第195話 旅望 -ミルクティー2-

うん、甘い。

砂糖入れ過ぎたかな。


「それはそうと、お前たちはいつもそうなのか?」


先生が、僕と明花を見てそう言った。

椅子は全部で4席。

僕の膝の上に明花が座っている。


「まあ、そうですね」

「そうか…あまっ」


先生は、ミルクティーを一口飲んでそう漏らした。

ただ、『あまっ』の部分だけ僕らの方を見ている気がした。


「如月はいま謹慎中だ…まあ新藤は正当防衛と言うことにしといた。

図書委員が現場を見ていたからな」


ああ、それで最近見なかったのか。

でも、謹慎だとすると帰ってくるのか。

それは、うんざりするな。


「尚弥。ティラミスも欲しいなぁ」

「ん?ああ、昨日仕込んだやつか…もうちょっと冷やしたいかな。

夕飯くらいには食べれるよ」

「じゃあ、我慢する」


僕は、明花の頭を撫でる。

「えらいえらい」と言いながら。


「尚弥くん、すっかり明花の扱いに慣れたのね」

「まあそうですね。でも、これからは気をつけないと…食事制限しなきゃ」

「え!」

「栄養バランスを考えないとな」

「そうね、いままで激しい運動していたから…足首以外は元気なわけだし運動はした方がいいわね。

バランスボールとかおすすめよ。

もちろん、尚弥は介助してあげてね」


確かに、足を使わない運動をしておけばいいのか。

過度にならない運動は、やっぱり必要だよな。

僕は、明花の頭を撫でながら考えた。


「話し戻してもいいか?」

「あ、すいません」


そうしていると、母さんのスマホが鳴る。

メッセージだったようで、しばらくディスプレイを眺めていた。


「ちょうどさっき、和希さんに見てもらっていた監視カメラの映像ですが」


そう言って、母さんがスマホの画面を僕らに見えれるように翳す。

写真が撮られた時間帯。

マンション入り口の奥に人影があった。


「風見だな」

「美加ですね」

「美加さんですね」

「美加ちゃんね」


それぞれが、人影の正体を口にした。

全員一致で『風見 美加』だった。

まずは、盗撮犯はこれで判明。


「前回の事もあってセキュリティをアップしてよかったわ」

「確かにね」

「とりあえず、マッスルハーレーの社長として動こうかしら」

「え?マッスルハーレー!」


先生は、驚いていた。

もしかして、知らなかったのかな?


「先生もしかして、ここがどこの社宅か知らなかったんですか?」

「知らないわよ…マッスルハーレー…なの?」

「1階が、レストラン。2階から3階がジムになっています」

「そう、此処に出来るのね。

浜松まで行くのはあれだったけど、磐田に出来るなら入会しようかなぁ」

「お待ちしてます」


母さんが、営業スマイル全開で対応している。

鴨がネギを背負ってきているからか。

教師なら安定しているからなぁ…給料が。

それから、母さんはリビング側へ移動して電話をし始めた。


「匿名で来た投函物。

そのメッセージには確か『複数人の女性を自宅に連れ込んで卑猥なことをしている』だったか」

「教頭がそう言ってましたね。

でも、あそこには明花、母さん、志希さんの写真がありましたね」

「で、あいつがそこまでするのは何のためだ?」

「それには、まだ前提条件が足りないですね」


先生は、まだ知らないことがある。


「あ!そういえば、明花が京都で」

「ううん、あれは美加じゃなかったと思う…たぶん」

「可能性だけど、化ける可能性は?」

「あー、それは…」


化粧とヘアマニキュアで変わる可能性はあるか。


「いろいろ、嘘が多そうね。

大会の日に、隆志たかくんが来ていたんでしょ」

「ああ、風見が走り終わった後に抱き合っていたのはそいつか」

「あれ?先生来てたんですか?」

「ちょうど秋山のスタート位置にいたが…気付いてはいなかったんだな」

「集中してたので…」


もうすぐ昼時か。

あれ?先生、戻らなくていいのかな?


「先生、ぼちぼち昼時ですが…」

「げ、もうそんな時間か…うーん、なにかありそうだな。

2人はしばらくそうだな…怪我の療養をしておいてくれ。

出席日数は調整しておこう。悪いようにはしないからな」


出席日数を調整。

まあ、明花の治療にはちょうどいいかもしれない。


「秋山の怪我は、どんな感じなんだ?」


先生がそう言うとちょうど母さんが戻ってきた。


「その件なら私が。

一応、スポーツドクターもしているので。

左足首は、捻挫なので数日って所です。

右足首は、左足関節外側靭帯損傷…手術もなかったことなので…全治3週間ほどですね。

リハビリもあるので学期末にギリギリと言ったとこでしょうか」

「なるほど、後日またご連絡いたします」


そう言って、先生は帰って行く。

母さんは、階下まで送って行った。

僕は、明花を椅子に座らせて立ち上がる。

そして、キッチンへと向かう。

昼食でも作ろう。

4人分か…パスタでいいかな。

寸胴鍋に水を注ぎ、コンロに掛ける。


「明花、カルボナーラとミートソースどっち?」

「うーん、カルボナーラ」

「オッケー」


僕は、同時に茹で卵も茹でることにした。

鍋に、卵を敷き詰め水を入れてからコンロに掛ける。

寸胴鍋の水が沸いたら、塩とパスタを入れる。


「あら、尚弥くんが作ってくれるの?」

「ええ、僕。レストランでバイトしてるので料理は好きなんですよ」


僕は、玉葱とベーコンを用意した。

玉葱は、皮を剥きスライスする。

ベーコンは、細切りにする。

壁側のコンロも使おうかな。

フライパンに、オリーブオイルを敷いてコンロに置き熱する。

そこに、玉葱とベーコンを炒める。

牛乳を注ぎ、顆粒コンソメとチェダーチーズを加える。

此処で、一度止めておこう。

おっと、茹で卵茹で卵。

半熟がいいから、流しに鍋を移動させ流水に曝す。

フライパンを壁側のコンロからアイランドキッチン側のコンロに移動させる。


「あら、カルボナーラ?」


母さんが、ちょうど戻ってきていてキッチンを覗き込んでいた。

流石に、作っているのは分かるよね。

レシピは、レストランのレシピだし。


「そうだよ」


僕は、お皿を用意する。

パスタの茹で具合を確認してから、お湯を捨てる。

少量の茹で汁をフライパンに入れつつパスタも入れる。

そして、熱を入れてから絡ませていく。

ある程度、絡まったら皿に盛る。

その上から、粉チーズを掛ける。

茹で卵を割って載せる。

大体完成だ。ダイニングに運ぶ。


「明花、出来たよ」

「わぁい、カルボナーラ。

わぁわぁ、半熟卵」


明花が、笑顔でカルボナーラを眺めている。

それをみて、母さんたちが更に笑顔になる。


「ホント、尚弥くんは明花の扱いに慣れているのね」


そう言われた。

まあ、すっかり彼女の事は分かっていると思う。

でも、まだ知らないこともある気がするけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る