第192話 旅望 -砂糖菓子3-
結局、僕らは職員室から追い出された。
とりあえず、教室で待っていろと言われた。
なので、再び明花をお姫様抱っこして教室に向かう。
まあ周りの視線が集まるがもうあんまり気にならなくなった。
「なんだか、滑稽だな」
「うん」
犯人は、僕を退学にでもしたかったんだろう。
明花と住む世界が違うと言いたかったんだろうな。
陸上のスターと一般人と。
「尚弥の事、過小評価しちゃってるから」
「まあね…」
自然と笑みがこぼれて来る。
それは、明花もだった。
やがて、教室へと辿り着いた。
脹脛、重い。
階段は、やっぱり辛いな。
「じゃあ、こっからが本番だね」
「うん…でも、私いつも通りにするだけだよ」
「あはは、お手柔らかに」
僕は、教室へと入る。
クラスメイト達の視線が集まり、ギョッとされる。
「おはよう」
僕らが、声を揃えて挨拶をするが返ってこない。
みんな、絶句しているようだ。
僕は、自身の席に向かう。
「明花、どうする?」
「ん?尚弥の膝の上がいいなぁ」
自宅で話しかけてくるような猫なで声で明花が言う。
なるほど、完全お家モードか。
「明花は、甘えん坊だな」
「だって、尚弥から離れたくないんだもん」
明花は、松葉杖を自身の机に立てかける。
僕は、彼女を抱いたまま椅子へと座る。
結果的に、明花は僕の膝の上に横座りする形になった。
傍から見たらただのバカップルだよなぁ。家でやれというレベルの。
「あの…秋山さん…どうしたの?」
クラスメイトの女子が見かねて話しかけてきた。
えっと、名前…うーん、わからん。
「あはは、一昨日の大会で怪我しちゃって」
「そうなんだ、だから松葉杖なんだね」
たぶん、聞きたいのはそこじゃないと言いたいような視線を僕に向けられた。
えー、僕に聞きたいの?
そうしていると、僕の肩に明花が頬を擦る寄せて来る。
「えっと、新藤くんにどうして…」
「え?彼氏に甘えちゃダメ?」
「ダメじゃないです」
明花の視線に耐えられなくなって女子は逃げて行った。
また、スリスリと頬を擦り合わせて来る。
とても、幸せそうな表情だ。
美加さんは、凄い顔をして明花を見ている。
見ているだけで話しかけて来ない。
表情から見るに、かなり悔しそうだ。
やがて、チャイムがなったが担任は来ない。
まあ、さっきの事で会議が長引いているのだろう。
クラスメイト達は、遠巻きに僕らの事を見ながらひそひそ話している。
まあ、概ね作戦通り。
美加さんが、とても悔しそうだ。
苦虫を嚙み潰したよう表情をしている。
逆に僕は、角砂糖…砂糖菓子を嚙み潰したよう感じだ。
明花の甘い匂いがそばにずっとあるし、彼女が甘えて来るからつい頬を緩んじゃう。
あー、キスしたい。
「それは、お家だけ」
明花が、察したように僕の耳元で囁いた。
彼女の口元は、妖しく笑みを浮かべていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます