第38話 旅愁2 -鳴門-
四国についてからというか、久瀬原さんと一緒の旅程中は彼がキャンプ場やホテル代を出してくれた。
お金を払おうとしても拒否されてしまった。
久瀬原さんは、かなり人がいい人だった。
そして、凄く器が大きかった。
「でだ、尚弥。身体を鍛える気はないか?
今までの自分が嫌なんだろ」
「強くなりたいです」
「じゃあ、鍛えてやるよ。
だから、宿泊代は払ってやる。
どうせ、疲れて寝ちまうんだ。安全が一番だろ」
その日から、僕は久瀬原さんに合気道を教えてもらった。
下半身の筋トレは自転車でしていたが上半身とのバランスが悪いとのことで夜は上半身の筋トレをメインにしてもらった。
高松から海沿いを走って鳴門へ向かった。
瀬戸大橋を望みながら僕らは走った。
大体、6時間くらいだったかな。
おおよそ、75kmくらいだったと思う。
走れば走るほど近くなっていく。
でも、高低差も四国はあってなかなかに体力は削れていく。
瀬戸内海の島々が見えたりして結構景色は綺麗だったよ。
鳴門では、久瀬原さんがツインの部屋を取ってくれて宿泊したなぁ。
それで、着いてからはプッシュアップっていって大胸筋だけでなく上腕三頭筋と三角筋を鍛えることができる筋トレしたり、腹筋したりしたね。
◇
「久瀬原さんには、寝るまで筋トレさせられたよ。
公園があれば、合気道の型を教えてもらったり。
あれは、まさに鬼軍曹だった。
まあ、でも久瀬原さんの人の好さはすぐにわかったから嫌いに離れなかったけど」
未桜が、少し膨れっ面になっていた。
僕は、首を傾げる。
「どうしたの?未桜」
「だって、久瀬原さんが羨ましくて。
ずっと、尚弥くんと一緒にいられたんだから」
「いやいや、久瀬原さん。気のいいお兄さんだよ。
まあ、独身で夏季休暇とっても暇だからって四国にサイクリングにくるようなトレーニング大好きな人だし」
久瀬原さんは、25歳で独身。
自衛隊に入ってからは浮いた話もなく、トレーニングの毎日だったらしい。
「それでも、羨ましいんです。
私も、ずっと尚弥くんのそばにいたいのに・・・でも、帰らなきゃいけないのがホントいやです」
僕は、泣きそうな顔をしている未桜の頭を撫でる。
不意に手が伸びてしまった。
「僕は、どこにも行かないよ。
明日には退院だけど、僕はこれからずっと未桜と一緒だよ。
もう、未桜を残してどこかに行かないからさ」
未桜を宥める。
たぶん、僕はもう彼女を置いてどこかに行ける気がしなかった。
こんなに、愛してくれる人は他にはいないだろうから。
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