやって魔法の名前が並ぶくらいだ。きっと夢を経由して教えてくれたんだろう。

 でも、もしそうじゃなかったら、あのおじさんは一体誰なんだってことにはなるけどね。シリアスな話題を嬉しそうに語っていたし、結構油断できない存在かもしれない。もしも夢じゃないとしたらね。


「どうした!? なんか手に入ったか!?」


 ココロちゃんが目を輝かせるようにして、いてきた。


「【空間移動・改】って魔法を手に入れたみたい!」


 効果は、行ったことのあるダンジョンに飛ぶことができる。行ったことのあるダンジョンだから、コアのいるダンジョンに一度入って出る必要はあるみたいだけど。

 後は階層ワープもできるみたいだ。流石に時間は越えられないみたいだけど、かなり強い魔法だね。


 って、そういえば魔法に関して前はここまで確認できたっけ?

 ……そもそもこんないいタイミングでこの魔法を取得できたのも、もしかしておじさんが関係している……?


「すげぇな!! 改ってことは、普通のより凄いんだよな!」

「うん! これがあれば、ダンジョン同士を移動できるよ!」


 そういえばこれがあれば、帰りは新幹線に乗らなくても大丈夫そうだね!


「いやぁ、流石ですね! 流石ルカさん!」

「流石……かな?」


 私はふと考える。もしかして、今まで私が強かったのも、全部おじさんのおかげなんじゃ……? そもそも今まで何やっても駄目だった私が、いきなりダンジョンで無双って不自然だよね。 って、そもそもあれは夢だ!


「ああ! 私も流石だと思うぞ! とりあえず、後一晩は泊まれるから今日はゆっくり休むとしよう!」


 カガミさんは笑顔でそう言うと、皆で旅館へと戻るのであった。



 その日は、札幌味噌ラーメンを食べたり、温泉に入ったり、旅館の料理を食べたりして眠りについた。

 なのに、私はまたこの白い空間にいる。連続でこんな夢を見るなんて、私疲れてるんだね。


「こんばんは!」


 そして、いつものおじさんの登場だ。


「こんばんは!」


 とりあえず、挨拶を返した。


「いいね! おじさん嬉しいよ! 今日もおじさんから良いお知らせがあるんだ!」

「良いお知らせ?」

「うん! とってもいいことだよ!」


 おじさんは、嬉しそうな表情で言う。


「カガミさん……だっけ? ま、その人の家の中にコアがいるゲートを明日から3日限定で出現させることにしたんだ! 家の中だからね。勿論、君のお友達が近付いたとしても、体調が悪くならないようにはしておいた。そして、このダンジョンに関しては君にも見えるようにもしておいたから、中にいるコアを、ぜひ倒してくれたまえ!」

「え!?」


 いやいや、流石にこれは……もしそうだったら、どれだけいいことか。


「そう上手くはいかないんじゃないかな?」

「そうかい?」

「だって、これ夢でしょ?」

「まだそんなことを言っているのかい? じゃ、こうしよう。もしカガミさんの家にコアへのゲートがあったら、これはただの夢じゃないって信じてくれるかい?」

「うん! 勿論! ……そんなことないとは思うけどね」

「ハッハッハ! 君の驚く顔が楽しみだよ! じゃあ、またね!」



 次の日。私達は帰りの支度を済ませた。大きな荷物は宅急便で送ることにした。私達は空間移動・改の実験もねて、旅館近くのダンジョンへ歩いて行った。


『じゃあ、行くよ!』


 私はスキル【魔法少女】で変身をすると、皆を背中に乗せた。

 ちなみにこの魔法、通常の魔法少女形態でも使用可能だ。流石、改だね。


『到着!』


 上野駅付近にある、よく行っているダンジョンに到着した。

 これがあれば旅行し放題だね! まぁ目標もあるし、何よりこの時代で暮らすとなると、あんまり遊んでばかりもいられないけどね。


「おお! 本当に一瞬で戻って来られたな! ……ちなみに、こんな強力な魔法だけど、本当にリスクはないんだよな?

『連発はできないけど、リスクは無いよ!』


 私達はダンジョンから出て、カガミさんの家に向かって歩き出した。


「皆……ちょっといいかな?」


 一応言っておかないと。念の為にね。


「最近私の夢に怪しいおじさんが出て来て、そのおじさんがカガミさんの家にコアへのゲートを出現させるって言ってたんだけど……って、まぁ夢だけどね! ハハハハ!」


 私はわざとらしく笑った。


「怪しいおじさんって……なんだそれ? でも、私達にそう話してくれたってことは結構マジで悩んでるんだろ? 最近なんか変だったしな」


「そうだな。一応用心しておくか」


「ま、ダンジョンなんてものがある時点で、何が起きてもおかしくはないですからね」


 皆私の言うことを信用してくれた。

 これで万が一ゲートがあっても、驚かないハズ。


「いや! マジであった!」


 カガミさんの部屋に入ると、中にゲートがあった。カガミさんは驚いていたけど、当然かもしれない。私も驚いてるし。


「あ……あのおじさんの言ったこと、本当だったんだ……ってことは、あのおじさんは一体……?」


 ゲートがあったこともそうだけど、それよりも驚いたのは、あのおじさんが単なる夢の存在じゃなかったってことだ。

 あの私の行動全てを監視しているかのような発言をするおじさんが、夢の存在じゃないってなると、ただひたすら不気味だし怖かった。


「私達には見えねぇな」

「みたいですね。というか、ルカさん見えるんですか?」


「うん。おじさんが言うには、今回は私にも見えるようにしたって言ってた」


 ゲートを生み出したか、移動したのかは分からない。

 けど、なんでもありなダンジョンに対してそんなことをできるってことは、あのおじさんは、神様みたいな存在だったりする……?


