第40話 旅愁2 -高知-

未桜が帰った後の病室はとても静かで少し寂しくなった。

すっかり、彼女がいることが当たり前になっていたのかもしれない。

僕は、その日はほかに何かをする気にもならずに早めに就寝をした。

翌朝、朝食が終わると僕は入院着をから私服へと着替えた。


着替え終わる頃。

コンコンコンコンと病室のドアがノックされた。


「はい、どうぞ」


そう言うと、ドアがガラガラと開けられる。

そこにいたのは、母さんと未桜だった。


「尚弥くん、おはよう」

「おはよう、未桜」

「尚弥、おはよう。私は、手続きだけしてすぐ行くから。

大きな荷物は貰っておくわ」

「母さん、おはよう。じゃあ、このバックだけお願い」


僕は、ベッドに置かれたドラムバックを指差す。


「じゃあ、未桜ちゃん。尚弥のことよろしくね」

「はい、お義母さん。任せてください」


2人がそうやり取りをすると母さんはドラムバックを持って病室を出て行った。

病室には、僕と未桜だけが取り残された。


「じゃあ、僕らも行こうか。

一応、ナースステーションに寄ってから行こう」

「はい・・・」


未桜は、返事をすると僕の腕に抱き着いてきた。

僕の腕に柔らかな感触が宿る。

ちょっと恥ずかしい。

でも、こうして未桜と歩けるのは嬉しかった。


その後、未桜とナースステーションへいって退院の挨拶をしてから病院を後にした。

病院から自宅までは、一度街に出てから乗り換えをしないと帰れない。

バスだとちょっと遠回りになる。

歩くにしても距離はあるから、まあ仕方ない。

病院から出ている送迎のバスに乗る。


「ねえねえ、尚弥くん。

昨日の続き教えて」

「ああ、室戸岬からの話だったね」

「うん、その後は?高知?」

「うん、高知だよ」


車内で僕は再び夏の日を思い出した。



8月4日。

室戸岬の夕陽ヶ丘キャンプ場で、朝を迎えた僕たちはそのあと高知

に向かって走り出した。


この日は、少し曇っていたけど相変わらずに暑い日だった。

距離は、80kmくらい。

前日よりは随分と短い距離だった。

それに、標高も前日に比べれば緩やかだったと思う。

この日は、始まりこそ山の中だったけどほとんどが海沿いを走った。


夜は、久瀬原さんの希望で温泉宿に泊まることになった。

折角の海の幸が美味しいとこまで来たんだから喰いたいとのことだ。

まあ、結局宿泊代は久瀬原さんが出してくれるのだから甘えておくことにした。

本当に、海の幸は美味しいし温泉は疲れが抜けるし凄い充実した日だったと思う。


まあ、久瀬原さんと一緒だと前よりは疲れたって気にはならなかった。

もしかすると、一人旅に気が滅入っていたのかもしれない。

前嶋さんの事で感情的になって、心にゆとりが無くなって。

どこかで吐き出したいのに吐き出せない気持ちをあの人がほぐしてくれたような気がする。

久瀬原さんに出会ってなかったらと思うとある意味でぞっとする。

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