第17話 滅亡の日 踏みにじられた ブドウの実

 ようやくたどり着いたあずさのいる街。

 富士山の近く。ブドウの美味しいことで有名な場所だが、せっかくのブドウ園も、パニックになった人たちによって破壊されてしまっている。


 ここも俺の住んでいた街と同じで、荒廃している。

 

 街のいたるところで行われている破壊と暴力。

 道端に倒れて血まみれのおっさん。

 ガラスが割られて強奪に合った商店。


 ツナ缶一個を巡って殴り合っている大人を見た。「死にたくねぇ!」と絶叫して号泣している大人を見た。

 彗星衝突の予定日である今日。

 混乱はピークに達している。


 空には、もはや昼間だからと遠慮することなく彗星は輝き、天を支配している。


 ようやくたどり着いたあずさの家。

 インターフォンを押せば、復旧した電気の賜物で、普段と変わらない音が俺の到着をあずさに知らせてくれる。


「よく来たね。こっちへ!」


 応対して招き入れてくれたのは、あずさのお父さん。

 家の中に入れば、あずさとあずさのお母さんが抱き合って座っている。

 

克弥君かつやくん。本当に来てくれたんだ!」


 あずさが涙を流しながら笑っている。


「うん。会いたかったから」


 あずさの両親の前だって、もう構わない。

 だって、明け方には、みんな消えてしまうかもしれない状況だ。


「私の部屋で話そうか」


 あずさに招かれて、二階のあずさの部屋へ。

 女の子の部屋に入るというドキドキは、こんな時でも変わらない。


 壁には、あずさの制服がかけられて、机の上には、参考書が並んでいる。

 あずさは、看護師になりたいって言っていたっけ。

 頑張って勉強していたんだろうな……。

 

 そんな俺たちの明日への夢は、彗星が打ち砕いてしまったが。

 

 




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