 そういえば、あのおじさんは私がタイムスリップして来たことも知ってた。最初は夢だと思っていたからそこまで突っ込まなかった。けど、夢じゃないことがハッキリした今、そこも気になる。きっとおじさんは、常に私を監視できるような存在なんだ。

 敵か味方かは分からない。けど、敵だったとしてもどうしようもない存在だとは思う。


「どうした? 不安そうな顔をして」

「ちょっとね……そのおじさんのことについて色々と……」

「ああ確かに……言われて見ればそうだな。そのおじさんは、何者なんだ?」

「私にも分からない」


 ココロちゃんに訊かれたけど、私にも分からなかった。


「けど……神様かもしれない」

「「「え!?」」」



「神様ですか……」


 部屋の中で座った後、私はおじさんのことについて、ほぼ全てを話した。


「今の所、敵じゃねぇんだろ?」

「敵じゃないみたいだけど、私が悩んでいるのを楽しんでいる感はあったね」

「確かにそこら辺は引っ掛かるな」


 ちょっとサイコ的でも、味方だったらいいんだけど……。


「もし敵でしたら、どうします?」

「敵だった時は……う~ん。ソラちゃんはどう思う?」

「ゲーム的展開ですと、倒すとかですかね。しかし、お話を聞いている限りですと、そのような次元の方ではない気もしてきます。話し合うしかないのかもしれませんね」

「そうだよね」


 敵だったら嫌だね。

 ソラちゃんの言う通り、敵だった場合はアニメとかゲームだと、なんだかんだ言って倒したりする展開が王道なんだろうけど。リアル神様だったら、まともな勝負にならないよね。消そうと思うえば私達を消すこともできるだろうし。


 あれ?

 消すこともできる……?


「とりあえず、このお話も聞いている可能性もありますし。あまり刺激しない方が良いのかもしれませんね」

「そうだね」


 もし、私の予想が正しければ、おじさんは私達を遊び道具くらいにしか思っていない可能性もある。

 ここにいる皆には話せないけど、元の時代で起きていた世界の改変もおじさんが起こしている可能性がある。もしかしてそれとこれとは別問題かもしれない。けど、今の所おじさんの可能性が一番高い。


「ソラちゃんの言う通り、刺激しない方がいいかもね」


 とりあえず、今私がすることは、コアを倒すことだ。

 今はそれだけを考えるようにしよう。


「よし! じゃあコアを倒しに行くぞ!」

「今日かよ!」

「え? 駄目?」

「3日ってことは、明後日まであるんだろ? だったら明日にしねぇか? って言っても、私からはあんまり強くは言えないけどな」


 確かに急いで行っても、失敗するだけかもしれない。

 ココロちゃんの助言で、私は明日コアを倒すことにした。



 その日の夜。私は公園に呼び出された。

 怪しくないかって?


「よお!」


 呼び出したのはココロちゃんだったから、怪しくないのだ。

 ココロちゃんはジャングルジムの上に立っていた。


「お待たせ! でも、どうして夜の公園に呼び出したの?」

「かっこいいかと思ってな! さてと……」


 ココロちゃんはジャングルジムから飛び降りると、私の方へ歩いてくる。

 まさか、決闘!?


「ちょっとあそこでは言いにくいことだったし、ルカがこんなにやる気なのにこういうこと言うのもなんだと思ったんだが、言わないと後で後悔すると思うから言うわ」

「な、何を? 決闘は駄目だよ!?」

「ちげーよ!」


 だったら何を……?

 ココロちゃんは真剣な表情で言う。

 

「嫌なら行かなくてもいいんだぞ」

「え?」

「コアの所に、だ。私はお前の心を覗くことはできない。だからルカが本心で行きたがっているかは分からない。でも、もしも本当は行きたくないんだったら、行かなくてもいい」

「いやいや! 心配しないで! 私強いから! 現実世界ではココロちゃんの方が全然強いけどさ! でも、ダンジョンでは私の方が強いし? 心配しないで!」


 私は心配させないように、声を大きめにして言った。

 けど、ココロちゃんは真剣な表情を崩さなかった。


「心配はするだろ。いいか? 仮に同じような未来になるとしても、少なくとも元の時代のあの日までは、普通に過ごすことができるんだ。そもそも時間を超えることができたってことは、他にも世界を救う方法が今後出てくるかもしれないだろ? だから、別に無理して行かなくてもいいんだ。まだ中学生だろ?」


 本心から心配してくれているような声だった。

 いや、ココロちゃんは優しいから、実際に本心から心配してくれているんだろう。


「大丈夫だよ! 別にダンジョン内で死んじゃったとしても、リアルの体に影響はないし!」

「今までならな。けど、コアのダンジョンが他のダンジョンと同じとも限らないし、何よりお前はその怪しいおじさんに目をつけられている。ってことは、そこで死んだら、リアルで死んだとしてもおかしくないだろ」

「そうかな?」

「そうだろ!」


 と、こんな感じでボケたけど。世界の改変もおじさんがやったんだとしたら、私が消される可能性もあるかもね。今まで私が改変の影響を受けなかったのも、おじさんの気まぐれかもしれないし。今度こそ本当に消されちゃうかもしれない。


「どっちにしても、行くよ。そのおじさんに目を付けられてるんだとしたら、ここでコアを倒しに行かないとしても、何されるか分からないしね。おじさん的には、私とコアの戦いを楽しみにしている可能性だってあるかもだし!」

「ルカ……ごめんな。ダンジョン内で私がもっと強かったら、私もコアと戦えたんだけどな……」

「気にしないで! 勝ってくるからさ! でさ、もしコアを倒してダンジョンが消えちゃったら、その時はごめんね?」


 私がちょっと言いにくそうにそう言うと、ココロちゃんはいつもの調子に戻る。


「ん? ああ! そこは気にするな! 前も言ったが、こっちの時代で過ごすのも悪くないしな! それに今の話をまとめると、結局はコアを倒しに行くしかないんだろ? だったら、勝ってこい! その後のことはその後考えようぜ!」

「うん……そうだね……そうだね!」


 いつも通り行こう! いつもの探索みたいに、サクッと倒しちゃおう!

