第154話 旅懐 -詳細-
僕の話をするのが割と大変なことに気づいた。
僕の事よりも、明花の事から話す方が簡単かもしれない。
「じゃあ、明花の事情ならどうですか?」
「まあ、それは流石に去年も担当していたからある程度は」
僕は、机の下で明花の手を握る。
彼女もまた握り返してくる。
「えっと、修学旅行の最中に幼馴染みに会いに行ったんです…けど、付き合っていたと思っていたのは私だけでした」
榛村先生は、静かに明花の話を聞いていた。
ただ、先生の手にあるペンは指の上で回っていた。
書く気はないらしい。
「私、それがショックで京都タワーに行ったんです。
そこで、泣きじゃくっている尚弥に出会ったんです」
明花がそう言うと先生の指で回っていたペンがテーブルに落ちる。
そして、そのペンをすぐに手に取った。
「ああ、すまん。つづけてくれ」
「そのあと、尚弥と喫茶店で話をして気分転換に京都市内を観光して、集合場所のホテルに向かったんです」
「補足しておくと、隣のホテルだったんですよ」
「ああ、それは知ってる。二日目は、鹿賀と一緒だったからな。
ホテルに戻ってきたら親御さんから連絡を貰って安心した」
なるほど、先生たちは二日目は一緒だったのか。
あれ?うちの親に連絡したのは確か初日だったような。
「なあ、明花。親に連絡したのは?」
「え?初日、京都を出た時に…」
そう、僕らは初日の夜には親に連絡を入れていた。
少なくとも二日目の朝には、学校には連絡が言っていたはず。
「ふむ、連絡不足がどこかであったのか…なるほど。
なんで、早退したんだ?」
「お互いにクラスメイトから根掘り葉掘り聞かれるのが堪えられなかったからです」
僕がそう言うと明花が頷いていた。
先生が首を傾げる。
「ん?新藤も何かあったのか?というか、なぜ京都タワーで」
「僕も、幼馴染みに捨てられたんですよ…だから、意気投合したんです」
「なるほど…お前たちはそのあとどうしていたんだ?」
明花が、ギュッと僕の手を握っていた。
彼女なりに安心させたかったんだろうな。
「えっと…ごめん、尚弥」
「ああ、いいよ。僕の方が慣れているから。
僕らは、京都を出てからはゆっくり浜松…磐田に戻って来たんです」
「ああ、新藤は元々浜松だったな」
「平日は、ずっと旅行してました」
「え!」
先生が驚きの声を上げた。
二日目に、連絡がきたってことはその後の話はなにもなかったんだろう。
「京都からは、米原、大垣、名古屋でそれぞれ一泊しました」
「なんか、こっちよりも贅沢な修学旅行してないか?」
先生は、少し小さな溜息を吐いた。
まあ、京都縛りよりはいろんなとこに行ったからな。
「「とっても楽しかったです」」
僕らは、声を揃えてそう言っていた。
先生の目つきが怖い。
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