第27話 報復 -作戦会議2-

朝ご飯を食べ終わった僕たちは、事務所へと戻ってきた。


事務所には、母さんの他に昨日の刑事ともう1人女性がいた。


「あら、お帰りなさい」


「えっと、これで全員?」


「そうね」


刑事は、僕らに向かって会釈をしてきた。


僕らも応接セットに腰を掛ける。


「なおくん、こうして会うのは随分と久し振りね。

随分のカッコよくなって」


「ええ、そうですね。随分と久し振りな気がします。

おばさんは、随分と痩せましたね・・・」


おばさん・・・前嶋 瀬里の実母で前嶋 良子さん。


元々は、かなりふくよかなだった。


いまは、病弱な見た目になっている。


聞いた話では、仕事をいくつも掛け持ちしているらしい。


「貴女が、篠田 未桜さんね」


良子さんは、未桜に対して頭を下げた。


「ごめんなさい、女の子の顔に傷を残してしまって」


「そんなに気に病まないでください」


未桜は、僕の袖口を掴んでいた。


それを見て母さんが笑みを浮かべていた。


「良子さん、未桜ちゃんもこう言っているからまずは座ってください」


「湊さん・・・はい」


そう言って、良子さんはソファに腰を下ろした。


「では、昨日の件も含めて私から説明をさせていただきます」


そう言って、刑事は手帳を取り出し開く。


かなり几帳面なのだろう、横目で見える手帳の中身は綺麗にまとめられ文字がずらりと並んでいた。


「まずは、赤い蠍のメンバーは全員逮捕することができました。

九鬼組に関してはあまり詳しいことを言えませんが事実上解体になるでしょう。

前嶋 瀬里さんに関してですが・・・」


刑事が言葉を濁す。


まあ、実母がいるのだから仕方ない。


「まずは、覚醒剤の使用が確認されています。

それと、恐喝・暴行・窃盗の容疑・・・こちらは証拠を戴いていますので立件可能かと。

それと、虚言・・・記憶喪失については」


あいつ、覚醒剤を使用していたのか。


売人めいたこともしていたらしいしな。


「まず、僕の事を覚えていて過去のことが記憶にあるとするなら呼び方が違います」


「はい、それは私も知ってます」と未桜。


「ここにいる4人はそれを知っていますよ」と母さん。


昔の彼女は、僕を『なお』と呼んでいた。


それが変わったのは、中学3年の頃だった。


ここ、2年ほどは『尚弥』と呼ぶようになった。


「なるほど、確かにそれはおかしいですね。

私も、病院に伺った時には『尚弥』と呼んでいましたし、本人は小学生だと言っていましたから」


刑事は、手帳にメモを残していく。


「ただ、彼女は未成年ということで覚醒剤の件があったとしても減刑は免れません」


そっか、少年法か。


つまり、あいつはのうのうと戻ってくるかもしれないのか。


「それと、前嶋 茂。

彼は、懲役刑は確実につくと思います」


「はい、あの人がそんなものにまで手を出していたとは・・・これで私はあの人から解放されます」


ずっと、黙って聞いていた良子さんが口を開いた。


決意を固めたようなまなざしで刑事を見ていた。


「私、離婚をしようと思います・・・それで、瀬里を連れて実家に戻ろうかと」


「良子さん、それがいいわ。

もう、きっぱりろくでなし夫の事なんて忘れてしまいましょう」


良子さんは、涙を流していた。


彼女も抑圧されて生活をしていたのだろうな。


その時だった。


刑事のスマホが鳴り出したのは。


「すいません」


「いえ、どうぞ」


そう、母さんが返した。


刑事は、着信に出る。


「はい、暮畑です。はい、はい。

え!わかりました」


刑事は、手短に通話を終わらせた。


そして、釈然としない面持ちになる。


「皆さん、落ち着いて聞いてください。

前嶋 瀬里さんが病院を抜け出しました」


まだまだ、あいつには振り回されるようだ。


めんどくさいな。


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次回、報復 -逃亡-に続きます。

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