 私とココロちゃんは、その後カガミさんの家に帰るのだった。



 そして次の日。

 私はコアのいるダンジョンに入って、すぐに出てきたんだけど。


「い、一体どういうこと!?」


 空間移動・改は、一度行ったことのあるダンジョンにしか移動できない。

 元の時代では行ったことのあるコアダンジョン (と呼ぶことにした)だったけど、こっちの時代ではまだ行ってなかったから一度入って出てきた。


 コアダンジョンは、元の時代と変わらず薄紫色の風が吹いていて、身動きが取れなかった。

 そう、元の時代と同じようにだ。


「ダンジョン研究者Gさんの話だと、昔のコアは弱かったみたいな話だったのに……」


 私達もさっきまで、そう考えていた。


「あくまでコア自身が弱いってだけで、元々コアダンジョンはそのような仕様なのかもしれません。それに、他のダンジョンでは元の時代よりもモンスターが強かったです。ということは、コアの成長度で強さがマイナスでも、2013年補正で強化……つまりはプラマイゼロという可能性も考えられます」

「なるほど」


 ちなみに、私だけじゃなくて他の皆も試しに一瞬だけ入ったけど身動きが取れなかったみたいだった。

 ネクストチェンジの私ならなんとかなるといいな。っていうか、なんとかするしかないんだけどね。


「ごめんな。私も行けなくて。私だって強いと思っていたが、まだまだだったってことだな」

「いやいや! コアは別格だから! カガミさんは強いから!」


 私達は上野のダンジョンに向かった。そこからコアダンジョンに私がワープするという流れだ。


「じゃあ、行ってくるね!」


 私は、ちょっと出掛けてくる、みたいな感じで皆に手を振った。

 皆は私に対して、同じようなノリで返して来た。多分、緊張させない為にあえてそうしてくれたんだと思う。


「マジカルチェンジ!」


 私はそう叫ぶと、スキル【魔法少女】を発動させ、漆黒の龍に姿を変えた。

 そして……。


「【ネクストチェンジ】!」


 魔法【ネクストチェンジ】で真っ白な翼が6枚ある龍へと姿を変えた。


『【空間移動・改】!』


 そしてこの魔法で、コアダンジョンへと移動した。



 薄紫色の風が吹いている。

 コアダンジョンに無事移動が完了したみたいだね。


 でも、平気だ! さっきと違って自由自在に動ける! 流石ネクストチェンジだね!

 私は飛んで進んでいく。モンスターは現れない。そもそもこのダンジョン、薄紫色の風が霧みたいになっていてよく遠くが見えないから、構造がよく分からない。けど、縦横がかなり広いダンジョンってことは間違い無さそうだ。


 更に進んでいくと、5分くらいで大きな扉までついた。

 あれ? あっという間だったね。いや、むしろ助かるけどね! ここより下の層も無さそうだし、この先にいるのがきっとコアなんだろう。


 って、そうだ! コアと戦う前に検証しないと!

 私は魔法を発動させようとしたけど、発動しなかった。スキルの発動も不可能だったけど、やっぱり魔法の発動も不可能みたいだ。こうなったら肉弾戦しかない。いや、それだけじゃない。私には切り札がある。


 私は扉を開くと、中にはコアがいた。

 えっ!? コアってこんな感じなの!?


 コアの見た目は、氷の龍だった。氷属性の龍なんじゃなくて、2mくらいの氷でできた龍だ。彫刻とかでありそうな感じで、凄く綺麗だ。

 そして、鳴き声はとても文字で表せる鳴き声じゃなかった。どこか不安になる鳴き声がダンジョン中に響き渡った。


『はあああああああああああっ!』


 私は思い切り飛んで行き、コアの顔面を殴りつけた。


『え!?』


 けど、私の右手は凍っていた。

 私はすぐに距離を取る。


 今何をされたの!? まさか、触ったら駄目な系!?

 本当はもっと肉弾戦をしたかったけど、もう奥の手を使うしかないみたいだね!


 ダンジョンを破壊できる程の力を放つ為に、私は集中する。

 全てはあのコアに向けて!


 【魔法】は発動できない……けど、【技】なら発動できる!

 元の時代にここに来た時も、こっちなら発動できそうな感じはした! そしてそれは正しかった!


『【漆黒破壊光線ブラックデストロイビーム!!】


 漆黒の光線を、コアに向けて放つ。ダンジョンを破壊したら、どうなるか分からない。コアに狙いを定める。最初はネクストチェンジ形態では、【技】を発動することも難しかった! けど、コアを倒す為に特訓しておいた!


 当たれ!


 けど、コアは私の動きを読んで、漆黒破壊光線をかわした。

 しまった!? これじゃダンジョンが破壊されちゃう!!


 けど、それはいらない心配だった。

 このダンジョンは普通の作りとは違うのか、漆黒破壊光線でも破壊することができなかった。


 こうなったら……!!

 私は凍った右手で、コアを殴る。そして、漆黒破壊光線を食らわせる! 多分今撃ったらもう撃てないと思う。だからこそ、これにける!


 当たった!


 コアの鳴き声がダンジョン中に響き渡る。


 えっ……?

 コアは漆黒破壊光線で、ほとんどダメージを負っていないみたいだった。

 頭部のツノが欠けた。そのくらいだった。


 嘘でしょ……?


 コアは鳴き、口内から青白い光を私に向けてきた。多分光線を発射しようとしているのだろう。

 もう駄目だ……そう思っていたら、私の口内に何か石みたいなものが入って来て、それを飲み込んでしまう。


 石って……せめて最後はもっと美味しいものを食べたかったな……。

 私は青白い光に包まれた。この形態は痛覚がほぼないし、大丈夫だろう。でも、ここで死んだらどうなるか分からない。そもそも、どっちにしても私は2度とダンジョンに入れなくなる。そうなったら、誰がコアを倒すんだろう……?


 駄目だ……絶対に死ねない!




















 そう念じていたら。




















『あれ?』


 生きていた。なんと、あの攻撃を耐えきったのだ!

 凄い! 自分でも驚いている! 奇跡かな!?


「ギリギリ間に合ったな!」


『ココロちゃん!?』


「私もいます!」

「私も!」


 どうしてここに!?

