第3話 旅立ち

 僕は女王から装備……剣と軽めの鎧、この世界の衣服をもらった。

 身支度を整えてから謁見の間にもどると、そこには……


「ハルト、紹介します。こちらの三名が、あなたの旅に同行する傭兵たちです」


 玉座に座る女王の前に、三人の男女がいた。

 大柄で眼帯をした赤髪の女の人、小柄で茶髪の男性。正直言って、このふたりは少し雰囲気が怖い。女の人が背中に大きな斧を背負っていて、男の人は腰に短剣を差していた。


「アタシはスカーレット。よろしくね、坊や」

「オレはルイスだ、へへ……ま、仲良くやろうぜ」

「えっと、僕はハルトです。よろしくお願いします」


 もうひとりの男の人に目を向ける。


「ふわぁ……」


 その人は、大きな欠伸をしていた。

 背が高くて、髪の色は灰色。やたらと整った顔立ちをした男の人だった。

 腰には立派な剣。僕と似たような装備だけど、体格もよくて、強そう。

 でも不思議と、他のふたりみたいに怖そうな感じはしない。


「ねえ色男、あんた名前は?」


 スカーレットが声をかけた。


「俺はラルク、まあ……よろしく」


 男の人……ラルクはそっけなく答える。


「ちっ、愛想のない野郎だぜ」


 そう言って、ルイスが顔をしかめる。

 ケンカにならないかとヒヤヒヤしたけど、ラルクは気にしていないみたいだった。


「あ、あの……ラルクさんも、よろしくお願いします」

「ん、ああ……よろしくな」


 僕に対しても、そっけない調子は変わらない。たぶん、こういう人なんだろう。


「さて、お互いの自己紹介も済みましたね」


 女王が口を開く。


「あなたたち四人には魔女ダエナの討伐に向かってもらいます。

 彼女が潜む森の場所を記した地図を渡しておきましょう」


 女王の合図で、側にいた男の人が僕に地図を持ってきた。


「城を出て、馬で北に五日ほど進めば辿り着けるはずです」


 え、馬? 僕、馬とか乗れないんだけど……大丈夫かな。


「勇者ハルト、そして傭兵のお三方……

 この国の命運は、あなたたちに掛かっています。

 魔女ダエナの討伐……どうか、頼みましたよ」


 女王が告げる。こうして僕と傭兵の三人は旅立つことになった。



 城を出て、町の門へと向かう。

 そこで僕らを待っていたのは、門番と四頭の馬だった。


「女王陛下の命で、人数分の馬を用意した」


 門番の言葉に、スカーレットとルイスは我先にと馬を選ぶ。


「あの、ちょっといいですか?」

「どうしたんだい、坊や?」

「僕、馬に乗ったことなんかなくて……」

「おいおい、本当かよ」


 スカーレットとルイスが呆れたように肩をすくめる。


「しょうがない、少年は俺の後ろに乗るといい」

「いいんですか?」

「ああ、そうするしかないだろ」

「あ、ありがとうございます、ラルクさん」

「ラルクでいい」


 そう言って、ラルクは馬に跨がる。

 僕も続いて、なんとかその後ろに腰を落ち着けた。


「しっかり捕まってろ、振り落とされるなよ――はっ!」


 ラルクが手綱を握り、声を上げる。

 三頭の馬が走り出し、僕たちは魔女の森に向けて出発した。


 旅は思ってたより順調に進んだ。

 傭兵の三人や異世界の風景にも、ほんの少し慣れてきた三日目。

 険しい山道を進んでいる途中、問題は起きた。


「こりゃあ、馬じゃ通れそうにないね」


 やれやれとスカーレットが言う。


「崖崩れか……ついてねえなあ」


 ルイスがぼやく。

 目の前には崩れた岩石が積み重なって、馬が通れないほどに道を塞いでいる。


「徒歩で進むしかないな」


 ラルクが言って、背後の僕に馬から下りるように促す。

 全員が馬を下りて、崩れた岩を登って進むことになった。

 先頭がラルク、真ん中に僕、後ろにスカーレットとルイスという並びで進む。


「はぁ、はぁ……」


 少し登った所で、僕は息切れを起こしていた。これは、かなりきつい。

 背後で、スカーレットとルイスがなにかコソコソ話している。

 このふたりは、旅に出てからずっとこんな調子だ。いまいち気が許せない。


「少年、大丈夫か?」


 先頭を行くラルクが、こちらを振り返った。


「ありがとうラルク、平気だよ」


 スカーレットとルイスと違って、ラルクは好印象しかない。

 ぶっきらぼうだけど、僕に気を遣ってくれる。優しい人だと感じていた。


「無理はするなよ」

「うん」


 それからしばらく後、僕らは瓦礫を越えて道の反対側に出た。


「少し休憩にしよう」

「ああ、大賛成だぜ」

「僕も……」

「なんだい、だらしない連中だねぇ」


 そのとき、近くの茂みでガサガサと音がした。

 瞬間、傭兵たちの顔つきが変わる。


「な、なに……?」

「少年、絶対にそばを離れるなよ」

「やれやれ……なにが出てくるやら」

「へっ、どこからでも来やがれってんだ」


 ラルク、スカーレット、ルイスがそれぞれ武器を抜く。

 それで理解できた。なにか危険が、僕らに迫っているということだ。

 グルルルルルゥ……

 低い唸り声が茂みの奥から聞こえてくる。


「来るぞ」


 ラルクが短く口にしたと同時、茂みから黒く大きな影が飛び出した――

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