第196話 旅望 -ティラミス1-

昼食を食べ終わって母さんたちは帰って行った。

僕らは、着替えをしてからリビングで寛いでいる。

今日も、サブスクで映画を観ることにした。

明花は、僕の肩に寄りかかってきている。


「しばらく、お家でのんびりだね」

「確かに、でもどうしようね」

「うん、でも…これ」


明花は、僕にスマホの画面を見せてくる。

そこには、美加さんからのメッセージが届いていた。


美加『帰ってこないけどどうしたの?』


そう書かれたメッセージだった。


「どうしたらいいかな?」

「うーん、謹慎になっちゃったとかどう?」

「あ、確かに」

「たぶん、まだ明花が部活を辞めたことも知らないと思うから」

「うん、尚弥に聞きながら送ってもいい?」

「もちろん」


うまく立ち回らないとな。

多分、もう母さんは動き始めてるし。

さっきの電話が、それだろうし。

多分、弁護士を通してるだろうな。

迷惑防止条例違反や肖像権侵害、名誉棄損あたりかなぁ。


「母さんたちが、本気になってるからかなり大変なことになりそうだけどね」

「それは確かにそうだよね…今日の写真さえなければまだ穏便に済ませられたのにね」

「あはは、そうだね。馬鹿なことをしたものだよね。

あ、ティラミスそろそろいいかも」

「ホント!食べる食べる」


僕は、ソファを立ち上がる。

そして、キッチンにある冷蔵庫へと向かった。

冷蔵庫のドアを開ける。

目的の物は、中段に入れてある。

ジップロックコンテナに入れて冷やしてある。

ティラミスを作ったのは、元気づける意味合いがあった。

でも、このが意味合いが色々あるんだけど…今回は普通の意味合いだ。

ティラミスは、イタリア語で『私を引っ張り上げて』と言う意味がある。

この言葉から、『気持ちを引っ張り上げる、元気付ける』と意味になるんだって。

ちなみに、バレンタインに本命の相手に送るプレゼントとして用いられることもあるみたいだ。

『私の気持ちに気付いてほしい』という願いを込めるそうだ。

ちなみに、色んな種類のティラミスを作っている。


「ごめん、明花。どれがいい?」

「どれ?」

「あ、ごめんごめん。ティラミスなんだけどいろんな種類作ってあるんだよ」

「ちょっと待って~」


明花は、ゆっくり歩いてくる。

僕は、彼女を迎えに行く。


「えへへ、ありがとう。尚弥」

「ううん、気にしないで」


肩を貸し、冷蔵庫まで歩く。

ゆっくりゆっくり歩いていく。

やがて、冷蔵庫まで辿り着くと明花はドアを開ける。

みるみる彼女の顔が変わっていく。

もう、だらしないほどに緩み切った笑顔に。


「フルーツのティラミスだぁ。こんなのあるの!」

「うん、さっぱりして美味しいと思うよ」


冷蔵庫にあるティラミスは、定番のティラミスにイチゴ、オレンジ、バナナ、ブルーベリーといろいろ作った。

イチゴとバナナには、チョコレートを掛けてある。

明花は、うーんうーん唸っている。


「どうしよう」


そうしていると、ビービーと冷蔵庫から機械音が鳴り出す。

開けすぎたらしい。

僕は、一度ドアを閉じる。


「もぅ、尚弥が悪い」

「ええ、僕の所為!?」

「うん、尚弥のご飯が美味しいから悩んじゃうよ」


確かに、それは僕の所為だな。

でも、お菓子食べたいって言ったのは明花のはずなんだけどなぁ。



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