 皆風になびかれて、身動きを上手く取れないで宙を舞っている。


『皆! どうして!?』


「ちっとばかし、心配になっちまってな! 危なかったな! 私が投げた指輪を飲み込んでくれて、助かったぜ!」

『指輪!?』

「ああ! 私がクリスマスのプレゼント交換会でソラに貰った指輪だ! ダンジョン内での死亡を1度だけ無効にできる!」

『そういえばあったね!?!?』

「私も色々あり過ぎて、さっきまでそのことをすっかり忘れていた! すまねぇ!」


 え? ってことは、さっきの攻撃を耐えきった訳じゃなくて、1回死んだの!?


「いやぁ! 作った私自身も、その指輪の存在を忘れていました! それにしても運が良いです! ここまで来れるとは思っていなかったんですけど、風に吹かれて運良く来れました!」


「手伝いはできないが、君を応援することはできる! やっぱり、ギャラリーがいた方がいいだろ?」


『ありがとう!! でも、私の今できる攻撃は全部攻略されちゃったんだ!! ごめん皆!!』

「ルカさん! 難しく考えなくていいんですよ! こういう時、前のルカさんでしたら、もっとアニメチックに考えていたハズです!」

『アニメチック……?』

「はい! 私には分かりませんが、きっとルカさんなら分かるハズです!」


 アニメチックにか……! う~ん……!

 私が悩んでいると、コアはまた鳴き声をダンジョン中に響かせた。私の方へ向いて来た。まずい! また攻撃が来る!


「かわいい後輩が考えてるんだ! その間、少しは手伝わせて貰う! いっけええええええええええええええええええええええ!!」


 カガミさんは2本の剣を、叫びながらコアに向かってぶん投げた。

 その2本の剣は、コアの尻尾にヒットし、根本から切断。コアの悲鳴のようなものが響き、バランスを崩したのか、よろけた。


 カガミさん! ……そしてココロちゃんとソラちゃんも、ありがとう!

 ココロちゃんのおかげで死なずに済んで、ソラちゃんの助言を受けた私は、カガミさんが作った時間で、ひらめくことができた!


『【超進化】!!』


 私はネクストチェンジ形態のまま、【技】超進化を発動させた。

 この発想は、ソラちゃんの助言が無かったら、今の私には無理だったね!


 私の体を黒い光が包み込むと……私の姿が変わっていた。


「ネクストチェンジからの超進化か! 考えたな! って、見た目が普通の黒い龍に戻っちまったぞ! 失敗か!?」

「いえ!! これぞまさしく最終回で原点回帰する的な多くのオタクが好きそうな変身ですぅ!!! 古くから伝わる最初の形態でラスボスを倒す的なあれです! しかも、今までの能力の併用へいよう……これもまた熱い!! 熱すぎます!! アニメチックであり特撮チック……いやもう、全てのコンテンツで愛される……ある意味の最強で究極なる究極で究極形態ですぅっ!!」

「いや、テンション上がり過ぎだろっ! って、よく見るとルカの周りがキラキラしてるな。なんか、凄く魔法少女っぽいキラキラだ!」


 ソラちゃんの言う通り、体に凄い力がみなぎる!

 見た目は通常形態と同じだけど、しっかりとネクストチェンジと超進化の力が合わさっているのを感じる! いや、それ以上かもしれない!


 そしてなんと……私の力がコア、またはダンジョンを上回ったのか。魔法も発動できそうな雰囲気だ。

 けど、この形態の時間制限もどのくらいなのか分からないから油断はできない。それを考えると、できれば一発で倒したい。何か強い攻撃をぶつけよう! って言っても、もう強力な魔法を発動する力は残されていない。どうしよう。……よし、相手は氷だ。氷を解かすにはあの魔法しかない!


『超ネクスト!! マジカル☆ファイア!!』


 私はただのマジカル☆ファイアを、放った。

 ただのとは言っても、物凄く大きな黒い火球でコアもかわしきれないくらいの大きさだ。私はそれを口から放つ。


『いっけええええええええええええええええ!!』

「よっしゃ!! 決まれえええええええええ!!」

「君ならこれで決められる!!」

「コアさん!! これで倒されなかったら、敵として失格ですよ!!」


 黒い火球が、コアに触れると、コアはそれを両手で受け止めた。


 コアは耐える。耐える。


 けど、段々と溶けていき、粒子となっていく。


 最後にコアの鳴き声がダンジョン中に響くと、コアは完全に消滅した。


「やったな!」

「はい! まぁ、コアと言う名の存在が倒されて、ダンジョンがどうなるかは分かりませんが……それでも、世界のダンジョン化は防ぐことができました!」

「はははっ! 流石! やっぱり、最強は君だ!」


 このダンジョンが消滅していく。

 ダンジョンが消滅しても、ダンジョン外に放り出されるだけだから大丈夫だ。というか、崩壊のスピードが速すぎて、この段階だともうどうしようもないんだけどね。





















「おめでとう!」


 また白い空間だ。いつものおじさんが笑顔で拍手をしてくれた。


「おめでとう!」

「あ、ありがとう。1回だけで十分じゅうぶん嬉しいから大丈夫だよ」

「そうかい?」

「うん。後夢だと疑っていて、ごめん。おかげでコアを倒すことができたよ。本当にありがとう!」

「それは嬉しいね! これでまぁ見たいものは見れたかな? そろそろ消そうか」

「え?」


 嫌な予感がした。やっぱり、世界の改変を起こせる程の力を持った人なんだ。


「やめて! 消えたくない……! けど、そう言ってもどうせ駄目だろうから! 私の友達は消さないで!」

「うん! 元よりそのつもりだから、安心して! 君の友達“は”消さないよ!」


 ってことは、このおじさんは私を消すってこと……?


「……どうして私を消すんですか?」

「怒らないでね? こう見えても、前から僕は君を消そうとしていたんだよ」

「やっぱり、いつでも消すことはできたんだね。そして、世界を改変することも!」

「鋭い! その通り!」


 おじさんは嬉しそうに、「うんうん」と腕を組みながら頷いた。


「どうしてダンジョンの秘密に気付いた人を消したの!?

