第191話 旅望 -砂糖菓子2-
送迎は、志希さんがしてくれることになった。
どうやら、管理人が増えたことで時間が出来たらしい。
管理人は、全部で6人になった。
全員1階を住居にしている。
管理人用の住居は、2人暮らし用で1LDKになっている。
志希さん、和希さん姉弟が一番年の若い管理人である。
「志希さん、ありがとうございます」
「オーナーから頼まれていますので、夕方は15半ごろに迎えに参りますね」
「はい、部活も辞めてしまったのでその時間で大丈夫です。ありがとうございます」
校門前に辿り着いた時、僕らは志希さんと会話をして車を降りる。
僕は、明花をお姫様抱っこする。
松葉杖は、彼女が抱えている。
「尚弥、まずは職員室に寄ってもらっていい?」
「分かったよ」
僕らは、昇降口に向かう。
周りの視線が、僕らに集中する。
「えへへ、恥ずかしいね」
「だな、まあたぶんこれで正解だと思うんだ」
僕の考えた作戦。
それは、イチャイチャを見せつけるというバカップル仕様の作戦だ。
まあ、この副産物がヤバい気がするが。
僕は、昇降口で下足とスリッパとを履き替える。
明花の左足の靴を、スリッパに替える。
「それにしても、尚弥の体幹凄いね。全然ブレない」
「そうかなぁ?明花が軽いからじゃない?」
「もぅ、尚弥ったら…」
耳元なのに、声にならないほどの小さな声で明花が何かを呟いていた。
まあ、いいやと思いつつ僕はそのままお姫様抱っこを続けて職員室へ向かった。
やはり、みんなの視線が痛い。
明花は、お姫様抱っこされながらとても幸せそうに笑う。
たまに、僕の首の後ろへと腕を回して更に密着してくる。
やがて、職員室に辿り着いた僕らは一度明花をゆっくり下ろす。
僕は、彼女の腰に触れ支える。
そして、明花は松葉杖を使って立ち上がる。
「よし、まずは陸上部の顧問のとこ行かなきゃ…付いてきてくれる?」
「もちろんだよ」
頑張る明花を支えよう。
まだまだ、歩くのに慣れていないからその意味でも支えないとな。
「失礼します」
僕らは、声を揃えて入り口の開いたままの職員室に入る。
明花はキョロキョロとする。
職員室の奥の方で、先生たちが溜まって話をしていた。
職員会議の時間ではないので、違う集まりだろう。
その集団から視線が僕らに集まる。
「太平先生は?」
明花が、職員室の先生方に問いかける。
「ん?秋山か」
男性教諭が、人混みの中から出て来る。
マッチョだな。
格好も、ジャージだ。
確か、陸上部の顧問で体育教師だったか。
「どうした、その足」
「靭帯やってしまって、なので陸上部退部します」
「まてまて、退部は…」
「両親からも許可は貰ってます。それに、復帰は無理です」
それを聞いて、先生たちがひそひそと話している。
その視線は、僕の方に向けられている。
「新藤、お前にも話がある」
「はい、なんですか?」
えっと、このバーコード禿は…ああ、教頭か。
なるほど、なんとなく分かって来た。
「お前が、複数人の女性を自宅に連れ込んで卑猥なことをしていると匿名で連絡が来た」
僕は、隣にいる明花を見る。
そして、お互いに笑う。
「匿名ですか。そうですか、ちなみに女性を連れ込むとは心外です。
真剣な交際をしていますよ」
「認めるということか?」
「まあ、概ね認めますね。
ちなみに、証拠ってあったんですか?」
「写真が添付されていた」
そうして、教頭が僕に写真を見せて来る。
写真には、明花の後ろ姿の写真。
志希さんの後ろ姿の写真。
母さんの後ろ姿の写真が撮られていた。
「あの…教頭。僕の事ってどこまで知ってますか?」
「知らないな」
「知らないんですか!そうですか。
まずは、そうですね。まずは、この写真に映ってるのはうちの母です。
こちらは、うちの会社が所有するマンションの管理をしてくれている管理人の1人です。
最後は、一緒に住んでいる明花の写真ですが…何か問題でもあるようなら謹慎でもしましょうか?2人揃って」
教頭は、押し黙る。
なんか言えよ。
隣で、明花がクスクス笑っている。
まあ、教師たちの顔が面白いけどな。
「教頭、よければうちの母と話されますか?」
僕は、ポケットからスマホを出す。
原則的には、スマホの使用は禁止されているが黙認されている。
そして、電話帳から母さんへ電話をかける。
『もしもし、尚弥。どうしたの?』
「ちょっと、色々あってさ。教頭が話したいらしいから変わってもらえる?」
『ええ、分かったわ』
僕は、スマホを教頭に渡す。
そして、何やら話始める。
次第に、教頭の顔色が青くなりペコペコ頭を下げ始める。
後で、スマホ除菌しよう。
教頭の汗とか凄そう。
やがて、教頭にスマホを渡される。
え、直で耳当てたくない…。
僕は、ハンカチ出して拭く。
そして、耳に当てる。
「ああ、母さん。代わったよ」
『ふふ、なんだかおもしろいことになっているようね。
あとで、彩ちゃんと2人で乗り込むことにするから』
「はは、先生たちご愁傷さまだね」
僕が、その言葉を言った瞬間。
教頭が崩れ落ちた。
やがて、通話が終了する。
「尚弥?」
「ああ、あとで母さんと彩夏さんが来るらしい」
「そうなんだ…確かにご愁傷様です」
明花も、笑った。
先生たちはもちろん、犯人もご愁傷様だ。
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