第1章 追憶1

第11話 旅愁 -豊橋-

終業式の後、僕はテントや旅行に必要そうなものを持ってマウンテンバイクで旅に出たんだ。


最初は、背負って旅を始めた。


まったく、あの時まではそれが最適解だと思ってたんだ。


それは、またあとからにするね。


浜松駅から志都呂方面へ走り、浜名湖の南側を目指したんだ。


確か最初は弁天島に向かった。


実は、弁天島に着いた頃には汗びちょだったよ。


終業式のあとだから、昼過ぎだったし7月だからね。


1時間も経つ頃には、流石に。


まあ、あの時の僕は運動不足だったこともあるけど。


それからは、道なりに大きな通りを進んで豊橋まで辿り着いた。


大体、5時間くらいかな。


休み休みだったけどね。


それで、テントが張れるとこってないかなあと探したんだけどさ。


なかなか見つからなかったんだよね。


駅前をふらふらしてるとあるおじさんに話しかけられたんだ。


「坊主、自転車旅行か?」


「え、あ。はい」


「いいじゃないか、若いというのは・・・でも、初心者だな。

よし、着いてこい」


僕は、ガタイの良いおじさんに連れられて彼の家に行ったんだ。



「なあ、新藤。

知らない人について言っちゃダメだと思うんだけど」


話を遮って、男子の一人がそう言った。


まあ、僕も最初はそう思って警戒はしてたんだけど。


「いやぁ、あの人強引でさ。

まあ、悪い人じゃないんだよ」


「ねえ、その人は誰なの?」


「えっと、そのおじさんは自称自転車旅行の達人で加賀美さん。

自転車屋さんで若い頃は競輪の選手だったらしいよ」


この日、加賀美さんに出会わなかったら僕は旅を続けられなかったかもしれない。


「その日は、加賀美さんの家にお世話になってさ。

旅の心得みたいなものを教わったんだ。

この旅行の師匠かな。

実は、この日前嶋さんから執拗に連絡が送られてきて精神が限界に来ていたから加賀美さんの陽気な雰囲気には精神面でも助けられたんだ」


この日までは、瀬里の連絡は見ていた。


僕をあんな風にフッてもお構いなしに送ってくるんだ。


「え、待って。新藤くん。

フッたその後も連絡してきてるの!?」


「うん、『ジュース買ってきて』『ついでにアイスも』『ちょっと早くしてよ』『既読スルーしてんじゃねえよ』ってね」


「新藤くん、どうしてあんな子を好きになったの?」


いや、そう言われるのも無理ないよね。


僕も、どうしてあんな奴好きになったんだろうって今では思う。


考えるだけで気持ちが陰鬱になる。


「今の僕には、もうわからないかな。

なんで、好きになったんだろう」


「待ってよ、1ヶ月半で想いを断ち切るほど新藤くんになにがあったの?」


「えっと・・・この夏台風っていくつあったけ?」


「上陸したのは確か4つだったはず・・・いや、新藤は関西・四国に向かっているんだから」


「あれ?その頃って災害級の台風なかった?」


そう、その台風。


僕は、その台風に巻き込まれている。


あれは、三重・和歌山辺りにいた頃だったはずだ。

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