「だから怒らないでって! いやね。ダンジョンの秘密が早めにバレると面白くないからね。ある程度はシークレットにする為に、その辺りは調節していたんだよ。調整といえば、君が元の時代の物やお金を持ち込んでも矛盾が起きないようにもね。そこは感謝して欲しいくらいだよ。ま、思考もある程度は僕の思い通りに変えることができる訳だけど、どうしてもそれを突破してくる人がいるからね。君もその1人さ。だから本当はもっと早くに消したかった」


 消したかった……? じゃあ、どうして今まで消さなかったんだろう?


「けどね。君は凄く運がいいんだ。おっと、それを話す前にちょっと聞いてもらいたいことがある。それを話さないと、上手く説明できないからね」


 おじさんは、「やれやれ」とでも言いたそうな表情で言った。


「まず、君は本来だったらそんなに強くはならなかったんだ。現実世界で勉強も運動も駄目な君は、勿論ダンジョンでも弱くて、多分ダンジョン内ですぐ死ぬと予想していた。本来だったら、【ジク】としての役割は、ココロちゃんだったんだ」

「軸……?」

「うん! 軸っていうのは、簡単に言うとそうだなぁ……主人公のことだと思ってくれていいよ! だから元々世界の軸として設定されていた彼女は、現実世界じゃまずあり得ないようなスペックをしていた。身体能力も人間離れした程に強く、頭もいい。それに天然青メッシュ。普通だったら、こういう人はあんまりいないと思う。特に身体能力に関しては、絶対いないんじゃないかな?」


 だから、あそこまでココロちゃんは喧嘩が強かったってこと?


「ってことは、おじさんがココロちゃんの設定を作ったってこと? おじさんは神様なの?」

「そう思ってくれて構わないよ」


 おじさんは、ニコリと笑った。


「正確に言うと、君達が住んでいる世界より1つ上の宇宙に住んでいる、ただの人間かな? あっ、勿論君達にとっては神様的存在だけどね。そこは勘違いしないように!」

「1つ上の宇宙……?」

「察しが悪いね。1つ上の次元だよ。君は多次元宇宙論っていうのは聞いたことがあるかな?」

「多次元宇宙論……?」


~「という訳で。多次元宇宙論とは、私達が観測できていないだけで、異なる時間や空間にいくつもの宇宙が存在しているということなんですね! ここテストに出ません! 覚えておいてください! ……って、龍崎さああああああああああああああああん!」~


 前に授業でやったのを思い出した。私は寝そうになってたけど。


「君には難しかったかな? ちなみに君達より下の次元にも宇宙は存在する。分かりやすく言うと、アニメ・漫画・ゲーム・小説。そういった世界は君達が気が付いていないだけで、また別な宇宙が広がっているんだ。嘘みたいでしょ? ま、この法則は僕の世界でも、発見されてまだ10年くらいしか経ってないんだけどね」

「で、でもっ! 私はアニメの世界の人と話せないよ! おじさんの言ってることが本当だったら、私もアニメの世界に入ってキャラと話したりできるハズだよ!」

「君達の世界では無理だね。でも僕のいる世界では、コンテンツを作った副産物としてじゃなくて、下の次元の宇宙を意図的にを作って、そこの神様になって世界を運営していく。そんなゲームのようなものが存在するんだ」


 なんだ、そんなことか!


「街作りゲームなら、私もやったことあるけど?」

「それとは違うんだ。あくまで宇宙の中の人間としては観測できないだろう? あくまでゲームのキャラとしか見ることができない。でも、僕は今こうして君を1人の人間として観測している」


 っていうことは、私は本当にゲームのキャラみたいな存在なの……? でも、だとしたら、ますます私を消さなかった理由が分からない。

 私は主人公的存在の軸でもないし、特別でもなんでもない存在だ。……自分でこういうことは言いたくないけど。村人A的な存在なんでしょ? だったら、消さない理由が分からない。消したかったら私にこんなこと言わないで、もっと前に勝手に消せば良かったじゃん!


「で、どうして私を消さなかったの?」


 怖かったけど、強気に言った。どうせ消されるんだったら、堂々と意見しようと思った。

 怖いけどね……。


「そうだね。もう必要な説明はたし、君がなぜ運良く消されなかったのかを教えよう。まず君に世界の改変を適応しようとすると、なぜか上手くいかないんだ。毎回運良く君にだけエラーが起きる。だから、設定や記憶を改変しないで、もう消そうと思ったんだけどね」


 おじさんはブチギレる。


「君を消そうとすると、偶然にも邪魔が入るんだ! 上司からの呼び出しや、その他様々……とにかくリアルの用事が邪魔をしてくるんだ……! 必ずね!!」


 おじさんは、ニコリを笑う。


「だから、時が来るまで泳がせようと思ったんだ。いつか消せばいいやって、思ってね。ついでに、折角だから見たいものは見せて貰おうとも思った。例えば、コアとの戦いだね。感想は、本来想定していた君じゃ無理なくらいに良かった! 満足した! で、今日は有給を取ったし、邪魔は入らない。そんな状況を作ったんだ。だから……今から、消しまーす(笑)」

「やめて!!」


 おじさんの手にスイッチが出現した。

 おじさんはそれを押した。


 嫌だ……嫌だ!!






















『エラー』


 真っ白な空間に無機質な声が響き渡った。


「は? ……は? は? は? は? は?」


 おじさんは、スイッチを地面に叩きつけた。


「エラー……だと……? あり得ない……!! あり得ない!!!!!!!!!! 調整はちゃんとしただろうがああああああああああああああ!!」


 おじさんは私を指差した。


「君……どうしてそんな運がいいのかな? 僕はずっと運が悪かった。気に入らない……一体、誰が君をそこまでして守る……?」


 誰が……?


 あっ! そうか!!


