第4話 魔女の森へ
呻き声が口から出た。身体が震えてる。怖い。
僕らの目の前に現れたのは、一言で表すと大きな狼だった。
「グルルルルルゥ……」
たぶん、5、6メートルはある。これが、いわゆる魔物ってやつなんだ。
話はラルクたちに聞いていたけど、遭遇するのは始めてだった。
「ガルルルルゥ!」
巨大な狼が、僕らに飛びかかってくる。
「ひいいいいっ!?」
さっきは威勢のよかったルイスが一目散に逃げ出した。
「まったく、頼りにならない野郎だよ!」
スカーレットが斧を振って、飛びかかってきた狼の牙を受け止める。
「今だよ、色男!」
「わかってる!」
ラルクが駆け出し、素早い動きで狼の首を切り落とす。
「す、すごい……」
あっという間に、大きな狼を倒してしまった。
「あんた、なかなかやるねぇ」
「そっちもな」
「ふふ、どうも……それに比べてルイス!」
「へ、へへへ……」
バツが悪そうに、ルイスはスカーレットの元に歩いてくる。
彼女は彼の頭に、ゲンコツをお見舞いした。
「この役立たず!」
「すまんすまん、でもオレは前衛向きじゃねえからよぉ……」
「だからって逃げ出すやつがあるかい!?」
口論をするふたりを傍目に、ラルクが僕の肩に手を置く。
「少年、大丈夫か?」
「う、うん……ラルク、強いんだね」
「大したことじゃない」
「いやいや、すごいって!」
はっきり言って、僕はラルクに憧れを抱(いだ)き始めていた。
それから、山を下りた僕らは近くの村で宿を取ることになった。
夜、部屋で眠っていると――
「うーん……?」
外からの物音に目が覚めた。ブンブンと、なにかを振るような音だ。
ふと隣を見ると、ラルクの姿が寝床になかった。
「ラルク……?」
僕はベッドから這い出て、宿の外に。
音のするほうに行ってみると……
「ふっ! ふっ!」
剣を素振りするラルクの姿があった。
「誰だ」
唐突に、ラルクがこっちを振り向く。
「あ、ごめん……」
「少年か……どうした?」
「いや、なんか音がしたから……」
「すまない、起こしてしまったのか」
謝りながら、ラルクは剣を鞘に納める。
「あれ、訓練やめちゃうの?」
「別に訓練じゃないさ。眠れなくて、少し身体を動かしていただけだ」
「そっか……あのさラルク」
僕は魔物と遭遇してから考えていたことを口にした。
「僕に、戦い方を教えてくれない?」
「なに?」
ラルクが目を丸くする。
「急にどうしたんだ」
「いや、なんていうか……僕も自分で身を守るぐらいはしたいなって」
「そうか……少年、剣を使ったことは?」
「まったくない」
きっぱりと告げる僕に、ラルクは苦笑を浮かべる。
「わかった……まずは基礎から教える」
「うん、よろしくお願いします!」
旅は続く。僕はラルクに剣の扱いを少しずつ教えてもらっていた。
何度か魔物と遭遇したけど、訓練の成果を試す機会はなかった。
ラルクとスカーレットが倒してくれるからだ。ふたりとも、すごく強い。
そうして、城を旅立ってから一週間と少し。
「ここが、魔女のいる森……」
濃い瘴気が渦巻く森を目にしながら、僕はつぶやく。
「重苦しい雰囲気だねぇ……」
「森なんて名ばかりじゃねえか」
ルイスの言う通り、瘴気のせいか木々はすっかり枯れ果ててる。
「みんな、僕から離れないでね」
漂う空気が紫色に見える。きっと、瘴気の毒がすごく強いんだ。
「勇者サマの『恩恵』かい」
「もし小僧から離れたら、オレたちもああなるのかね」
身震いしながら、ルイスが近くを指さす。
そこには、腐敗した魔物の死骸が横たわっていた。
「ああはなりたくないね、アタシは」
「お互い気をつけるとしよう」
ラルクの言葉に全員がうなずく。そして僕らは森の探索を開始した。
森を進む。そして僕らは『それ』と遭遇した。
『それ』は渦を巻く瘴気に囲まれた、ひとりの少女だった。
「この子は……この子が魔女、なの?」
見た目は、僕と同い年ぐらいにしか見えない。
青っぽくて長い髪に、ちょっと目のやり場に困る薄手の衣装。
とても綺麗な女の子だった。
「眠ってる、のかな……?」
瞳を閉じた女の子の全身は淡く光っていて、その身体から紫の霧みたいなものが吹き出ているように見える。たぶん、これが瘴気だ。
「間違いないねえ、こいつが魔女だよ!」
「よし、さっさとやっちまうぞ!」
スカーレットとルイスが声を上げる。
本当に、この女の子を退治……殺すっていうのか?
僕は、そんなの……
ルイスとスカーレットのふたりが武器を手に、魔女へと足を踏み出す。
そのとき、ゆっくりと魔女の目が開かれた――
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