36.ここは私に任せて先に行け!

「だいぶ食われたな」

「やばいっすよ……」


 今私達は、黒くなったティラノサウルス、通称デスティラノから離れた所に隠れている。


 最初は私の魔法で焼き払おうと考えたけど、上手くはいかなかった。

 魔法で、少量のダメージしか与えられなかったんだ。


 どうして? そう思ったけど、その答えは後々分かった。

 デスティラノは、人を食べて大きくなっている。


 そしてそれだけじゃない、能力もドンドン強くなっていっている。

 だから、おそらく魔法が効きにくくなったのだと、ソラちゃんは分析した。


 そして、私と試合をした2人の姿が見当たらない。

 つまり、2人の装備の効果を取り込んだ可能性がある。


 実際に、剣での攻撃は魔法よりも通じたから、その可能性は高いと思う。

 だけど、力が足らず、挑んだ剣士のほとんどは食べられてしまった。


 そして、魔法を完全無効にしていない代わりに、剣の攻撃で3000倍のダメージを食らうデメリットも無効にしているようだった。

 とにかく、私達には力が足りなかった。


 今までだったら、破壊力でどうにかできていたんだけど、今回は私の力でも解決できないでいた。


「せめて、私が全盛期の力を出せれば……」


 師匠はブランクがあることを、悔しがっていた。

 今の師匠はブランクにより、10分の1くらいの力しか出せないらしい。


「師匠が気にすることじゃないっすよ! それに私だって悔しいっす!」


 ココロちゃんも悔しそうだ。


「もう1回、私が行きます!」

「駄目だ、お前を危険な目には合わせられない」


 確かに、師匠の言葉はありがたかった。

 でもさ……。


「倒せたら、凄く楽しいと思わない!?」

「なっ……!?」


 そう、もし倒せたら、もっと人気になれる!

 それに、苦労の末に倒すって、きっと熱いに決まってる!


「師匠もそう思わない?」

「思わない。だが……ここで隠れていてもいずれは食われのだろうな」


 師匠が立ち上がった。


「仕方ない。私が行くか。ダンジョンに2度と入れなくなるだけで死ぬ訳じゃない。死ぬ覚悟で奴を倒す。折角だから楽しんでやる」

「だったら私も行くっす! 【剣聖】の実力、見せてやるっす!」

「で、でしたら私も! なにかお手伝いできるかもしれません!」


 皆……!!

 凄いやる気だね!!


「じゃあ、皆で行こうか! いざ、デスティラノの元へ!!」


 私達4人は、中層のデスティラノのいた場所へと向かった。

 けど、そこにデスティラノは居なかった。


「どういうことですかね……?」

「あれを見て!」


 下層への穴が新たにできていた。

 あの穴の大きさからして、前よりもデスティラノの体は大きくなっているに違いないね!


「下層は本当にあったんすね!」

「みたいだな。敵が更に手強くなっているのは、覚悟した方がいいがな」


 そうだね。私も変身しておこう。

 そして、私達が下層へ進むと、モンスターが居なかった。


「全部、デスティラノが食べちゃったんですかね……」


 所々が荒れていることから、ソラちゃんの考えは正しいのかもしれない。


「スラアアアアアアッ!!」


 って、思ったら、目つきの悪いスライムがいた!

 このスライムは!?


「そのスライムはモンスターイーターってスライムです! 人は襲わないハズなんですけど……」


 やっぱり、この姿だと、モンスターに間違われちゃうみたいだね。

 私はマジカル☆ファイアを放って、モンスターイーターを倒した。


『なんか、私モンスター扱いされちゃう時があるみたい。この前なんて、対モンスター専用罠に引っかかっちゃったしさ!』

「そ、そうなんですか?」


 この前、ココロちゃんと行った時にね。


「面白いですね!」

『なにが!?』


 でも、ソラちゃんが楽しそうだし、いいか!


「おい、お前ら、じっとしてろ……」


 師匠がなんだかシリアスな表情で動きを止めた。


「カブトムシの羽ばたく音だ。それもデカイ」


 師匠の言っていたことは当たっていた。


「ヘラアアアアアアアアア!!」


 私達の体より大きなヘラクレスオオカブトが、目の前に現れ、立ち塞がった。


 どうやら、飛んできたみたいだね。


「ヘラクレスオオカブト……ですが、こんなモンスター今まで見たことありません!」

『今までこういうモンスターいなかったの?』

「ヘラクレスオオカブトでしたらいました。けど、このヘラクレスは羽が白いです!」

『ってことは強いのかな?』


 私はマジカル☆ファイアを使用し、黒い火球を放つが、すぐにそのツノで火球を天に吹っ飛ばしてしまった。


「な、なんだよこいつ! ルカのマジカル☆ファイアをあんなに簡単に……! こうなったら……皆、ここは私に任せて、先に行け!」


 ココロちゃんがそう言って、刀を構えた。

 ちょっと! 無茶し過ぎじゃない!?


「駄目だ」

「師匠!?」


 師匠が2本の剣を構えて、ココロちゃんの前に立つ。


「こいつの相手は私がする」

「師匠!? でもブランクが……」


「それでも、お前よりは強い。それに、建前的には子供を守るのが大人の役目だからな。こいつを倒してすぐに追い付く。それまで、これ以上デスティラノが成長しないようにしておいてくれ」


「師匠……って建前っすか!?」


「ふっ、まぁな! 私はこいつと戦いたい。なに、安心しろ、約20年前、私はこいつに勝った」

「そうなんすか!? って、20年前ってダンジョンないっすよね?」


「ゲーセンのゲームだ」

「ゲーム!? 大丈夫なんすか!?」


「ああ。安心しろ、私はこう見えても当時そのゲームでは中々に強かった。さぁ、お前達は先に行け!!」


 師匠がニヤリとする。

 どこか楽しそうに見えるし、強がりでは無さそうだね。


「ルカ、ソラ! ここは師匠に任せて先に行くぞ!!」

「師匠! 頑張ってね!!」

「か、鏡さん!! ご無事で……!!」

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