「私には、精霊さんが付いている!」


 私は強気な笑顔で右腕を伸ばし、右人差し指をおじさんにビシッと向けた。


「精霊……さん……?」

「そう! 私の友達のレインちゃんが言っていた! やっぱり精霊さんは、私を守ってくれていたんだ!」

「レインちゃん……? ああ、あいつは意図的に世界の改変を避けるようにして、更には精霊使いという、これまたファンタジーな設定をつけた。だからそれはいい。だが、君にはそんなものはないっ!!!!!!!」


 そうかな?





















 精霊さん、今見てる?


 私視点にならないと、本心から私の思ったことは伝わらない。


 それは友達同士も同じだ。でも、レインちゃんは言っていた。同じ視点を見ることのできる精霊さんがいるってことを。


 精霊さん! もし、精霊さんが私の視点を見ているんだとしたら、私の思ったことを感じ取れるんだったら……!


 もしも、一人称視点で……私と同じ視点でこの世界を見ているんだったら、言っておきたい……!


 ありがとう!! 精霊さんのおかげで、私は生きられた!!


 きっとそうだよね?
























「……ハハハハハッ!! 君は本当に運がいい!! 精霊……? 頭がお花畑のようだね!! だったら、君の精神を乗っ取り……君の体を操り! 今この場で死んでやる!! そうだ!! どうして今まで思いつかなかった! そうすれば完璧だ!!」

「えっ!?!?」


 マズいマズい!!

 おじさんは、透明なディスプレイを操作する。




















☆おじさん


 成功だ……!!

 僕は無事に、ルカちゃんの体を乗っ取ることに成功した!!



















☆龍崎ルカ


 はっ!? 今一瞬意識が飛んでた!?















☆おじさん


 あれ? 一瞬元の体に戻ったような……?

 いや、とにかく死んでやる……!!



















☆龍崎ルカ


 また意識が……!

 乗っ取られた!?


 あれ? でも死んでない!!





















☆おじさん


『視点を乗っ取ろうとした。しかし、何者かにはばまれた』


 は? 誰だお前は?


 僕の脳内に、変な文章が流れた。

 それも1つだけじゃない。内容は同じだけど、1つ1つ文章が違う。


 まるで違う人が書いたような文章が、数えきれないくらい視界を埋め尽くした。邪魔だ。


 それにしても、随分と生意気だな。


 ルカちゃんの意思の力かな……?


 まぁいいや。


 さて、今度こそ。






















☆龍崎ルカ


 気が付くと、おじさんが吹っ飛んでいた。


「だ、大丈夫!?」


 敵ながら、あまりに凄い吹っ飛びだったから、思わず心配して声を掛けてしまった。


「おかしい……自分より下の次元の存在は、自分より上の次元の存在には逆らえない……。だとしたら、バグか? ま、いいけどね。というか、別に君の体で死ぬ必要なかったね。直接殺せば良かったんだ。システム的に消すことは無理でも、殺すことはできるだろうしね」


 おじさんはゆっくりと歩いてくる。歩きながら、半透明ディスプレイを操作する。


「神には勝てない。良い勝負なんてできないよ。一発で死ぬチートパンチだ。さよなら」


 おじさんは私を殴ろうとした。

 私は怖くて、両手で顔をおおった。


「がああああああああああああっ!?」

「え!?」


 またしても、おじさんは吹っ飛んだ。


「そうか……また不具合か。だったらこの世界に存在する者の力で倒すのみだ!!」


 おじさんの姿が変わっていく。

 その姿は、コアそのもの……つまりは、氷で出来た龍だった。


「成功だ! 無事にコアのステータスを引き継いでいる! これで確実に殺せる!! やはり、チートは良くないということだね!!」


 氷の龍がこっちに来る。

 無理だ! 人間の姿じゃ……!


「って……あれ?」

「何ぃぃぃぃぃぃぃ!?」


 私はコアになったおじさん……コアおじさんの攻撃を、手に持ったもので無意識に受け止めていた。


「これは……? 魔法のステッキ!?」


 魔法のステッキ……と言うよりは、槍……?

 なんだっけ、あっ! 万年筆! 先端が万年筆っぽい!!


 もっと、勉強しろってこと!?


 でも、パッと見ただけじゃ万年筆にはとても見えなかった。雰囲気は、アニメで出てくる魔法少女が持っている杖みたいに、カラフルで可愛い感じだ。


「馬鹿な!? なんだその姿は!?」

「え?」


 私の背中には黒い翼が生えていた。

 そして、尻尾も!? 


 魔法少女形態の翼と尻尾のサイズが調節されて、人間形態の私から生えている感じだった。

 そして、服装もダンジョンの服装じゃなくて、中学校の制服になっていた。


 やっぱり勉強しろってこと!?


「ちっ!!」


 コアおじさんは、私から大きく離れた。


「見た目が変わっていい気になるなよ! 氷のブレスを食らえ!」

「ひっ!?」


 青白い光線とは違う。

 コアダンジョンでは使ってこなかった攻撃だ!


「回避不可能な攻撃だ!! 実際のコアでは、没にしたけどね!!」

「そ、そんな……!? それチートじゃない!?」

「使わないようにしておいただけで、元々設定はしてあったから、チートじゃないよ。ま、チートかもね(笑) でも、OK!!」


 だったら、こっちもチートだ!


 精霊さん!!


 私は精霊さんに、攻撃を防いでとお願いをした。


 私は氷のブレスを食らった。


 けど!


「何っ!? ダメージがないだと!?」


 よし! 無事なんともなかった!

 実際のゲームじゃチート使わないから、許してね!


 今度はこっちの番だ!


「マジカル☆ファイア!!」


 私はステッキを振るうと、黒い火球が飛んで行った。

 でも、コアおじさんはそれをかわす。


「残念だったね!」


 精霊さん! 当てて!


