第2話 瘴気と恩恵
僕が召喚されたノルデル王国は今、かなりピンチらしい。
【災厄の魔女】ダエナ。
全身から瘴気(しょうき)……有害な毒を含んだ悪い空気を生み出す魔女のせいで、環境が汚染されているとか。
国の兵士や腕利きの傭兵を使って倒そうとしたけど、みんな魔女の元に辿り着く前に瘴気のせいで身体を悪くしてしまって戦う前に負けちゃったそうだ。
そこで女王は、異世界人を召喚することにした。
異世界から呼ばれた人間は『恩恵』という不思議な力を持っている。
魔女に対抗できる『恩恵』を持った異世界人を呼ぶため、女王は召喚を繰り返したとか。
「そしてハルト、ついにあなたが現れてくれたのです」
広間、というか謁見の間っていうのかな……とにかくそこから移動して、僕と女王はお城のバルコニーにいた。
「僕が……その魔女に対抗できる『恩恵』を持ってるんですか?」
「さっき見たでしょう。【聖なる力】……それがあなたの『恩恵』です」
たしか、あらゆる呪いや穢(けが)れを無効化する……だっけ。
「魔女の放つ瘴気は、呪いや穢れといった類(たぐ)いのもの……
つまりハルト、あなたならば魔女の元まで辿り着けるはずです」
「でも、本当にそんな『恩恵』があるかどうか」
僕の言葉に女王は首を横に振った。
「間違いなくあります。ハルト、あなたは今、呼吸がしづらかったりしますか」
「いいえ、まったく……」
「この国は魔女が放つ瘴気のせいで、普段から息苦しさを感じるのです」
見てください、と女王が下を指さす。
そこに広がるのは、ノルデン王国の城下町だった。
「あれは……」
町で暮らす人々の様子が見えた。みんな、口元を布でおおっている。
中には、激しく咳き込んで苦しそうにしている人もいた。
「私(わたくし)も普段は、口を隠して瘴気を吸わないようにしています」
「今は隠してないですけど……平気なんですか」
「ええ、それもあなたに恩恵がある証拠でしょう」
どういう意味だろう。僕は首をかしげる。
「おそらく、あなたの近くにいる者も瘴気の影響を受けなくなるのでしょうね」
「ああ、なるほど……」
「ふふ、ますます理想的な『恩恵』です」
「でも僕に魔女なんて倒せませんよ……」
気の毒だとは思う。けど僕は普通の中学生なんだ。
特殊な能力を持っていても、戦う力なんて持ってない……と思う。
他にもなにか能力を授かってたら、話は別だろうけど。
「安心してください。あなたさえいれば瘴気を無効化できる……
ならば簡単です。腕の立つ傭兵を何人か用意します。
あなたは傭兵と一緒に、魔女退治へ向かってくれればいい」
つまり実際に魔女を倒すのは、傭兵の仕事ってわけだ。
「ハルト、引き受けてくれますね?」
女王が僕の目をじっと見ながら言う。
夢なら覚めてほしい。でもそんな気配はない。
大掛かりなドッキリなら……さっさとネタばらしをしてくれと思う。
僕はもう一度、町の人たちに目を向けた。
みんな、すごく辛そうだ。町の雰囲気は暗い。瘴気のせいなのか、空も灰色で、どんよりしてる。遠くに見える草木も、枯れ果てていた。
夢だろうがドッキリだろうが、自分になにかできるなら……
放っておくのはよくない。きっと後で後悔する……そんな気がした。
「あの……ひとつ確認していいですか」
「なんでしょう?」
「魔女退治が終わったら……ちゃんと僕を元の世界に帰してくれますか?」
「当たり前です。事が片付いたら、あなたを元の世界に帰すと約束しましょう」
「わかりました……魔女退治、やります。僕の力が役に立つなら」
僕の返答に、女王は満足そうにうなずいた。
「ありがとう、心の底から感謝しますハルト……いいえ、勇者ハルト」
勇者っていう響きは、なんだか少し恥ずかしい。
「……あ、そうだ、もうひとつ聞いていいですか?」
「あら、なんです?」
「僕以外に召喚された人たちって、どうなったんです?」
「それは……もちろん元の世界に帰ってもらいしたよ。
望む『恩恵』を持っていませんでしたから……それがなにか?」
「いえ、ちょっと気になっただけです」
「そう……ではさっそくですけど、旅立ちの準備をしましょう」
女王は早足で、お城の中にもどる。僕も慌ててその後を追った。
なんだか話題を逸らしたいような雰囲気を感じたけど……気のせいだろうか。
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