魔女と少年

景山千博とたぷねこ

第1話 召喚

「え、なんだここ……? さっきまで部屋にいたのに……」


 そこは薄暗くて、少し肌寒い場所だった。

 壁も床も天井も、全部が石でできている。床にはチョークかなにか……とにかく白い線で不思議な模様が描かれていた。なんだか、魔法陣みたいな感じだ。


「召喚に成功したようですね」

「誰!?」


 誰かの声に驚いて、背後を振り向く。


「ごきげんよう、少年」


 そこに、女の人が立っていた。

 すらりと背が高くて、今までに見たことがないほど綺麗な人だった。

 豪華な白いドレスを着ていて、右手には長い金色の杖を持っている。

髪は銀色で、頭の上に金色の冠がのっかっていた。

 ちょうどさっきまで遊んでたゲームに出てきそうな、女王さまみたい。


「あの……あなたは誰ですか? ここはどこなんです?」

「私(わたくし)は、このノルデン王国の女王。少年、落ち着いて聞いてください」

「は、はい……?」

「私があなたを、この世界に召喚したのです」


 召喚……この人はなにを言っているんだ?


「そうか……これは夢なんだ」


 僕はきっとゲームをやりながら寝てしまったに違いない。


「ふふふ」と、女王が真っ赤な唇を吊り上げて笑う。

「異世界人は皆、同じような反応をしますね」

「い、異世界人って、僕のことですか」

「詳しい事情は場所を変えて話しましょう。少年……名前はなんと?」

「岡崎陽人(おかざきはると)ですけど……」


 名前を言うと女王はニッコリと微笑み、僕の背中にそっと手を添えた。


「ではハルト、こちらへ……」


 女王に促されて、足を動かす。

 なにがなんだかわからないけど……とにかく今は着いていくしかなさそうだった。



 女王に案内されて、広い場所に通された。

 貴族みたいな格好をした人たちと、鎧を着た兵士がいる。

 みんなが僕に注目しているようだ。気分が落ち着かない。

 床に敷かれた絨毯の上を早足で歩いて、女王は広間の奥にある豪華な椅子に座った。

 広間にいた人たちは、彼女に深々と頭を下げている。


「あの人、本当に女王さまなんだ……」


 入口で立っている僕に、女王が椅子の上から手招きする。

 おずおずと歩きながら、彼女の前まで進んだ。

 すると女王は、手に持った杖の先をこちらに向けてきた。


「えっ……」


 咄嗟に身構えると、女王がやんわりと微笑む。


「ハルト、動かないでください」


 いや、そんなこと言われても怖いんですけど……

 杖の先が白く光る。すると、ゲーム画面のようなものが出てきた。


 ハルト・オカザキ 【恩恵:聖なる力】……あらゆる呪いや穢(けが)れを無効化する


「な、なんだこれ……」


 戸惑う僕をよそに、広間にいる人たちは「おお」「ついに」「これぞまさしく」と、なんだか盛り上がっているみたいだ。


「ふふふ、ハルト……あなたこそ私が……いいえ、この国が求めていた勇者」

「ゆ、勇者って……なに言ってるんですか?」


 ステータスみたいな文字に、勇者とか。本当にゲームみたいだ。

 これは夢、じゃなきゃドッキリかなにかだ。テレビで見るような、大掛かりなやつ。


「勇者ハルト、あなたに頼みがあります」

「なんですか、魔王でも退治してほしいんですか」


 勇者といえば、そんな感じが定番だろうし。


「あら、話が早くて助かりますね」

「えっ……本気で魔王退治?」

「ええそうです。ただし退治してほしいのは……悪い魔女ですけれど」

「魔女?」

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