 私はそう念じた。


 すると、火球の動きが変わった。


「く……くそっ……! なぜだ!!」


 黒い火球はコアおじさんにヒットし、爆発した。


「はあああああああっ!!」


 私は連続して黒い火球を、杖から発射した。

 そして、それは全てコアおじさんにヒットする。


 コアおじさんは粒子となって消滅すると、その場所には元の姿のおじさんが倒れていた。


「……はは」


 私はおじさんに手を差し出した。

 なんか、チートでボコボコにした感があって、どこか罪悪感があったからだ。


 それにおじさんは悪い人かもしれないけど、おじさんにとって私はゲームのキャラみたいな存在だ。だったら、私も容赦なくゲームのモンスター倒したことなんて、数えきれない程あるし、強く責めることはできない。


「甘いな……」

「攻撃しないの?」


 普通は、「甘いな」って言ったら不意打ちするでしょ!

 おじさんは私の手を取って、立ち上がった。


「ああ。無駄だと分かったからね。ストレス発散の為の娯楽なのに、それでこれ以上ストレスは溜める気はないよ」


 おじさんは私……じゃなくて、私より後ろに視線を合わせる。


「下の次元の存在は、上の次元の存在には逆らえない……。精霊さん、ね。なるほどね。そうか、君は……いや、君達は……」

「誰に話してたの? 君”達”ってことは、私と精霊さん?」


 おじさんは、私に視線を合わせる。


「少なくとも、君には言ってないよ。それと多分それ精霊じゃないよ」

「どういうこと?」

「君には一生分からないと思うよ」


 おじさんは真剣な表情になると、また視線を私の後ろへと戻す。


「次元って言うのは、どこまで続いてるんだろうね? 操る存在がいて、またそれを操る存在がいて、そしてそれを操る存在すらも存在するのかもしれない……。頭がおかしくなりそうだね。君達も僕達を操って、なんらかのコンテンツの1つとして楽しんでいるのだとしたら、また君達も上の次元の人達のコンテンツかもしれないっていう危機感を持った方がいいよ? もしかしたら、君達の失敗を「ざまぁ」と笑っている人達が、君達よりも上の次元にいるかもしれないしね」

「えっと……?」


 どういう意味なのか、全然分からない。

 おじさんは、私に視線を合わせる。


「ああ。これも君に言ったんじゃないよ。なんか悔しいからね。思わず口に出してしまったよ。っと、今度は君にきたいんだけどさ」

「何?」

「もし、誰かに操られているとしたら、君はどうする?」

「って、実際おじさんに操れられてたじゃん!」

「いや、そうじゃなくてね。じゃあこうこう。君が漫画の登場人物だとして、作者から死ぬキャラとして書かれる予定の時。君だったらどうする?」


 何その質問!?

 でも、面白そうな質問だね!


「そうだね……」


 あれ、難しい!?

 あっ! そうだ!


「作者の気が変わるのを、祈る……かな?」


 実際これしかできなさそうだしね。

 でも、実際死ぬ予定のキャラでも予定が変わって死ななくなった漫画のキャラもいるし、これが一番だと思う。まぁ、自覚できないなら祈ることもできなさそうだけど。


「なるほど! それは面白い! ナイスな考えだね!」


 おじさんは機嫌が良くなったのか、最初みたいに笑顔で「うんうん」と頷いた。


「でも、それって、結局は上の次元の人達にとって、僕達はこまの1つってことだよね……」


 おじさんは、がっくりと肩を落とした。

 なんでおじさんがショックを受けるの? おじさんは、私達より上の次元にいるんでしょ?


 よく分からないけど……あっ、そうだ!


「我思う、ゆえに我ありというのは、仮にこの世界が本当は存在しないとしても、それを考えている自分の意識の存在だけは否定できないということなんですね! ここテストに出ます!」


 先生が言っていたことを、おじさんにそのまま言った。


「先生が言ってた! 例え誰かに操られているとしても、自分の視点だけは嘘じゃない! そういうことだよね?」

「ふっ……ああ! 確かにそうかもね!」


 おじさんは、困ったような表情で軽く笑った。


「じゃあ、そろそろお別れかな? ストレスを溜めたくないしね。いつ君に攻撃された怒りが爆発するか分からないからね」


 そ、それは怖いね。


「あ!? そういえば、私これからどうなるの!?」

「ダンジョンが消えた世界で生きていくって、ことになるかな。コアも消えちゃったしね。君がダンジョン探索を始めた日、学校で君は目覚める。勿論、君以外の人間の記憶は全部消えてる。というか、その日以来の出来事が全部無かったことにもなる。僕が消した人も勿論無事だよ」


 無かったことって……そんなのあり!?


「色々ビックリだよ!! っていうか、どうして私だけは、記憶が消えないの!?」

「おじさん空間に居過ぎたからだね。じゃあね!」

「え!? ちょっと!! というかおじさんとはもう会えないの!?」


 私達を消そうとしなければ、面白いおじさんだと思ったんだけど……。

 それに、どんな理由があろうとも、コアを倒せたのもおじさんのおかげだ。


「もう会わないよ。ログアウトしたと同時にこの世界の時間を加速させるように今、設定したからね。きっと僕がここからログアウトした数秒後には、この世界は何億年かが経過しているだろう」

「どうしてそんなことを……? 私達を観察して楽しむのはもうしないの?」

「うん。もうやめだ。僕が漫画のキャラの可能性があるんだとしたら、君達にちょっかいを出すのは、得策じゃないからね。まぁ、寿命まで幸せに生きるといいよ。じゃあね!」


 と、言ったおじさんだったけど。


「最後に1ついておいていいかな?」

「何を?」

「簡単な質問なんだけど。君はダンジョン探索を始めてから出会った人間の中で、痛い目を見た方がいいと感じた人間は、いる?」

「痛い目って……いないよ! おじさんも、悪いことしたけど、色々手伝ってくれたし!」

「なるほど……ね」

「どうしてそういうことを訊いたの? 私がおじさんを恨んでいるとでも思っていたの?」

「いや、違う。ま、これからもその調子で生きていくといいさ。じゃあ、今度こそ! さようなら! 一応僕の友達、ルカちゃん!」


 おじさんはニコリと笑うと、透明なエレベーターで上に登っていった。





















「よお! また同じクラスになったな! 席も近いし、ラッキーだな!」

「え!?」

「お、おい! どうした急に!?」


 気が付くと、私は中学校にいた。

 スマホを確認する。


 今は……2023年の4月だ! 本当に戻ってる!? というか、なんか体も少しというか、1年くらい若返った?


