第13話 新しい武器を見つけた
千世の家はちょっとだけ大きい。
豪邸かと言われればそんなことはないけれど、部屋数は少し多くて廊下も広い。
それもこれもお母さんである千里の研究資料などがたくさん整理されているせいもあり、結果として広い家になった。ちなみに二十年前に改修したそうだけど、何と一括払いだったらしい。凄い話だ。
「えーっと、うわぁ」
千世はある部屋の前で立ち止まる。一旦深呼吸をしてから扉をガチャっと開けると、フローリングの床が極端に見えない部屋がお目見えする。
「ううっ、この中から探すの」
倉庫にしている部屋はとにかく色んなものがダンボール箱の中に詰め込まれていた。
その中から狙ったものだけを無作為に探すなんて当然できっこない。
「何処にあるのかな……あった」
部屋に入ってキョロキョロ見回す。
するとダンボールではなく、透明なケースに油性マーカーで[アクセサリー]と書いてある。
「この箱の中に……何これ?」
中にはたくさんのアクセサラー素材が入っていた。
金属の重厚感のあるものから、アルミ製の軽いもの、レザー素材のベルトに使えそうなアイテムまで様々。何を使ったらいいのか分からなくなるが、とりあえずクリスタルが大きいので型を取るタイプにする。
「後他には……何これ?」
千世は首を捻る。
ダンボール箱の中から飛び出している棒が見えた。
青紫色をした布に包まれているけれど、明らかに梱包が緩い。多分適当に巻いて紐で結んだんだ。お母さんらしいなと、千世は思う。
「気になる……如何してだろ」
無性に気になって仕方ない。千世は見えているフローリングの床を爪先で踏みながら、棒に近付く。
流石は千世というべきか、一切他のダンボール箱にぶつかることも掠ることもなく、爪先と踵の体重移動だけで躱しきる。
「後ちょっと……それ!」
千世は腕を伸ばした。
棒っぽいものに指を伸ばし、グッと体重を後ろに傾けて回収する。
棒を引っ張り上げると、ちょっとだけ重たかった。
一体何だろうと思いつつ、座れる所まで戻る。
「何が入ってるのかな?」
千世は紐を解き、袋状になっていた布を取ってみた。
すると中には思いがけないものが入っていた。明らかにコレは柄だ。
「もしかして剣かな? 刀とか?」
それにしては軽い気もする。
日本刀って実際一キロくらいあるらしいけど、この棒は多分四百グラムくらいしかない。
「しかも刀じゃないよね?」
この間、市役所で貰った剣はおもちゃみたいだった。それもそのはず百円ショップとかで売ってるような代物で、リアリティは限りなく低かった。
「もしかして普通の剣の模造品かな?」
千世は布を剥がして中身を取り出す。
思った通り模造品の剣のようだけど、ちょっと変だった。お店で売っているような完成度が限りなく高いものと比べると、少し荒っぽい。だけど宝石のようなものが欠片程度だけど散りばめられていて、オリジナリティを感じた。
「これってお店で売ってるものとは違うよね? それにとっても持ちやすい。何でだろ?」
何故か千世の手にフィットした。
千世はそこまで手が大きい方ではないから、大人用の剣のおもちゃとかだと少しだけ足りない。
だけどこの剣は指先に食い付くようで、しかも宝石がキラキラし始める。
「もしかしてお母さんが作ったのかな?」
そう思ってヒントを探す。
すると案の定取説が入っていて、千里の文字がスラスラ綴られる。
「えーっと何々。[千世へ。もしもこの剣を見つけたら使ってもいいよ。散りばめられている宝石はダンジョンで採れる純度の高い魔石を砕いて混ぜたもので、お母さんが昔使っていたものだから。持ち手の柄の部分は新品に変えてあるけど、合わなかったら工具箱に入っている替えを詰め替えて使ってね。良きダンジョンライフに祝福を!]って、最初から用意してたんだ」
千世は苦笑いを浮かべた。
それならそうと最初から言って欲しかったし、この紙も文字の掠れ具合もここ最近のもの。
多分今年のお正月に帰ってきた時に書き残したんだと思うけど、そこからこうなることを予期したいなんてもう異次元のレベル。流石の娘である千世も話にならないくらい遠い存在に感じる。
「でもありがたいな。後でお礼言わないと」
とは言え電話は恥ずかしい。
ROADの機能を高いメッセージを送ることにした千世はありがたく使わせてもらう。
丁度剣が折れて困っていた。
ダンジョンではおもちゃでもちゃんと加工していたら武器になってくれるので、魔石が散ってあるなら間違いない。
千世は安心して使うことができ、表情がホッとする。
「で、でも、それを貰ったらもっと頑張らないと……ううっ、プレッシャーだよ」
千世は一人でうずくまる。
変なプレッシャーを自分で放ち壁を作ってしまう、後ろ向きな性格は未だ健在だった。
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