第12話 お母さんからの電話1
ソファーで一休み中の千世は宿題を普通に解く。それから作り置きしていたご飯を温めて軽く食べていた。
すると当然のことだった。
またしても千世のスマホがプルプル震える。
「あれ?」
スマホを取り出してディスプレイを見る。
こんな時間に誰からだろう? 首を捻る千世だったけど、そこに表示されている名前に驚く。
「うっ!」
食べていたバターチキンカレーが喉に詰まりそうになる。
お茶を一気に飲み干すと、「はぁはぁ」と息遣いが荒くなった。
「お、お母さんから? 何でこんな時間に?」
って、こんな時間じゃないとありえない。
千世は
「もしもし」
『あっ、千世! ごめんね、こんな時間に掛けちゃって。そっちはあれでしょ? 今、夜の八時くらい?』
「うん。お母さんの方は朝方かな?」
『そうよ。こっちはね、ちょっと蒸し暑い朝を迎えたところ』
聞いているだけで「うわぁ」と言いたくなる。
だけど声には出さないようにして飲み込む千世は、母親である千里に尋ねた。
「それで如何したの? こんな時間に電話を掛けてきたけど……」
『その前にテレビ通話にしてくれる?』
「あっ、うん」
千世はアプリを使ってテレビ通話にした。
するとスマホの画面いっぱいに千里の顔が映り込む。確かに
『やっほー、千世。元気にしてる?』
「うん、お母さんも相変わらずだね。調査の方は上手く行ってるの?」
『ええ、それはもう。えーっと、ちょっと待ってね。じゃじゃーん! 如何、この宝石凄いでしょ? 特大サイズの魔石。何と魔力を持ったサファイアよ!』
千里は青くて綺麗な石を見せてくれた。
如何やら魔力を含むサファイアのようで、とって綺麗。本物のサファイアを見たことはないけど、千世の視線が釘付けになる。
「ダンジョンってこんなのも見つかるんだね」
『そうみたいね。これも千世が送ってくれて映像を見て確認したのよ』
「あ、あの映像でもクリスタルが手に入ったね」
『そうそう。アレよりも魔力の量は少ないと思うけど……それにしても千世に頼んで正解だったわ。ありがとう、千世』
千里は千世に感謝する。
ダンジョンの資料が欲しかったのは、このサファイアを研究するためだ。
アメリカの大学で若くして教授を務めるほどの千里は、ダンジョン探索者としても超一流。
その腕を遺憾無く発揮するためにも、情報は集めておいて損はない。だけだ誰とも分からない相手に任せることもできないので、千世に頼んだのだ。
もちろん千世を危険な目に遭わせたくはない。
だけど千世ならきっと大丈夫と危ない橋を渡った結果、今に至っていた。
「大変だったけど、上手く行って良かったよ」
『本当にありがとう。あっ!」
「な、何!?」
千里は思い出したように千世に尋ねる。
『そう言えばあのクリスタルは如何したの?』
突然のことで何かと思った。
千世は困惑したものの、「あー」と言いながらサファイアの代わりに見せびらかす。対抗意識を見せてしまった。
「ここにあるよ」
『えっ、あるの! うわぁ、それがダンジョン産の加工済みクリスタル……よく、手元に残せたね』
「う、うん。危険なものじゃないからね」
一応市役所に持って行った。
だけど特に危険性もなく、魔石は百パーセント買取必須でもない。普通の人が下手にいじれるものじゃないからと言うことで、手元に無事に残せた。
「だけど如何したらいいのかな?」
『如何したらって?』
「このクリスタル、部屋に置いておいてもいいんだけだ……飾るにしてもちょっと小さめで、軽いんだ」
『千世の手のひらサイズだもんね。うーん、千世は手先器用よね?』
「う、うん」
千世は躱すこと受け流すことは得意。
だけどそれだけではなく、指先がとっても器用だった。
昔から千里に稽古をつけてもらった時に、如何したら怪我をしないのか自分で考えた。
そこで指先を柔らかくして設置面を減らす。つまり受け流す技術を高めた。それが今に活きていて、文字が丸っこくて可愛くなった。
『それじゃあペンダントでも作ってみたら?』
突然変なことを言われた。
アクセサリーを使ったことはないし道具もないのに、そんなの上手くいく訳ない。後ろ向きな千世が舞い戻るも、千里はそれを見越す。
『道具なら倉庫に使っている部屋に置いてあるから、自由に使っていいわよ』
「い、いいの?」
『もちろん。可愛い私の娘のためだもの』
ちょっとだけ恥ずかしくなる。
千世の顔色が赤くなるものの、千里はにこやかな笑みを浮かべる。揶揄われているのではなく、本心から出た言葉に余計な熱を帯びる。
「そ、それじゃあやってみるね」
『うん。あっ、それと……』
「まだ何かあるの?」
千世は固まる。すると千里はこう言った。
『ダンジョン探索は危険がいっぱいだけど楽しい所よ。きっと千世も変われるわ。これからも頑張ってね』
一方的だった。千世は反応に困るものの、口から出まかせの「うん」が出てしまう。
それを聞いた千里は安心して先にテレビ通話を切ってしまうものの、千世は困る。
「あっ、まだ私の意見言ってないのに!」
今のは単なる相槌だった。
それを肯定と取られてしまい、千世は項垂れるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます