第21話 復讐 -最初の一手-
あれから、1時間ほどの時間が経った。
母さんと話をしていると誠二叔父さんが料理を運んできてくれた。
どうやら、母さんが手配してくれたみたいだ。
料理のラインナップは僕の好きな物だった。
未桜も美味しそうに食べてくれていたのでよかった。
「二人共準備で来たわよ」
母さんは、伸びをしながら僕らに話しかけてきた。
僕らは、事務所にある応接セットに腰を掛けて料理を食べていた。
「あ、そのまま食べてていいわよ」
僕らは、お昼抜きの夕方・・・すっかり夜まで来てしまっていてお腹が空いていた。
もうすぐ、19時目前だった。
「尚弥には最初の一石を投じてもらおうと思うわ」
僕は、本当は彼女に関わりたくはなかったけど、家族に迷惑が及んでいる以上覚悟を決めなくちゃ。
「わかったよ、僕は何をしたらいいの?」
「これ渡してきて」
そういって母さんが出したのは、請求書だった。
その金額は、124万5千円だった。
「これが、8月に豪遊していた食事代分だけよ。
もうすぐ、警察が来るから彼らと一緒に行ってきてほしいの。
未桜ちゃんは、私とここで待っていてね。
たぶん、とても危険なことになるから」
「それだと、尚弥くんも危ないんじゃ」
「あら?尚弥、なにかやったわよね?
歩き方が前と違うから」
僕は、驚く。
歩き方でわかる物なのかと。
「四国で出会った人に護身術を習ったんだよ。
四国にいた1週間だけだったけど大体の基礎は習ったかな」
「え、そうなの?尚弥くん凄いね」
キラキラ瞳で未桜が僕を見ていた。
大阪でヤンキーに怪我をさせられ、フェリーで出会った男性。
その男性と四国の間一緒にサイクリングをした。
その時に、護身術として合気道を教えてもらった。
あの時、教えてもらったおかげでその後の旅は比較的安全になった気がする。
プルルルルと部屋に備え付けの電話が鳴る。
「はい・・・ええ、分かったわ」
ガチャっと音を立てて受話器を置く。
「尚弥、来たみたいだから」
「ああ、わかった。行ってくるよ」
「尚弥くん、気を付けてね」
「ありがとう、未桜。行ってきます」
僕は、事務所を出ようとした。
すると、母さんに止められる。
「尚弥、イヤホン持ってる?」
「持ってるよ」
「じゃあ、スマホに接続していきなさい」
「指示出してくれるってことだね」
「ここからでも、向こうの様子が見れるから」
実は、この事務所にはファミレス側の監視カメラもモニターできるようになっている。
僕は、スマホにイヤホンをペアリングする。
「未桜、悪いんだけど」
「いいよ、えへへ。うれしいな」
未桜は、嬉しそうに笑っていた。
僕は、彼女のスマホに電話をする。
そして、通話が繋がる。
『もしもし?尚弥くん聞こえる?』
「聞こえるよ、じゃあ行ってきます」
僕は、ズボンのポケットにスマホを入れる。
そして、事務所を出ていく。
一人になったら、胃が痛くなってきた。
胃がムカムカする。
脚がガクガク震える。
通路を出るまでには、平静を装わないと。
深呼吸をして歩き始める。
更衣室のある方の通路から出るとスポーツジムの受付へと出た。
そこには、青い制服を身に纏った男性の警察官が2人立っていた。
「来ていただいてありがとうございます。当スポーツジムの経営者の息子で新藤 尚弥といいます。
よろしくお願いします」
「新藤さん、こちらこそよろしくお願いします。
では、行きましょう」
僕は、警察官と共にファミレスへと向かった。
外を見ると敷地の外をパトカーが取り囲んでいた。
大捕り物になりそうだな。
『尚弥、そろそろ例のグループがレジへ向かったわ。
いいタイミングね』
僕は、警察官に合図をしてその場で待ってもらうことにした。
そして、自動ドアを開けてファミレスに入る。
「尚弥の叔父さん、今日も尚弥のツケでよろしくね」
ちょうど、前嶋さんの声が聞こえた。
いいタイミングだ。
「ここにツケ払いなんてないぞ」
「げ、尚弥」
「前嶋さんには、これを渡しておくね。
払うまで帰れないから」
僕は、母さんから渡された請求書を彼女に突き付けた。
前嶋さんは、その紙を受け取るとその額に驚愕して顔を青くした。
そして、走って逃げようとする。
僕は、そんな彼女の足を引っかける。
前嶋さんは、盛大にずっこけて床に顔をぶつけ・・・動かなくなった。
それを見ていた彼女の取り巻きたちが我先にとファミレスを飛び出していく。
だが、敷地の入り口はパトカーが塞いでいるのですぐに捕まるのだった。
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