「今日って始業式だよね?」

「ああ! って、忘れちまったのか?」

「う、うん。ちょっとボケちゃって、えへへへ……。 って、あれ!? ココロちゃん、その怪我大丈夫!?」


 右足が包帯でグルグル巻きだ!

 よく見たら、松葉杖も……。


「ああ。ちょっと春休み中、捻挫ねんざしちまってな! ま、気にするな! ちょっと転んだだけだ!」

「転んで怪我したんだ!?」

「いやまぁ、そういう時もあるだろ! そんなに驚くなよ!」


 ココロちゃんが転んで捻挫なんて、今までなかったから、ちょっとビックリした。

 もしかして、【軸】としておじさんが設定した能力も消えたのかもしれない。


「私……あんまり友達いないんだったね」


 私は、自分のスマホの連絡先を見て言った。


「ルカって、友達の数を気にするタイプだったか?」

「ううん。数じゃなくて……」


 ソラちゃんや、師匠の連絡先がない。

 ミモリちゃん達の連絡先も、勿論ない。


 レインちゃんの連絡先すらもない。


「そういえば、ルカってネトゲはするか? まぁ、ネトゲっつっても、家庭用ゲーム機のオンライン対戦なんだけどよ」


 ネトゲ?


「今週の土曜日、予定空いてたらやらないか? あ、無理だったら全然断ってくれて構わないぜ!」

「どうして土曜日?」

「その日が、ゲーム内で皆が集合できる日だったんだ! いや、私がオンラインやってたら、たまたま組み合わさったチームの皆で意気投合してよ! 仲良くなったんだが、皆癖が強くてな! 勿論、いい人なんだけど! こう、私だけだとエネルギー負けしちまいそうでさ! それもあって、ルカを呼びたくてな!」

「ええ!? 私そんなにエネルギーないよ!?」

「そうか?」

「うん。ちなみに、どんな人達が来るの?」

「ゲームが下手過ぎる登録者70万人超えのVTuberとか、犬飼ってる錬金術師……あっ! 錬金術師って言うのは、ゲーム内の職業な! 犬はリアルで飼ってるみたいだけどな! 後は自称忍者だな! 忍者も犬を飼ってるらしい。後は自称精霊使い? がいたな! 濃いメンツで中々に楽しいぜ!」


 え!?


「行く!! ……行くよ!!」

「お、おい! なんで涙目になってんだよ! しかも、テンション上がり過ぎだ! でも、皆ルカと会いたがってたから、泣くほど嬉しいんだったら皆も喜ぶと思うぞ!」

「え? そうなの?」

「ああ。友達がいるって言ったら、皆ルカに興味津々でよ! 不思議だよな! ま、私もなぜか分からないけど、皆に不思議と興味がわいたし……本当に、不思議だな!」


 本当に運命って言うのは、よく出来てるね!


「そうと決まれば、職業は決めておいた方がいいぜ! ほら、こんなに沢山あるんだ!」


 ココロちゃんは、私にスマホ画面を見せてきた。


「うわっ! 迷う! 怪獣か魔法少女……どっちにしよう?」

「いや、その2択かよ! 絞るの早いな!」



「じゃあ、またな!」

「うん!」


 ココロちゃんは捻挫しているってこともあって、家の人が迎えに来ていた。

 私はココロちゃんを見送った後、視線を感じて上を向いた。


 もしかしておじさん? いや、おじさんはもう会わないって言ってた。


 ということは……。


「精霊さん?」


 私の額に、桜の花びらが落ちてきた。


 今も精霊さんの声は聴こえない。


 でも、なんとなく言いたいことは分かった。


 その視線は、ずっと遠くに離れていっている気がした。


 本当になんとなくだけど、もう会えない気がしてきた。


「そっか、そうだよね……。精霊さんも忙しいもんね!」


 精霊さんがいなければ、私は今ここにいなかった。


 私は精霊さんに守られてきた。


 でも、もし精霊さんが遠くに行っちゃうんだとしたら、もう精霊さんは私を守っては、くれないのだろう。


 今まで精霊さんに守られてきたと分かった今、それはとても怖いことだ。


 もしかしたら、明日死ぬかもしれない。


 私を守る不思議な力が無くなるっていうのは、きっとそういうことだ。


 けど、自立をすると思えば、前向きに考えられることもできるかもしれない。


 例えば、大人になると自分で色々解決しなくちゃいけないけど、その代わりに自由が与えられる……らしい。それと同じで、精霊さんが私の視点を外れることによって、私もまた今までには無かった、様々な可能性を見出みいだせる。そんな気もする。


「精霊さん! 今まで、ありがとう! 助けてくれてありがとう!!」


 私は叫んだ。


「私精霊さんのこと、絶対忘れないから! だから、もしなんか辛いことがあったら、私の駄目な姿でも思い出して、元気出して欲しいな! ……って、うわっ!」


 風が、ぶわっと吹いた。


 あんまり自虐するなってことかな?


「うん! 分かったよ!」


 私は「ふふっ」と笑った。


「じゃあね! 元気で!!」




















 人は皆、自分だけの視点を持っている。


 そして、自分の視点を誰かに見せることは、基本的には不可能だ。


 だから、私が今こうやって考えているんだってことを、誰にも証明することはできない。


 けど、私のこの視点が存在している以上、私は、どこかの次元には確かに存在している。


 これから先、誰かが私のことを見ていないとしても、私が主人公の人生ストーリーは続いていく。


 私は空に向かって、優しく、そして、同時に元気に笑った。

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スキル『魔法少女』を手に入れた少女、変身したらドラゴンになった~唯一無二のドラゴン魔法少女は、ダンジョン探索者達の間でバズり、破壊龍ちゃんと呼ばれる。有名になったので、配信も始めた~ 琴珠 @kotodama22

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